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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第六章 日常? 非日常?
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翌朝

 思ったよりも、千夏ちゃんが寝付くのは早かった。

 一応、グロウランプを付けて、部屋を真っ暗にはしていない。

 それでも、布団が入った直後は小さく動き続けていて、不安なんじゃ無いかと心配になった。

 多少でも気持ちが和らげばと思って、手を握ったのだけど、それが良かったのか、千夏ちゃんはすぐに寝息を立て始める。

 手を離した方が良いかなと思ったのだけど、しっかり握られてしまっていたので、変に話そうとすると、折角寝入ったのに起こしてしまいそうで、繋いだままにすることにした。


 手を握られる感触がして、私はゆっくりと目を開けた。

 真上を見ていた顔を倒すと、起き上がっている千夏ちゃんが目に入る。

「おはよう……で、いいのかな?」

 見える範囲に時計が無かったので、おはようで良いのか判断が付かずに、千夏ちゃんに尋ねる形になってしまった。

 そんな私に、千夏ちゃんは「今、朝の六時くらいだけど……早い?」となんだか申し訳なさそうに聞いてくる。

 私は身体を起こすと「全然、問題ないよ。お母さんを手伝うのにちょっと遅いくらいだし」と笑顔を交えて答えた。

「お手伝い」

 なんだか複雑そうな顔をしたので、私は思いきって「千夏ちゃんも手伝いに行く?」と誘ってみる。

 すると、千夏ちゃんは即座に「うん!」と大きく頷いた。


「あら、二人とも、早いわね」

 二人で制服に着替えて、台所に向かうと、お母さんが笑顔で出迎えてくれた。

 その後で「もしかして、よく眠れなかったかしら?」とお母さんは少し心配そうに千夏ちゃんを見る。

 すると、千夏ちゃんは慌てた様子で「大丈夫です! しっかり眠れました! あの、理、凛花ちゃんがずっと手を握ってくれてたので!」と言いながら私を見詰めてきた。

 バッチリと目が合ってしまったタイミングで、千夏ちゃんは顔を真っ赤にして俯いてしまう。

 そのせいで、私もなんだか恥ずかしくなってしまった。

 お母さんはそんな私たちの様子を見て「あらあら」と口に手を当てて、楽しそうに笑う。

 笑い声のせいで恥ずかしさを刺激された私は、少し強めに「お、お弁当作の手伝うよ!」と伝えた。

 すると、お母さんは、ポンと手を叩いてから「千夏ちゃん、良いかしら?」と俯いたままの千夏ちゃんに声を掛ける。

「は、い?」

 顔を上げた千夏ちゃんにお母さんは手にしていたプラスチック製のおべんと箱を見せながら「千夏ちゃんのお弁当箱なんだけど、このサイズで足りるかしら?」と首を傾げた。

「えっ!?」

 驚きの声を上げた千夏ちゃんに、お母さんは「これが、凛花の、こっちが良枝の、これがお父さんで、こっちが由美ちゃんのだけど……」とテーブルの上に並べた人数分の弁当箱を指し示す。

「凛花と同じくらいだと、少なかったりする?」

 お母さんは自分の手にしたお弁当箱と、私のお弁当箱を並べながら、そう尋ねた。

 対して、千夏ちゃんは「あ、あの、えっと……」と言葉を選びあぐねているようでアワアワしている。

 その様子を見て「他に何か気になることがあるのかしら?」と柔らかい表情でお母さんは千夏ちゃんに尋ねた。

「え、えっとですね、その、私の分まで良いんですか!」

 千夏ちゃんの問い掛けに対して、大きく瞬きをしたお母さんは「え? 何を言っているの、良いに決まってるじゃない」と驚いた様子で返す。

 大きく溜め息を吐き出してから「ウチで面倒を見るんだから、千夏ちゃんだって、ウチの娘なんだから、お母さんがお弁当を作るのなんて当たり前じゃない」とお母さんははっきりと言い切った。

 千夏ちゃんは耳にした内容を上手く飲み込めなかったのか、目を丸くしたまま、私に視線を向けてくる。

 私はいろいろ考えた上で、千夏ちゃんに「お姉ちゃんって呼んでも良いよ?」と冗談で返した。

 正直、私としてはウィットに富んだ返しだと思っていたのに、千夏ちゃんはジト目になって「え、逆じゃ無い?」と言い出す。

「逆!?」

 驚いた私に、千夏ちゃんは「どう考えても、私の方が凛花ちゃんのお姉さんでしょう?」と胸に手を当てて断言して見せた。

「えぇ~~」

 不満が口から飛び出した私からさっさと視線を外した千夏ちゃんはお母さんへ振り返る。

「ちょっと、千夏ちゃん?」

 呼びかけた私に振り返ること無く「お姉ちゃんでしょ?」と切り返してきた。

 流れ的に呼ばないと先に進まなくなると、私の勘が強く訴えていたが、心の中にある小さなプライドが受け入れを拒絶する。

「お、お姉ちゃんは、よ、良枝お姉ちゃんだけだし」

 私がどうにか絞り出した言葉を聞いた千夏ちゃんは「じゃあ、仕方ないかー」とあっさり言い放った。

 ビックリしている私に、千夏ちゃんは「お姉ちゃんって呼んで貰うのも楽しそうだったけど、良枝先輩の特権なら仕方ないかなって思って」と言って笑う。

 なんだか、もの凄く疲れて肩を落とした私に、千夏ちゃんは急に「ありがとうね」と口にした。

「え?」

 慌てて顔を上げると泣きそうな顔で笑う千夏ちゃんと目が合う。

「昨日の夜も言ったけど、冗談を言えるのも、よく眠れたのも、凛花ちゃんのお陰、だから、ありがとう」

 そう言って千夏ちゃんは頭を下げた後で「まあ、お姉ちゃんって呼んでくれたらもっと心が弾んだかもしれないけどね」と余計な一言を言い加えた。

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