決断
「それなら、良い方法があるわよ」
そう言って切り出したのはお母さんだった。
当然のように、皆の視線が、お母さんへと集まっていく。
お母さんは皆の視線が自分に集まりきったところで「凛花なら、押せるでしょ? 録画ボタン」と言い出した。
「えっ!?」
思わず何を言い出したんだと思って、私が固まっている間に、お母さんはノリノリでとんでもないことを言い出す。
「知っている子もいると思うけど、凛花は霊能力者なのよ!」
「「えぇっ!!」」
驚きよりも、好奇心や喜びの感情が強い声を上げたのは、茜ちゃんとオカルリちゃんだった。
正直、私も驚きの声を上げそうになったけど、固まっていたお陰か、口が開いてしまったものの声は漏れ出ていない。
慌てて口を閉じて平静を装っている間に、反応が薄かった周りの様子を確認した上で、委員長が「なるほど……驚いていない人は知っていたってことね」と口にした。
その後で「皆が、凛花ちゃんを特に護ろうとしているのには、そういう事情もあった分けね」と口にした委員長は、何か納得いくことがあったらしく、何度も頷いている。
ここでいつの間にか真横に移動してきていたオカルリちゃんが目をキラッキラに輝かせて「ハヤリン! いえ、凛花様、お話を聞かせて貰っても、よろしいでしょうか!?」とくっつきそうな程近くまで顔を寄せて来た。
「え!? あ……」
すぐ違反の腕着ない私に代わって、史ちゃんが「るさん。凛花様に近づきすぎです」とオカルリちゃんの顔に手を当てて無理矢理押す。
が、普段ならすぐに引き下がるオカルリちゃんも「フミフミ、私も聞かずにはいられないんだよぉ~」と首の力だけで史ちゃんの押しに退校して見せた。
このままだと、二人とも怪我しかねない。
そう思うと戸惑いは一瞬で消え去った。
「待って、二人とも、ちゃんと話をするから、まずは落ち着いて」
私がそう言うと押し合っていた二人の力が緩む。
「まず、えっと、オカルリちゃんの質問は、答えられる範囲は全部答えるので、落ち着いて」
私のお願いにオカルリちゃんは「は、はいっ!」と返したところで、ハッとした表情を見せた。
その後で、史ちゃんに向かって「ゴメンなさい、フミフミ。つい興奮が爆発してしまって」とオカルリちゃんは頭を下げる。
史ちゃんは「凛花様に危害が加わらなければ、それで良いので、ちゃんと自分を保ってください」と返し、オカルリちゃんは素直に頷いた。
「興奮しすぎて、配慮に欠けた行動をしてしまって、申し訳ありませんでした」
改めて頭を下げるオカルリちゃんに「大丈夫、気にしないで、なんとなく、気持ちはわかるし」と伝えた。
オカルト大好きなオカルリちゃんにとって、手の届く距離に『霊能力者』が現れれば、冷静さを欠くのは仕方が無い。
「ありがとう、凛花様。ちゃんと気をつけるので、お話を聞かせてください」
サラリとオカルリちゃんが、史ちゃんみたいな凛花様呼びになっているのが気になったけど、そこは敢えてスルーして「一応、特別な力はある……けど、これが霊能力かはわからないよ」と告げた。
「もちろんです! 霊能力とか、超能力とか、名称なんて何でもいいんです。ただ、凛花様が特別な力を持っていて使えて、しかも自覚があって、説明も実践も出来そうと言うことが重要なんです!」
熱弁を振るうオカルリちゃんの姿に、いつかの史ちゃんが重なったけど、それを言うと新たな衝突が生まれそうな気がしたので、口には出さず「そうなんだね」と曖昧に頷くに留める。
ここで、委員長が「その、凛花ちゃんを疑うわけじゃないけど、その……どうやってスイッチを入れるの? リモコンみたいな事をするって事よね?」と質問を投げ掛けてきた。
元々お母さんが言い出したことなので、私の中には明確な答えが無い。
自然と視線を向けると、お母さんは「リー……」と口にして、何かに気付いた様子を見せた後、気まずそうに視線を逸らした。
頭の中で『サッちゃんは、わらわに仕事をさせようとしたようじゃの』とまるで他人事のようにリーちゃんが呟く。
確かに、リーちゃんが潜んでいて、監視しつつ、侵入者がいれば録画スイッチを入れれば、システムとしては完成だ。
けど、どこまで皆に私の能力やリーちゃんの存在を明かすかという問題が出てくる。
リーちゃんが遠慮がちに『サッちゃんは千夏の安全を優先しただけじゃから……』と、かなりやらかしたお母さんのフォローをした。
気持ちが先行しがちなのは林田家の伝統なので、正直、責めるわけにも……いやs、そもそも責めるつもりはない。
問題は情報の公開をどこまでするか、だけなのだ。
皆の視線を集めたまま、澄まし顔で誤魔化しているお母さんの態度に笑いそうになりながら、気持ちを定める。
「私は人形に魂を宿すことが出来るんです」
そう私が口にすると、皆の視線が一瞬でこちらに集まってきた。
頭の中で情報を共有しているリーちゃんが『いいんじゃな?』と問うてくる。
リーちゃんに『もちろん』と返事をしてから、私は「これが私の能力です」と言って右手を水平方向に伸ばした。




