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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第六章 日常? 非日常?
313/476

失敗

「凛花が人気者で、私は嬉しいわ」

 上機嫌にいうお姉ちゃんは、本当に嬉しそうで、ツッコミを入れる余地はなさそうだった。

 それよりも、左右の腕に史ちゃんと千夏ちゃんが抱き付いているので、身動きがとれないというのもある。

 加代ちゃんと抱擁を交わし合った結果、ズルイと二人が言い出してこの状態になってしまったのだ。

 つい直前まで、加代ちゃんが落ち着くのを待ったのもあって、振りほどくのもおかしい。

 なので、何も出来ないまま受け入れることになってしまった。


「なんだか、凛花ちゃんを取られた気分だよー」

 はじめ師匠までも、変なことを言い出したので「はじめ師匠!」とジト目で声を掛けた。

 すると、はじめ師匠はハッとした表情を見せて「そうだった!」と口にする。

 我に返ってくれたのかと思ったら、はじめ師匠は「凛花ちゃんは私の弟子! 師匠と弟子は唯一無二の関係だよね!」と目を輝かせた。

「え!?」

 思わず声が漏れた私に、もの凄く悲しそうな顔ではじめ師匠は「それとも、皆に言って、たぶらかしてるの?」と上目遣いで聞いてくる。

 そんなわけは無いので「そんなことしてませんけど!?」と少し大きめの声で反論してしまった。

「なら、私も抱き付きたいけど、我慢しておくわ」

 はじめ師匠はそう言いながら唇を尖らせて、意地らしく見える仕草を見せてくる。

 もの凄く心がざわつく仕草に、どうにかしなければという意識がムクムクと大きくなった。

 とはいえ、両手には史ちゃんと千夏ちゃんの現状では動く事自体医が難しい。

 仕方が無いので声を掛けることにした私は「なんだか……その、すみません」と謝罪した。

 たいして、はじめ師匠は「いいのいいの。気にしないでちょだい~」と軽い感じで返してくる。

 正直、直前との落差に思考が停止してしまった。

 にも拘わらず、はじめ師匠は「ちなみに、今のどこから、どこまでが演技だったでしょう?」と謎の問題を出してくる。

 思考停止している上に、謎と思う問いにまともな答えが出来るわけもなく「え? は?」と意味のない音を口から出すことしか出来無かった。


 部活も終わり、昇降口の下駄箱で靴を履き替えながら、思わず「なんか、もの凄く疲れ、た」と呟いてしまった。

「大丈夫、リンちゃん?」

「何かあれば、頼ってください! 凛花様」

「リンリン、抱っこしてあげようか?」

 加代ちゃん、史ちゃん、ユミリンからほぼ同時に声が飛んでくる。

「あ、ありがとう」

 若干一人怪しい気もするけど、心配しての言葉だと思って、お礼を言った。

 そこへ、下駄箱が少し離れている千夏ちゃんが飛んできて「凛花ちゃん、疲れてるなら、肩貸すよ!?」と真剣な顔で言う。

「え!? 聞こえたの!?」

 かなり距離があった筈なのにという思いで、気遣ってくれたことの感謝よりも先に、驚きが言葉になってしまった。

 千夏ちゃんは真剣な表情を崩さずに「愛の……力かもしれない」と言う。

 これが普段なら、流した方が良いと思うのだけど、昨日の一件があるだけに、何か思い詰めているのじゃないかと思えて、心配の方が勝った。

「あの、千夏ちゃん……大丈夫?」

 私の問い掛けに、千夏ちゃんじゃなく、ユミリンが「大丈夫、大丈夫」と軽い口調で言う。

「い、いや、ユミリン。流石に、千夏ちゃんの事は、千夏ちゃんじゃないと、わからない……」

 ユミリンは私の発言を遮って「これはリンリンの優しさにつけ込もうとしているだけだから」と言い切った。

 流石にそれは穿ち過ぎじゃないかと思って、真っ直ぐ千夏ちゃんに視線を向けると、スーッと目線を逸らされる。

 そのまま視線が交わることなく、少し長めの沈黙が訪れた。


「優しさにつけ込むなんて卑怯だぞ、チー坊!」

「い、いいじゃないのよ! 私だって、凛花ちゃんに心を支えて貰いたいのよ!」

「昨日十分支えて貰っただろうが!」

 勃発してしまったユミリンと千夏ちゃんの言い合いは、いつもと変わらないような、それでいてお互い微妙な遠慮があるように見えた。

 意外と似たところの多い二人だからこそ、お互いわかり合ってやり合っているのだと思うと、私としては声を掛けるのは躊躇われる。

 こうして、普段通りに喧嘩のようなじゃれ合いをするのも、心を保つために大事なことだと、知っているからだ。

 なので、私は二人の言い合いを放置して、オカルリちゃんに話を振ることにする。

 丁度、博識な委員長もいるので新たなアイデアも出るかもしれないという目論見もあった。

 正直なところ、一番大きいのは、ユミリンと千夏ちゃんの言い合いに入り込むことを避けたかったのが大きい。

 というわけで、早速「オカルリちゃん」と靴を履き替えているオカルリちゃんに声を掛ける。

「何ですか、ハヤリン?」

 笑顔で首を傾げるオカルリちゃんに「設置する防犯カメラの話をもう少ししても良いかな?」と尋ねた。

 すると、オカルリちゃんは「……ぼうはん」と反復する。

 どうしたんだろうと思っていると、オカルリちゃんは「確かに、犯罪を防ぐ防犯の方が、監視より、良い響きだね」と笑った。

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