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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第六章 日常? 非日常?
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論争再び

 力強い笑みを浮かべた綾川先生は「言えないこと、言いたくないこと、いろいろあると思う。だから、まずは信頼に出来る大人に相談して行動しなさい。もちろん、我々を信じてくれるなら全力を尽くすぞ」と断言してくれた。

 昭和の時代は人権に関して、まだ認識が緩かったと聞いていただけに、スゴく気遣ってくれている言い回しに、軽い感動がある。

 この世界の外から来た私だからそう思ったのかとも思ったのだけど、千夏ちゃんも感動しているように見えた。

 追い込まれた状態で手を差し伸べて貰えるのは、単純に心強いし、先生達からはせいを感じるので、当然だと思う。

 千夏ちゃんの友人でしかない私が思うのはおこがましいかもしれないけど、それでも、心許せる人、頼れる人が増えるのは単純に嬉しいし、心強く思えた。


「凛花ちゃん、良枝先輩、お付き合いありがとうございました」

 進路相談室を出るとすぐに、千夏ちゃんはそう言って腰から深く頭を下げた。

 お姉ちゃんは「そんな改まる必要は無いわ。千夏ちゃんは大事な後輩だし、今ではもう一人の妹って感じだしね」と笑みを交えて答える。

「私も気にしないで欲しいな。友達として当たり前だし、私も家族みたいに思えているしね」

 私がお姉ちゃんに続いて、そう伝えると、千夏ちゃんはガバッと上半身を起こした。

 綺麗に結ばれたツインテールを跳ねさせながら、グッと私に顔を近づけてきて「私も家族だと思ってるけど」と笑顔で言い放つ。

 何で、笑顔なのに、非定型の言い回しなんだろうと、疑問を感じたところで、千夏ちゃんは「私がお姉ちゃんで、凛花ちゃんが妹だよね?」と言い出した。

「また、その話?」

 思わずジト目になってしまった私に、千夏ちゃんは「姉妹といえど、どちらが上かは大事よ! 双子でも姉と妹は決まっているモノね!」と言う。

 どう考えても、私の方が、()()()()()確実に年上なので、姉だと思うのだけど、千夏ちゃんは自分が姉だと思い込もうと……いや、無理矢理既成事実化しようとしているので、如何に説明を尽くしても受け入れてくれ無さそうだ。

 なので、私はうやむやにするために、千夏ちゃんの意識の矛先を変える手に出る。

「千夏ちゃん」

「なに? お姉ちゃんで良いのよ、凛花ちゃん」

 何故か薄く笑みを浮かべている千夏ちゃんに、口がもにょもにょしそうになったモノの、どうにか堪えて「お姉ちゃんはもう一人の妹って言ってたけど、妹が私一人とは言ってないよ」と指摘してみた。

 私の発言は完全に意表を突いていたようで、千夏ちゃんは「え?」と声を漏らして目を丸くする。

「お姉ちゃんの頭に浮かんでる妹は、私と千夏ちゃんだけとは、限らない……よね?」

 含みのある言い方をしたお陰か、千夏ちゃんは意識を私の発言の吟味に向けてくれたようで、少し考えたところでハッとした表情を見せた。

 恐らく誰か思い当たったんだろうなと思いながら見ていると、千夏ちゃんはお姉ちゃんに振り返って「よ、良枝先輩は、何人もの女の子に、君は妹って言ってるんですか!?」と尋ねる。

 そんな千夏ちゃんに対して、お姉ちゃんは肯定も否定もせず「あら、千夏ちゃんは私がそんな姉だと思っているの?」と切り返してきた。

 対して、千夏ちゃんは「え……っと」と言葉を詰まらせてしまう。

 私の経験則からすると、こういう形で発言を止められてしまうと、もう一歩踏み込んで問い掛けるのは難しくなり、形勢は決まったも同然だった。

 そして、私の余り望んでいない方向に自体が動く。

「良枝お姉ちゃんはそんな人じゃ無いと思うよ、凛花ちゃん」

 言葉を詰まらせた結果、千夏ちゃんは私に矛先をこちらに向けてきた。

 千夏ちゃんの後ろで、浮かべたお姉ちゃんの薄い笑みは、この状況を楽しんでいるとしか思えない。

 ここで千夏ちゃんを飛び越えて、お姉ちゃんに攻撃する方法を考えたのだけど、私には「いや、でも……」と口にするのが精一杯だった。

 そんな私に、千夏ちゃんは更に踏み込んでくる。

「じゃあ、具体的に誰が良枝お姉ちゃんに妹って言われたの?」

 急所を的確に捉えた問い掛けに、私は何も言えなくなってしまった。

 例えば、ユミリンに言ってそうだとは思うのだけど、私にはその場面を目撃した記憶は無い。

 この場にいないユミリンを引き合いに出しても、上手くかわされてしまうし、そもそも私の推測に過ぎないので、そんな事実は存在しない可能性だって小さくはないのだ。

 そう思って黙るしかなかった私に、千夏ちゃんは「大丈夫、私は凛花ちゃんから良枝お姉ちゃんを取ったりしないし、妹の凛花ちゃんも大事にするから、だから安心して!」と胸を叩く。

 その上で、千夏ちゃんに少し寂しげな顔で「いつまで一緒に暮らせるかわからないけど、その時まで仲良し姉妹でいてください」と言われて、頭を再び深く下げられてしまったら、これ以上何も言えなくなってしまった。

 何しろ、大人しく私が妹と言うことを受け入れた方が明らかに丸く収まるのである。

 私はもの凄く、とてつもなく、不本意ながら受け入れる覚悟を決めた。

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