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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第六章 日常? 非日常?
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報告と相談

 皆で遅くまで話し合いをして、お父さんが車で送ってくれるという夜を挟んだ翌日の放課後、私たちは進路相談室という特別室にいた。

 まず、この進路相談室は、鍵が掛かる部屋になっている。

 問題を起こした生徒が、保護者立ち会いの下、教師陣と協議をしたり、公に出来無いプライバシーの高い相談で使われているので、一般の生徒には縁の無い部屋でも合った。

 実際、同席しているお姉ちゃんも入室どころか、そもそも訪れること自体なかったらしい。

 そんな事情があるせいか、珍しく緊張した様子でお姉ちゃんは室内を見渡していた。

 今、ここに同席しているのが、私のクラス担任の綾川先生だけというのも、原因かも知れない。

「林田さんのお姉さんは、この部屋が気になるようだね?」

 ふと、綾川先生がお姉ちゃんの様子に気が付いたようで話しかけた。

 お姉ちゃんが視線を向けると、綾川先生は「純粋に、妹さんに似て、君も好奇心が旺盛そうだなって思ったんだよ」と直前の発言の理由を口にする。

 そう言われたお姉ちゃんは、グイッと私の首に腕を回せて自分に引き寄せると「姉妹ですから」と返した。

「仲が良さそうで、羨ましいよ」

 綾川先生に「ありがとうございます」とお姉ちゃんが返したタイミングで、少し遠慮がちに相談室のドアがノックされる。

「はい」

 サッと立ち上がりながらドアの前に移動した綾川先生は、そのまま軽くドアを開けた。

 ほんの少し、自分が外を確認できる程度だけどあを開けた綾川先生は、訪問者を確認して「もう、二人は来ているよ」と言いながら招き入れるように、ドアを更に大きく開く。

 お姉ちゃんがそれを見てその場で立ち上がり、出遅れた私も慌てて立ち上がったところで、ドアの隙間からミヤちゃん先生こと、美弥子先生が顔を見せた。

 更に、その後ろから、少し緊張した表情の千夏ちゃんが顔を覗かせる。

「遅くなりました-」

 頭を下げながら相談室内に入ってきた美弥子先生に続いて、千夏ちゃんも「失礼します」と言って入室してきた。

 私とお姉ちゃんが視線を向けると、千夏ちゃんの口元に小さく笑みが浮かぶ。

 表情が和らいだことにほっとしたタイミングで、綾川先生が「美弥子先生は私の隣、斎藤さんは林田姉妹の隣に座ってくれ」とは行ってきた二人に伝えた。

「はーい」

 少し間延びした返事をして美弥子先生が席に着き、千夏ちゃんは「は、はい」と慌てて私たちの方へ駆け寄ってくる。

「千夏ちゃんはここね」

 出迎えたお姉ちゃんはそう言って私と自分の間の席を示した。

「え? 何で、私が真ん中なんですか?」

 驚いた様子で言う千夏ちゃんに、私が「今回の主役は千夏ちゃんだからだと思うけど」と返す。

 千夏ちゃんは私の私的に「あー」と漏らしてから「そう言えば、そうか」と頬を掻きながら席に着いた。


「本当は、林田のお姉さんの担任にも加わって貰った方が良いかとは思ったんだが……」

 そう切り出した綾川先生に、お姉ちゃんは「いえ、私は付き添いみたいなモノですし、もし必要があれば、後日改めて話せば良いことですから」と首を振りながら答えた。

 お姉ちゃんはそこで一拍挟んでから「内容はおおよそ聞いていらっしゃると思いますが……」と切り出す。

 同時に綾川先生と美弥子先生の表情が引き締まった。

「実は千夏ちゃんのお父様が、仕事の都合で、帰宅が困難な状況にあり、帰ってこられても、深夜になってしまうようで、千夏ちゃんは、現在、一人暮らしに近い状態にあります」

 昨晩話し合ったこととは言え、お姉ちゃんはつっかえることもなくスラスラと説明を進める。

「加えて、千夏ちゃんは今年の四月、入学に合わせてこちらに引っ越してきたので、近所の方とのお付き合いが無い状態です」

 事実とは言え、決して気持ちのいい内容とは言えない内容に、思わず心配で、私は千夏ちゃんを見た。

 千夏ちゃんは真っ直ぐ先生達を見据えたまま、少し緊張気味の表情を保っている。

 それが無理しているようで心配だったのだけど、助けを求めるように、私の手を千夏ちゃんの手が握ってきた。

 支える気持ちを込めて、私は千夏ちゃんの手を握り返す。

 僅かに千夏ちゃんの口元に笑みが浮かび、ほっとしたところで、お姉ちゃんが結論に踏み込んだ。

「お母様の事もあって、今は一人にするのは酷だと考えた母が、千夏ちゃんのお父様の了承を得て、しばらく我が家で過ごして貰うことになった次第です」

 相談と言うよりは、結果報告に近い内容に、綾川先生は「そうか」と頷く。

 美弥子先生は「ご家族も同意の上という事ですね?」と確認するように問うてきた。

 お姉ちゃんは「はい」と頷いてから「相談と言うよりも事後報告のような形になって済みませんでした」と続ける。

「いや、教師と言っても家庭でのこととなると、限界がある……むしろ、積極的に動いてくれたことに感謝しかない」

 綾川先生はそう返してから「ところで、林田のお姉さんは受験があると思うのだが……」と少し言い難そうに尋ねる。

 対してお姉ちゃんは「千夏ちゃんを迎えたぐらいで揺らぐ様な成績ではないですから」と堂々と断言して見せた。

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