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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第六章 日常? 非日常?
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映画・ドラマと舞台

「まあ、身振り手振りを大きくっていうのは、あくまで舞台だけでの話だけどね」

「舞台だけ……ですか?」

 はじめ先輩は思わず聞き返した私に、大きく頷いてから「まあ、ほら、今の私たちには関係ないけど、お芝居って、今は映画やドラマなんかもあるでしょう?」と言って首を傾げた。

「はい」

 頷いた私に、はじめ先輩はうんうんと小刻みに何度か頷いて「それと分ける意味で、だけって言ったのよ」と言う。

「……はぁ」

 言いたいことがわかるようなわからないような曖昧な感じだったので、つい返事もあやふやになってしまった。

 はじめ先輩は苦笑しつつ「まあ、私たちは当然ながらステージで演技をするから、必然的に大きな演技をした方が良いし、それだけ考えればいいから、あんまり映画だと、ドラマだとかは頭に入れなくても良いわ」と首を振る。

「そう……なんですね」

 なんとも消化不良な印象を受けてしまった私の返答は、歯切れの悪いモノになってしまった。

 はじめ先輩はそんな私の反応に苦笑を深め「まあ、話を切り出して説明しないのは気になるよねー」と肩を軽く上げてみせる。

 私も思わず「はい」と頷いてしまった。


「要するに、観客がどういう距離で演技を見るかって言うのがポイントの話なのよ」

 はじめ先輩はそう言ってから、何かに驚いた表情を見せた。

「え、どうかしたんですか!?」

 急な表情の変化に驚いて尋ねると、はじめ先輩は「今のが映画やドラマでの距離感での演技……驚いているように見えたでしょ?」とサラリと聞いてくる。

 スゴいことを見せつけられたのに、誇る様子もないはじめ先輩に、少し驚きながら、私は頷きで応えた。

 はじめ先輩は「うんうん」と小刻みに頷いてから「今見せた凛花ちゃんの驚きも、映画やドラマの距離感ね」と言う。

「え、演技じゃないですけど……」

 戸惑いながらそう返すと「もちろんわかっているわ」と頷かれて、ちょっと恥ずかしくなってしまった。

 はじめ先輩はそんな私の反応は完全に流して、説明を再開する。

「それで、なんだけど、凛花ちゃんは体育館の大きさって知ってる?」

 急に飛躍した話に考えるよりも先に「確か、ミニバスケットボールコート二面が入るくらいだから30メートルかける25メートルくらいですか?」と知識の方が口から飛び出した。

 はじめ先輩としても、具体的な数値が返ってくるとは思っていなかったのか、一瞬、キョトンとした表情を浮かべる。

 その後で、少し困惑した表情を浮かべて「え、知ってた?」と聞いてきた。

 施設の大きさは、教員試験を目指していた時に、なんとなく建物のサイズ感やイメージが付くように覚えていたので、それをそのまま説明するわけには行かない私は、言葉に詰まってしまう。

 それでも、なんとか返事を絞り出して「な、何かの本で目にした記憶があった……んだと、おもいます」とあやふやな答えを口にした。

 対して、はじめ先輩は「まさか、別人格が勉強してたとか? まーこをもう超えちゃったの!?」と下からのぞき込むようにして私を見上げてくる。

 この身体になってから、余り下から見られたこともなかったので、その分も加えて不思議な感覚に背中がゾワゾワと落ち着かない気分になり始めた。

 なので、話を流すために、慌ててそれらしい内容の答えを口走る。

「演技とか関係無く、教室の広さとかを計算したんです! さ、算数の授業で……しょ、小学校の!」

 私がそう言うと、はじめ先輩は「なるほど、それで知っていたのね」と想像よりもあっさりと頷いてくれた。

 はじめ先輩は私の説明で納得したのか、すぐに「まあ、ともかく、今話題にしたいのは体育館の広さなのよ」と言う。

「はい」

 頷きながら返事をした私に、同じく頷いてからはじめ先輩は「で、まあ、大事なのは端から端までおよそ30メートル有るってところね」と口にした。

 ここで少し間をおけてから「それくらい距離があったら、さっきの私の演技って見えると思う?」とはじめ先輩が話を振ってきたので、首を振って、私は「いいえ」:と返す。

「なので、こうします」

 はじめ先輩は言うなり、大きく仰け反って、顔の左右でそれぞれの掌を大きく広げてみせた。

 かなり大袈裟だけど、驚いているというのは伝わってくる。

 なので、私は「違いがわかりました」と言って頷くと、はじめ先輩は「演劇部の演技はあくまで体育館や特別教室でするモノだから、多少大袈裟だって思われても、見ている人が何の演技かわかるようにするのが大事なの」と笑って見せた。

「まーこの演技、なりきりは完璧だけど、自然すぎるが故に、舞台だと、伝わりにくい面があるの」

 はじめ先輩はそこまで口にしてから、慌てて「あ、別にまーこのダメ出しをしているわけじゃないからね!」と言い加える。

「だ、大丈夫です、そんな風には思って無いです」

 私の返しにわかりやすくほっとした表情を浮かべてから、はじめ先輩は「私は凛花ちゃんには沢山の可能性を示したいだけだから」と言ってから「もちろん、どちらを選ぶかは凛花ちゃん次第だし、少なくとも私は恨み言は言わないわ」と笑って言い加えた。

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