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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第六章 日常? 非日常?
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朝の戦い

「言ってあげれば良いじゃ無い~」

 もの凄く無邪気に言い放つお母さんの言葉を背にした千夏ちゃんの笑みが一気に深まった。

 味方を得るのは心強いということの表れだろう。

 加えて、昨日は一人になる怖さを味わっていたということも影響しているはずだ。

 そうなってくると、私の些細なこだわりというか、心境で断わるのも良くない気もする。

 千夏ちゃんが少しでも気持ちを弾ませられるならと思って覚悟を決めた私は「千夏お姉ちゃん」と様子を覗うようにして声を掛けた。

 すると千夏ちゃんは「か……」とだけ口にして固まってしまう。

「千夏ちゃん!?」

 思わず強めに呼びかけると、千夏ちゃんは「お姉ちゃんが付いてないわ!」と強めに切り返してきた。

「いや、今、心配したんだけど!? 『か』だけ言って固まっちゃうから!」

 心配していた分、少しイラッとしてしまった私は強めに言ってしまう。

 言ってから、千夏ちゃんに気を遣わなければいけなかったことを思い出して、一気に顔から血の気が引いた。

 にも拘わらず、千夏ちゃんは何故かにんまりして「なんか、いいかも……」と言い出す。

「ど、どういうこと?」

 背中がゾワゾワしてきたので、若干引き気味に尋ねると、千夏ちゃんは困った顔をして「ごめんなさい。兄弟げんかってこんな感じかなって思ったら……変なこと言っちゃったね」と頬を掻いた。

 千夏ちゃんが一人っ子で、家族のいない家で、一人、不安に抗うしかなかった背景を背負っていると知っているのもあって、その言葉は深く私の胸に突き刺さる。

「おかしくない……よ」

 声を精一杯絞り出して私は首を左右に振った。


「凛花ちゃん、手際が良いね」

 お母さんがおかずをつめやすいように、アルミホイルを駆使して、お弁当の中に壁を作っていると、横で見ていた千夏ちゃんが、感心したようにそう言ってきた。

 褒められれば嬉しいのだけど、浮かれているのを見られるのは恥ずかしいので「慣れれば、普通に出来るよ」と返す。

 その上で「これから、お手伝いする回数を増やしていけば、自然とどうすればいいかわかるようになるよ」と言い加えた。

 意図的に、これからお弁当作りを手伝う機会はいくらでもあるでしょうという言葉を含ませる。

 単純に気遣う言葉や優しい接し方も大事だけど、こういったときが毎日続いていくと滲ませることも、千夏ちゃんの気持ちを軽くしてくれるんじゃ無いかと思っての選択だ。

 勘の良い千夏ちゃんは、私の意図を汲み取ってくれたようで、僅かに瞳を潤ませる。

 湿っぽくなるのは、私が嫌だったので「ほら、千夏お姉ちゃん、ご飯を入れて!」とお弁当箱を差し出した。


 お弁当作りが終わると、次は朝ご飯の支度に入った。

 お母さんが千夏ちゃんに、和食と洋食……正確にはご飯とパンどっちが良いかと尋ね、即決でご飯、和食に決まる。

 そこからはお母さんの指示の下、怒濤の勢いで料理が始まった。

 千夏ちゃんは人数分のご飯をよそっていく。

 私はお椀やお皿、お箸を人数分揃え、その間にお母さんは冷蔵庫から取り出したワカメ、油揚げ、豆腐と、あっという間に味噌汁の具材を切り分けてしまった。

 切った具材を入れた鍋を私が見ている間に、お母さんは鮭の切り身を取り出して魚焼きグリルで焼き始める。

 火を使う料理が増えたことで、春先の少し肌寒い台所が一気に奈津のような熱気に包まれ始めた。

「千夏ちゃん、佃煮海苔を出して貰えるかしら?」

 ご飯の配膳を終えたばかりの千夏ちゃんに、お母さんが指示を飛ばす。

「え!?」

 急な指示出しに戸惑いの声を上げた千夏ちゃんに「冷蔵庫の下から二段目か三段目に入ってる桃のマークの付いた瓶のヤツだよ」と助け船を出した。

「あ、う、うん、出してくる」

 少し動揺したようだけど、自分のすべきことを把握した千夏ちゃんの行動は素早い。

 冷蔵庫を開けると、迷わず指示した瓶を手に取って「凛花ちゃん、これだよね?」と尋ねて来たので「正解!」と短く応えて頷いた。

 食卓に海苔の佃煮を置いたところで、お母さんは容赦なく千夏ちゃんに「じゃあ、次は卵を出して欲しいんだけど、千夏ちゃんは目玉焼きと鮭の切り身どっちを食べるかしら?」と指示と同時に質問を飛ばす。

「え、あ、えっと、卵で!」

 慌てながらも、ちゃんと答えを出せるのが千夏ちゃんのスゴいところだなぁと思った私は、思わずうんうんと頷いてしまった。

 それをバッチリ見ていたお母さんが「凛花、頷いてないで、そろそろお味噌を溶きなさい」と指示を出してくる。

「は、はい」

 一応の先輩として千夏ちゃんに失敗は見せられないので、私は慌てて手元に意識を集中し直した。

 お母さんはそんな私の横で、グリルで焼いている鮭の具合を確認しながら「じゃあ、千夏ちゃん、卵は4個ね」と指示を出す。

「あ、はいっ!」

 良い返事をした千夏ちゃんだったけど、冷蔵庫を前に動きを止めたので、私は「卵はプラスチックの容器のまま、一番下の段に入ってるよー」と所在地を伝えた。

「了解、ありがとう!」

 千夏ちゃんの声が返ってきたすぐ後に冷蔵庫の扉が開かれる。

 その音を聞いたお母さんは、千夏ちゃんの方を確認せずに「一個ずつ取り出さずに、容器ごと出して持ってきて、落としたらもったいないからね」と適格な指示を出した。

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