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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第六章 日常? 非日常?
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似たもの同士

 不本意ではあるものの。話の矛先が私に向いたことで、少し張り詰めているように思えた場の空気はだいぶ緩んだ。

 話としてはまったく進まなかったけど、切り上げるには後を引かずに済む雰囲気かと思ったので「皆がどう思ったかはわかったから、もう終わり、終了~~~」と、少し子供っぽく聞こえるように意識しながら言って、ソファから立ち上がる。

 けど、そんな私の手を、千夏ちゃんが引いて止めた。

「千夏ちゃん?」

 声を掛けた私を見上げながら千夏ちゃんは「なんだか、話せそうだから……お願い」と言う。

 千夏ちゃんがそう判断したのなら、私が止めるのは彼女の決意を踏みにじることになると考え、ソファに座り直した。

 私が隣に座り直したのを確認した千夏ちゃんは、手を繋いだまま、空いてる手を自らの胸に当てる。

 長く息を吐き出してから、表情を引き締めた。


「初めは親切だなと思っていたし、実際に助かってもいたんです」

 再び始まった千夏ちゃんの話に、聞いてる皆がそれを示すように頷いた。

 周りを見渡してそれを確認した千夏ちゃんは「それが、その……最近、少し、その……変だなって」と少し言い難そうに続ける。

 そこで話を止めてしまった千夏ちゃんに、お姉ちゃんが「大丈夫、ここには管理人さんに言いつける人なんていないわ」と軽い口調で言った。

 ユミリンも「まあ、そもそも、チー坊以外、その管理人さんと面識ないからなー」と続く。

 千夏ちゃんは二人の言葉に、僅かに笑みを浮かべて「そう……だね」と頷いた。

 二人の言葉に、笑みを浮かべられたとはいえ、言うのには更なる覚悟がいるのだろう。

 頷いた姿勢のまま、千夏ちゃんはしばらくの間、固まっていた。


 ようやく続きを話せる状態になったのか、千夏ちゃんは顔を上げると、皆を見渡した。

 街の時間はそれなりに長かったけど、皆の顔にはそれを不満に思うような様子や表情は浮かんでいない。

 むしろ、話すことを躊躇っている千夏ちゃんへの心配の色が強く見えた。

 そんな周りの態度に安心したのか、千夏ちゃんは『ほぅ』と息を吐き出す。

 千夏ちゃんはそこから目を閉じてから、深く息を吐き出した。

 ややあって目を開けた千夏ちゃんの表情は一気に引き締まる。

 覚悟を示すようにずっと繋いだままになっている手に力が籠もった。


「その、管理人さんは、私の境遇を知っているのもあって、お夕飯のおかずを分けてくれたり、、してくれ……たんです」

 一度は聞いていることなので、千夏ちゃんがこちらを見たタイミングで頷いて見せた。

 千夏ちゃんも頷き返して「それで……あの、いつも、その、食べられるわけじゃ無くて……」と消え入りそうな声で言う。

 申し訳なさが強い気もするけど、そこになんとも読み取り辛い感情が交じっているようにも思えた。

 そんな千夏ちゃんの言葉に対して、この中で一番境遇が近いユミリンが「まあ、食欲が出ない紐あるよね、一人だとさ」と口にする。

 千夏ちゃんがその言葉に反応するよりも先に、ユミリンはお母さんに視線を向けて「ここの……リンリンの家族は皆優しいから、千夏も食べに来て、泊まらせてもらえよ」と言った。

「それは……」

 千夏ちゃんの表情に戸惑いの色が浮かぶが、ユミリンは「それは申し訳ないって思うだろ? わかるさ……でも、うちらはまだ中学生で、まだ子供なんだ。優しい大人に縋ったって悪くないんだ」と言い切る。

 その上で「子供のうちは甘えさせて貰えば良いんだ」と続けた。

 人によっては図々しいと撮りそうな無いようだけど、それを咎めるような姿勢も、拒否したり、嫌そうにする素振りを、お父さんもお母さんもしない。

 ただじっと優しい目で、千夏ちゃんに向かって語りかけるように言葉を重ねるユミリンを見詰めていた。

「千夏だって、それは申し訳ないとか、悪いって思うと思う。でもさ、自分が無力なのは本当だろ?」

 ユミリンの言葉に、千夏ちゃんは表情を険しくしながら、それでも視線を逸らすこと無く見詰めている。

 千夏ちゃんのその姿は、何をユミリンが言おうとしているのかを見極めようとしているようにみえた。

「だから、今は思いっきり甘えて、大人になったら恩返しをすれば良い。自分なりのやり方で!」

 ユミリンの言葉を聞いた千夏ちゃんがハッとした表情に変わる。

 そのタイミングで、お母さんが「別に恩返しなんて考えなくても良いのよ。大人が子供を助けるなんて当たり前なんだし、何より、千夏ちゃんも由美子ちゃんも、良枝の大事な後輩で、凛花の大事なお友達でしょう? 私とお父さんが助けるのはそれだけで十分なんだから」と言って微笑みかけた。

 千夏ちゃんの目の光が揺らぐ。

 直後、グスッと鼻を啜った千夏ちゃんは、視線を足下に落とすように俯いたしまった。

 私は千夏ちゃんに声を掛けられず、握った手に力を込めて励ますことも出来ず、ただ成り行きを見守るだけで、そこがなんとも情けない。

 何か、力になれないだろうか考え始めたところで、千夏ちゃんが俯いたままで、ポソリと「知っていたんです」と口にした。

しばらくの間、予定が立て込んでしまったため、更新が不安定になるかも知れませんが、更新可能な日は16時に掲載しますので、予めご了承ください。

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