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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第六章 日常? 非日常?
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集合と仲間意識

「これは文化祭での成功間違い無しね!」

 良い笑顔でいう委員長は、私の演技を見て謎の確信を得たようだった。

 正直、はじめ師匠の演技を模倣しただけなので、やっては見たものの、まるでしっくりきていない。

 むしろ、全身が熱くなるような気恥ずかしさで一杯になった。

 だと言うのに、はじめ師匠だけでなく、まどか先輩やお姉ちゃんまでも、私らしいと絶賛し始める。

 その評価は納得出来ないモノがあったのだけど、はじめ師匠は、言ったとおりだろうと言わんばかりの表情で微笑んでいた。


 お姉ちゃんやまどか先輩、委員長に史ちゃんが私の演技を覗きに来たことで、個別練習の方向性が大きく変わってしまった。

 三組が集まっていたのもあって、他の組も合流してきたのである。

 特に最上級生であるお姉ちゃんとまどか先輩、それに二年生でもリーダー格のはじめ師匠がいるのもあって、ここからは合流して皆で意見を出し合いながら練習しようということになった。

 私は引き続き、はじめ師匠について、大きな演技を教わろうとして、これに史ちゃん、加代ちゃん、千夏ちゃんと、背丈の近しいメンバーが加わる。

「金森先輩、よろしくお願いします!」

 新たに加わった千夏ちゃんが真っ先に、はじめ師匠に挨拶をすると、加代ちゃん、史ちゃんもそれに続いた。

「うん、よろしく」

 ご満悦といった感じの笑みを浮かべて返事をするはじめ師匠の姿に、思わず首を傾げる。

 すると、はじめ師匠は「あ~~~」といいながら、指で頬を掻いた。

「去年一年間、私だけ、背が低かったからさ、なんか、こう、こみ上げてくるモノがあってさ」

 気恥ずかしそうに言うはじめ師匠だけど、私たちも背の低さに思うところがある。

 私たち尾はお互い無言で深く頷き合った。


 人数が増えたことで、他者の目線が増え、それぞれが意見を言い合うことで、より練習が深いものになった。

 もちろん、具体的な効果を数値化出来るわけでもないので、あくまで感覚的にという話ではあるのだけど、気持ちの大切さは緋馬織の頃に何度も実感している。

 そんなわけで、効果もあったと思うし、何より皆で意見を出し合いながら、自分を大きく見せる演技の習得に臨めたのはとても良かった。

 思いに大小はあれど、皆、大きいということに憧れがあり、背が小さいことに悩みがある。

 正直、史ちゃん、加代ちゃん、千夏ちゃん、そして、はじめ師匠に至っても、小さくて可愛いわけで、それは十分に個性だし、武器だとは思う……思うけど、それは悪まで客観的な話でしかないのだ。

 私だって、他の人からは同じように見られているかもしれない……いや、多分見られているだろう。

 加えて、無い物ねだりなのもわかっているけど、それでも、背の高い……少なくとも平均くらいの身長を望んでしまうモノなのだ。

 だからこそ、願いが叶っていくような感覚もあって、だいぶ盛り上がったと思う。

 唯一、納得のいかないというか、失敗だったのは、盛り上がる余り、お姉ちゃんやまどか先輩を含む諸先輩方や、ユミリンや委員長といった同級生達に、微笑ましい目線を送られていたことに途中で気付かなかったことだ。


「今日は、とっても有意義な練習が出来たわね!」

 部活動の締めは部長であるお姉ちゃんの言葉なのだけど、それを口にする顔はいつになく緩んでいた。

 声も明るく弾んでいるし、満足のいく一時だったことに疑いの余地はない。

 問題は、お姉ちゃん自身の練習の評価ではなく、私たちの練習風景をみた感想だという点だ。

 評価としては微笑ましい……だから、悪感情をぶつけられているわけではない。

 むしろ、微笑ましいモノを見るような優しい眼差しではあるのだけど、それがお姉ちゃんだけでなく、部員のほぼ全員というのが、もの凄く恥ずかしい上にくすぐったいのだ。

 この視線の雨に、他の皆だって困惑しているかと思えば、史ちゃんと千夏ちゃんは似たような視線を私に向けてきているし、はじめ師匠は悟りを開いているのか、素……というよりは無に近い。

 唯一、居心地悪そうにうつむき加減でもじもじしている加代ちゃんが、私のとっての心の支えだった。

 加代ちゃんの反応に、心の平穏を感じていたところで、不意にその顔が上がり視線がバッチリと交わる。

 すると、状況に追い込まれすぎてしまったのか、加代ちゃんは私に向かって両手を差し出した。

 胸がキュンと締め付けられる気がして、なんとしても答えなければという思いが沸き起こる。

 その思いに任せて、加代ちゃんに歩み寄った私は、その勢いで心強さを感じて貰えるように、ギュッと抱きしめた。

 流石に急すぎて、戸惑わせてしまったのか、加代ちゃんからの反応はない。

 ただ、それもほんの少しの間のことで、すぐに加代ちゃんの腕が私の背中に回されて力が込められた。

 お互いにお互いを感じ会えたお陰か、少なくとも私はだいぶ気持ちが落ち着いてくる。

 ただ、加代ちゃんにはまだ安らぎが足りなかったのか、腕の力を抜いても手が解かれることはなかった。

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