表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第六章 日常? 非日常?
307/477

部活の時間

「オーディションは正式に土曜日に開催ってことになったわ」

 放課後、演劇部の部室で、お姉ちゃんがそう報告をした。

 オーディションには演者を務める部員だけでなく、脚本を端野とする文芸部と掛け持ちの生徒や衣装や大道具を手がける生徒、顧問の先生なども参加するので、各員の確認を取ったため、確定するために少し日数が必要だったらしい。

「それじゃあ、今日も演技練習を二人一組でやっていくわ」

 部長であるお姉ちゃんの指示で、まどか先輩が手早くカードを準備し始めた。

 既に三回目の個別練習なので、やり方の説明はない。

 先輩組、後輩組に分かれてカードを引いて、同じ数字を引いた者同士が組になるシステムだ。

 できるだけ新しい人と組むために、被った組があった場合は、その組同士で入れ替える。

 もしも、組み替えても新しい組み合わせが出来無い場合は、改めて組み替えをするのではなく、元々のコンビで練習と決まった。


 抽選の結果、私は二年の代表のまとめ役を務める金森先輩と組むことになった。

「金森先輩、よろしくお願いします!」

 私が挨拶をすると金森先輩は「はじめちゃんとか、はじめとかでいいよ」と言う。

「え、でも……」

 躊躇してしまった私に、金森先輩は「ほら、私も凛花ちゃんって呼ぶし」と笑みを浮かべた。

「え、いや、それはお姉ちゃんがいるからじゃ?」

 思わずそう切り返した私に、金森先輩は「もちろん、それもあるけど、やっぱり名前の方が親近感を覚えると思わない?」と尋ねてくる。

 私は正直なところ、名字で呼ぶ方がしっくりくるのだけど、金森先輩は名前呼びの方が良いようだ。

 別に、名字呼びにこだわりがあるわけじゃ無いので「じゃあ、はじめ先輩」と呼び方を改める。

「先輩も、なくても良いけど、まあ、それは追々かなー」

 そう言ってニッと笑ったはじめ先輩は「じゃあ、早速練習をしよう!」と言って、笑みを深めた。


 はじめ先輩は赤井先輩をチラリと見てから「凛花ちゃんが、まーこ……赤井雅子ね……そのまーこのやり方があってる感じなのは聞いてるわ」と口にした。

 ある程度、二、三年の先輩方で、一年の状況は共有されているらしい。

「ただ、まーこの演じ分けは、特殊だから、正直私には教えようが無いわ」

 はじめ先輩は頭を掻きながら明るく断言した。

 余りにあっさりと、しかもはっきり言われたので、正直戸惑ってしまう。

 そんな私の反応を見て、はじめ先輩は「あーー、だ、大丈夫、何も教えられないわけじゃないよ? 私なりの技術は伝えられると思う!」と大きく腕を振り回しながら慌てだした。

「い、いや、先輩の技術を疑ってるとかではなくですね!」

 つい初め先輩に釣られて、私の動きも大きくなってしまう。

 はじめ先輩は、そんな私を見て「いいね!」と言い出した。

「い、いいね!?」

 元の世界ではSNS回りで聞く単語に、思わず聞き返す。

 すると、はじめ先輩は「いや、その大きな身振り手振り、私が教えたいのはズバリそれなんだけど、凛花ちゃんは既に習得済みに思えてね」と笑った。

「いやいやいやいや、はじめ先輩、全然身に覚えがありません!」

 何故に習得済みと思ったのか、演技素人の私には驚きしか無い。

「じゃあ、無自覚なのかな? 普段は大人しい感じなのに……」

 顎に手を当てたはじめ先輩は不思議そうに首を傾げた。

「え? どういうことですか?」

 訳もわからず、そう尋ねると、はじめ先輩は腕を組んで「うーーーん」と唸る。

 はじめ先輩自体も上手く言語化できないのだろうかと思い見詰めていると、それほど時間を掛けずに、説明をしてくれた。

「凛花ちゃんは大人しいし、動きも激しさは見られないから、静かな印象を受けるけど、さっき見たリアクションは大きくて活発な印象を受けたのね。それで、凛花ちゃんは意識して、動き方を使い分けてるんじゃないかって考えたの」

「いえ、そんな事は……」

 首を左右に振ってそう返すと、はじめ先輩は「だよねー、自覚はないよねー」とあっさりこちらの言い分を受け入れてくれる。

 その上で、はじめ先輩は『ちなみに、凛花ちゃんと私、共通点ってわかる?」と尋ねて来た。

 もの凄く思い当たることがあるのだけど、正直口にしたくない。

 けど、はじめ先輩は既に待ちの姿勢を取っているので、思い付いた共通点を口にしないと話が進みそうに無かった。

 口にしたくないのもあって、口を開くのに、大きめな溜め息が必要になる。

 少し逡巡した後で、私は意を決して「背の高さ……ですよね?」と尋ねた。

 私とはじめ先輩との見た目の共通点、それは間違いなく背の低さである。

 良くも悪くも、私の導き出した共通点は、はじめ先輩の想定通りだったようだ。

「残念だけど、凛花ちゃんも、私も、背が高いとは言えない」

 認めたくない気持ちはあるものの、ただの事実にしか過ぎないので、大人しく頷く。

 はじめ先輩はそんな私の頷きを確認した後で「小さい私たちが舞台で埋もれないためには、大きな演技、具体的には見栄えがするような仕草、身振りが大事なんだよ!」と言い切った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ