集団下校
帰り道はオカルリちゃんと打ち合わせをしつつだったのもあって、解散することなく、オカルリちゃん、史ちゃん、加代ちゃん、千夏ちゃんに、まどか先輩、ユミリン、加えて新メンバーとして、委員長と茜ちゃんも一緒に林田家までついてきてくれた。
かなり大人数になってしまったけど、人数が多い方が、千夏ちゃんも精神的な余裕を得られるだろうと思う。
周りの景色に興味津々と言わんばかりの様子で視線を周囲に巡らせながら、茜ちゃんは「なんだか、集団登校を思い出すね」と笑みを浮かべた。
「茜、ウチの学校はあったけど、無い学校もあるみたいだわよ」
委員長の切り返しに、茜ちゃんは瞬きをしてから「え、集団登校ってどこの学校でもあるんじゃ無いの!?」と驚きの声を上げる。
これに、ユミリンが「ウチはなかったな、なあ、リンリン?」と反応して私に話を振ってきた。
この世界にお邪魔させて貰ったばかりの私に、集団登校があったかどうかもわからないけども、ユミリンが私を騙すような話の振り方はしないだろうと考えて「う、うん」と曖昧に返す。
内心ではドキドキしながらの返事だったのだけど、お姉ちゃんがすぐに「まあ、私が小学生の頃は、私と凛花と由美ちゃんで通学してたし、集団登校みたいなモノだったわよね」と言ってくれた事で、ホッと胸を撫で下ろすことが出来た。
「なるほどぉ、学校毎にルールって違うんだねぇ」
興味深いと言わんばかりに大きく頷いた茜ちゃんは、好奇心の赴くまま千夏ちゃんに視線を向ける。
「千夏ちゃんって、他の地域から引っ越してきたんだよねぇ?」
急に話しかけられたのもあって、少し反応に遅れたものの、千夏ちゃんは「あ、うん」と頷いた。
「えっと、嫌じゃなかったら、千夏ちゃんの学校がどうだったか聞いてもいいかなぁ?」
首をコテンと傾げながら、茜ちゃんは微笑みを浮かべたまま尋ねる。
対して、千夏ちゃんは「あったよ、集団登校」とあっさりと答えた。
「そうなんだー、じゃあ、凛花ちゃんたちが特別だねぇ」
にっこりと微笑みながら、急にこっちに話を振ってきた茜ちゃんに「そ、そうだね」と頷く。
茜ちゃんは私の返しを見たところで、一旦動きを止めて「う~~ん」と唸りだした。
急に唸りだしたのもあって、思わず「ど、どうかしたの、茜ちゃん?」と尋ねてみる。
すると、茜ちゃんは私の方に視線を向けて「えっとぉ、集団登校ってぇ、何で、やったり、やらなかったりするんだろぉ?」と傾げていた首を反対に倒した。
基本的に、集団登校は学校の裁量に委ねられているので、事情は学校によると言える。
一番大きいのは危険回避という要素だ。
通学路の危険性によって、導入していることが多い。
交通量の多い道路では歩道の整備不足、あるいは険しい山道など、通学路自体が物理的に危険なケースや、不審者の目撃例や痴漢の出没など、犯罪的危険が見込まれるケースなどだ。
他にも、上級生が下級生の面倒を見ることで、お互いの成長を促すためとか、地域の慣習だとか言った理由もある。
なので、一概に答えられない質問だった。
ところがこの難問に、委員長は『学校毎に理由があるから、明確な答えはないわね。まさに学校による、ね」と簡潔かつ明確な答えを示す。
「ちなみに、私たちが通った小学校は、学年の違う生徒の顔合わせが主目的ね。ほら、子供会とかでも顔を合わせたりするから、集団登校のメンバーとはよく一緒になったでしょう?」
言い加えた実際の理由の説明も淀みなく、茜ちゃんも「一緒になったねぇ」と大きく頷いた。
二人のやりとりを聞いていた私は、一人の女の子とが思い浮かんで、思わず「あ」と声を上げてしまう。
「どうしたのぉ、凛花ちゃん?」
すぐに尋ねて来た茜ちゃんに、私は隠すことでもないので「えっと、この前皆で駅前に行った時に、出会った女の子、真由ちゃんと知り合ったのも、集団登校なのかナーと思って」と返しつつ、史ちゃんと加代ちゃんに視線を向けた。
「そうだよ。私たちの班だったから、夏休みとか一緒にプールに行ったりもしたよ」
加代ちゃんがそう言って笑みを浮かべる。
次いで史ちゃんが「勉強を教えてあげたりとかしましたね」と続けた。
「一緒にクッキー焼いたりもしたね」
加代ちゃんが頷く。
真由ちゃんとの関係を詳しく聞いていなかったけど、思っていたよりも深い付き合いをしていたようだ。
「そんなわけで、前から懐いてくれていたんだけど、最近はもの凄く尊敬されるようになったんだよ」
加代ちゃんはそう言って、嬉しさと誇らしさが混ざった柔らかな笑みを見せる。
「やっぱり、中学生は小学生からは更にお姉さんに見えるからですか?」
サラリと質問を挟み込んだオカルリちゃんに、史ちゃんは「それもあるかもしれないですね」と返した。
史ちゃんの言い回しに何かを感じ取ったらしいオカルリちゃんは、キラリと目を輝かせて「他にも理由がありそうな言い回しですね」とニヤリと笑う。
対して史ちゃんは胸に手を当てて「魔法使いでアイドルなお姫様の侍女なので、尊敬されて当然なのです!」と誇らしげに返した。




