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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第六章 日常? 非日常?
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師匠と弟子

「はじめ先輩。大丈夫です。教えを受けたことを全て活かせるとは言えませんが、私なりに解釈して自分の糧にしようと思ってます!」

 私が思ったままを伝えると、はじめ先輩はポカンとした顔を見せた。

 その後で、軽く笑いながら「スゴイ向上心ね」と言う。

「はじめ先輩の演技、ずっと大きいな……というか、はじめ先輩が身体の大きな人に見えてたんですよ! それ、本当に凄いなって思ってて!」

 話し出すと、何故か自分でも止められないくらい私は勢いづいてしまった。

 対して、はじめ先輩は腕組みをして何度も頷いてくれている。

 止めるでも無く、黙って肯定的に聞いてくれているのが嬉しくて、更に私のテンションは上がってしまった。

「私も、はじめ先輩のようになれたらとは思っていたんです! だから、もの凄く興味があります!」

 言い終えたところで、自分の鼻息の荒さが少し恥ずかしくなったけど、それもはじめ先輩の「凛花ちゃんの気持ちはとてもよくわかるわ」という一言で喜びに上書きされていく。

 理解して貰える、受け止めて貰える嬉しさに、口元の筋肉が緩んでしまった。


 何故、自分がそんなに舞い上がったのかの答えは、はじめ先輩の一言にあった。

「まあ、背が小さいとさ、いろいろあるよね。私も大きく……せめて普通に見て貰いたくて、いろいろ藻掻いていたからさ、凛花ちゃんの熱量、とってもよくわかるよ」

 しみじみ言われて、違うとは言えなかった……というよりも、反発する気持ちよりも、腑に落ちる感覚の方が大きい。

 それに、同じような経験をしていると想像が付く、はじめ先輩の言葉だけに、受け入れやすかったみたいだ。

「その……私にも覚えられるでしょうか?」

 上目遣いで尋ねると、はじめ先輩は「愚問だよ、凛花ちゃん」と言い放ったはじめ先輩は、見た目よりも何倍も大きく見える。

「まず、大きく見せるのに大事なのは、揺るぎない自信。私は大きいのだという強い気持ち……まあ、他の人から見たら、根拠に乏しい自己暗示みたいなものに思われるかも知れないけど……それでも、信じて貫けば、ちゃんと形になるんだ」

 実際に体現しているはじめ先輩の言葉だけに、もの凄く説得力を感じた私は「はい!」と大きく頷いた。

 おどおどした人間と堂々とした人間なら、どう考えても後者の方が大きく見える。

 私が小さいと思われたり、可愛いと揶揄されるのには、自分では認めたくはないものの、しっかりと己が定まっていないところがあるからだ。

 元より強く揺るがない印象のある月子お母さんや雪子学校長に指摘されても、直せなかったけど、はじめ先輩の教えなら、受け入れられる気がする。

 だから、まずは吸収できることは吸収しよう、教えて貰えることは全部教えて貰おうと心に決めた。

「はじめ先輩! いえ、はじめ師匠、よろしくお願いします!」

 お腹に力を入れて頭を下げると、はじめ師匠は「良いね、良い気合だね! もういつもより大きく見えるよ、凛花ちゃん……いや、凛花!」と返してくる。

「いろいろ教えてください!」

「もちろんだよ!」

 私たちはお互いに歩み寄って、熱く握手を交わし合った。


 師匠の教えは、矛盾から始まった。

 大きく見せるには、大きなアクションをすれば良いというモノではない。

 けれど、最初の課題は大きなアクションを、自然と出せるようになることだった。

「まあ、その顔を見ると、上手く納得出来ていないようだから、ちゃんと説明するよ」

 苦笑気味に言うはじめ師匠に「申し訳ありません」と謝罪する。

 すると、割と真面目な顔で割と真面目な顔で「いや、別に私は武術の師匠でも何でも無く演技の先輩なだけだからね。教える相手がちゃんと理解してないのに、見て学べとか言わないよ」とはじめ師匠は首を左右に振った。

 正直、私は理屈っぽいというか、最初に筋道を理解できないと、その場で立ち止まってしまうところがあるので説明してくれるのはとてもありがたい。

「助かります、始め師匠」

 改めて霊を告げると、始め師匠はひらひらと手を振ってから説明を始めた。


「まあ、何を学ぶにしても断界があるってことだよ」

「……段階」

「そう。最初に言った『大きいリアクションがそのまま大きく見せることに繋がらない』って言うのは事実で、大きいアクションをしていればいいってわけじゃない……で、最初に大きいアクションを自然と出るくらい身に付けるっていうのは、その大きいアクションだけじゃだめの境地にたどり着く前の準備段階ってことだね」

 はじめ師匠の説明に、私はなるほどと大きく頷くことができた。

 私なりの解釈にはなるけど、大きく見せることは単純にアクションを大きくするわけじゃなく、アクションの調整が必要になる。

 けど、そもそも大きいアクションが出来なければ、その入り口にも立てないということなのだ。

 そんな私なりの解釈を伝えると、はじめ師匠は「その通り、いわば大きく見せる技術の第一段階だね」と笑む。

 私は考えが正しかったことを嬉しく思いながらも、表情に出さないように意識しながら、はじめ師匠に「早速、教えてください」と頭を下げた。

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