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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第六章 日常? 非日常?
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イメージの違い

「私らしさ……」

 気付けば、私は、スゴく印象深く響いたはじめ師匠の言葉を繰り返していた。

 特に、質問の意図などはなく、呟きが漏れたに過ぎない。

 なのだけど、私の言葉に反応したはじめ師匠が、腕組みをして唸りだした。

「はじめ師匠?」

 私が名前を呼びながら顔を向けると、はじめ師匠は腕組みを解いてこちらを見る。

 お互い言葉もなくお見合いをするだけで、時々瞬きを挟む変な状況が訪れた。

 ややあってから、はじめ師匠が「例えばだけど……」と口にしながら、右手を振り上げる。

 実例を見せてくれるのだと思い、はじめ師匠の演技をしっかりと見るために姿勢を正した。

 直後、かなり高めの可愛らしい声で「こらぁ~~」と気の抜けそうな声が放たれる。

 どこからどう見ても、怖さも迫力も無い……それこそ怒り慣れてない人が無理矢理怒ってみたかのような有様に、私の目は点になった。

 一方、はじめ師匠は何か手応えがあったようで、やりきった表情を見せて「どうかな?」と聞いてくる。

 言葉に詰まってしまった私は、軽く深呼吸をして気持ちを落ち付かせてから「えーと、今のが私風の怒り方……ですか?」と聞いてみた。

 正直、予想はしていたけど、はじめ師匠は屈託のない笑みを浮かべて「なかなか精度が高かったと思うんだけど」と自信ありと言いたげな態度を見せる。

 あまりにも自信に満ちているので、言い難いものの、私は「さすがに、そんな怒るのが下手みたいな感じでは無いと思うのですけど……」と言ってみた。

 対して、はじめ師匠は「凛花ちゃん」と真面目な顔で返してくる。

「は、はい」

 完全に私の方が気圧されてしまっていた。

 そんな状況ではじめ師匠は考えを改めるつもりはないらしく「自分の見えている、感じている自分と、他の人から見た自分というモノには大きな差があるモノなんだよ」と言い切る。

 確かに、そういう事はあると思うけど、はじめ師匠の演じた私があまりにも酷かったので、顔をブンブンと左右に振って「さ、さすがに、あんなに怒ったこと無い人みたいにはなりませんよ!」と訴えた。

 対してはじめ師匠は「疑う気持ちはわかるよ、自分って、自分ではわからないからね。でも、私から見た凛花ちゃん像ではあるんだ。だから、まずは真似て演じてみない?」と冷静に言う。

 正直、それも受け入れがたくはあったのだけど、でも、主張だけで否定するのも良くないかと思った私は、一度やってみることにした。


 既に一度、はじめ師匠の大きな動きの怒りの演技は模倣しているので、演技事態は出来る確信があった。

 問題は内容がもの凄く……恥ずかしい。

 はじめ先輩から観た私の怒り方のイメージだといういう以上、それを否定は出来無いし、やりきらないとおかしくなるであろう事は予測が付いた。

 むしろ、恥ずかしさでやりきれ無かった場合、私らしさになるかもしれない。

 そういう考えも浮かんではきたものの、はじめ師匠の演技を真似たという言い訳が立たなくなるのは、もの凄く恥ずかしいのではと気づき、やっぱりやりきる以外の選択肢はないと思い直した。


「それじゃあ、やってみますね」

 私の言葉に、はじめ師匠は「いつでもこい!」と返してくれたのだけど、演技に入ることは出来無かった。

 理由は簡単で、私は原因にジト目を向ける。

「なんで、お姉ちゃんやまどか先輩が見ているんでしょうか?」

 思わず敬語になってしまった質問に、お姉ちゃんは「コホン」とわざとらしい咳払いをして「ぶ、部長としての視察よ!」と言い出した。

「お姉ちゃんは、委員長と練習中でしょ!」

 今日のペアである委員長をほったらかしにして何をしてるんだという思いを込めてお姉ちゃんを見る。

 すると、ひょっこり顔を出した委員長は「あら、人の演技を見るのも勉強だと、お姉さんはいって言い足し、同じ一年生の凛花ちゃんの演技はスゴく興味があるのだけど、見学をしてはダメかしら?」ともの凄く真面目な顔で聞かれてしまった。

 拒否の根幹が恥ずかしいだけの私に対して、とても理に適ったことを言う委員長、どちらの方が筋が通っているかなんて、考えるまでもない。

「……ダメじゃないです」

 委員長とお姉ちゃんは遠ざけられなかったので、まどか先輩抱けどもと思って視線を向けた。

 すると、まどか先輩は「私としては、姫が嫌なら、無理に見ようとは思わないんだけど、今日の練習相手である史ちゃんがね。姫の演技を見ないことには、自分の練習に集中出来ないみたいでね」と言って、横にいる史ちゃんを見る。

 何も言っていないし、動きも見せていないのに、絶対に見たいと意思が感じ取れてしまうぐらい気迫のこもった史ちゃんを観た私は『うん、どうにもできない』と思ってしまった。

 それならば、早く終わらせてしまおうと、気持ちを切り替えたのだけど、時既に遅かったらしい。

 史ちゃんや委員長、お姉ちゃんにまどか先輩を許容したせいで、是非見たいという人達が……部室の全員になってしまったのだ。

 今更、拒否するわけにも行かず、私は諦めと共に、自分の中で一つの言葉を繰り返す。

『これはあくまではじめ師匠の演技の模倣』

 自分に言い聞かせるように頭の中で繰り返して、責任を心の中ではじめ師匠に押し付けた。

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