告白
千夏ちゃんと一緒にリビングに顔を出すと、駐車場まで車を停めに行っていたお父さんも、帰ってきていた。
他に、お母さん、お姉ちゃん、それからユミリンもソファに座っている。
私が空いているソファの席に座ると、千夏ちゃんがその横に腰を下ろした。
そのタイミングで、お母さんが「言い難いことじゃなければ、事情を教えてくれる?」と優しい口調で千夏ちゃんに話しかける。
千夏ちゃんは軽く身体を震わせてから私に視線を向けてきた。
安心して貰うために、私は千夏ちゃんの手を握って、力強く頷いて見せる。
ジッと視線を交わし合っていると、千夏ちゃんは意を決したのか、覚悟を決めた表情を浮かべて深く頷き返してくれた。
「その、私の思い込みかもしれないので……」
不安そうな表情で千夏ちゃんはそう話を切り出した。
すぐにお母さんが「余計なことは気にしないで、千夏ちゃんが思ったまま、感じたままを伝えて」と穏やかな眼差し特徴で声を掛ける。
私も力になるかはわからないけど、応援の気持ちを込めて、握ったままの手に少し力を入れた。
千夏ちゃんはそんな私の手を握り返してから「あの、ちょっと、管理人さんが苦手なんです」と言う。
それは私も感じていたことなので「千夏ちゃんは優しいから柔らかく言っているけど、声を掛けられた時、顔も青ざめていたし、身体も強張らせていたよ」と見たままを言葉にした。
私の言葉を耳にした皆の表情が少し厳しくなる。
そんな中、千夏ちゃんは少し慌てたように「そ、その、ウチはいろいろあって、夜に私一人になることが多くて、それで、あの……気を遣ってくれているので……」と口にした。
対して、お母さんは「千夏ちゃん。ここだけの話にするから、今は気遣いは要らないわ。ただ、千夏ちゃんが感じたままを教えて頂戴……そうじゃないと、私たちもちゃんと状況を理解できないし、これからどうしたら良いかを考えることが出来無いわ」と優しく諭すように告げる。
千夏ちゃんは、お母さんの言葉を聞いてそのまま俯いてしまった。
どうするのがいいのか、自分がどうしたら良いのかを真剣に考え始めたんだと思う。
私は何も言わず、千夏ちゃんが考えをまとめるのを待つことにした。
千夏ちゃんの考えがまとまるのを待つという半田を下したのは、私だけではなかったようだ。
皆が千夏ちゃんを見詰めながら、声を掛けずただ黙ってその時を待つ。
そうして、数分、経った頃だろうか、千夏ちゃんがふぅーーーーと、長く息を吐き出した。
皆の顔を確認するように見渡した千夏ちゃんは「管理人さんは、ウチの事情も知っていて、入居した時から話しかけてくれていたんです」と語り出す。
私を含めた全員が、聞き返さず、頷きを交えながら、千夏ちゃんの独白を聞く姿勢を取っていた。
「その……おかずを分けてくれたり、宅配の荷物を預かってくれたり……」
そこまで言ったところで、千夏ちゃんは表情を強張らせる。
皆は静観の姿勢だけど、ちゃんと話を聞く場面だと頭では理解しているのに、私はその表情を見ているのが辛くて「千夏ちゃん、話したくないなら、今日はここまででも良いよ」と言ってしまった。
千夏ちゃんは、ハッとして私を見る。
少し青ざめて見える強張った表情は、話を続けるのが辛いのだと訴えているように見える。
そんな千夏ちゃんの顔を見ているうちに、仮に皆が続きを聞きたいと言っても、今日のところは私が説得して先送りして貰おうと覚悟を決めた。
「ありがとう、凛花ちゃん」
急にお礼を言われた私は訳もわからず「え? 何が?」と聞き返した。
千夏ちゃんは弱々しく微笑んで「話を切り上げようとしてくれたでしょう」と、私の考えをズバリと当てる。
ビックリで言葉を詰まらせた私を見て、千夏ちゃんはクスクスと笑い出した。
もの凄く恥ずかしくなって、それを誤魔化すように「そ、そんなに、わかりやすいかな!?」と聞いてしまう。
対して、千夏ちゃんは即座に「なんか全て伝わってくる感じかな」と断言した。
「ちょ……」
私がそれはないだろうとツッコミを入れる前に、千夏ちゃんは「ね、良枝先輩?」と織部ちゃんに話を振る。
「そうね。凛花は素直だからね」
「うぇ!?」
お姉ちゃんの返しに、勝手に口から驚きが声として飛び出た。
「どうかしら、凛花ちゃんの親友のユミキチさん?」
「まあ、残念美少女だからなぁ、リンリンは」
「ちょ、みんな!?」
好き勝手言う皆に、抗議の声を上げる私をスルーして、千夏ちゃんは「お母様はどう思われますか?」とお母さんに話を振る。
「自分ではしっかりしてると思っているのが、可愛いのよねぇ」
にこやかな顔で答えるお母さんに何も言えなくなってしまった私は、一縷の望みをお父さんに託した。
視線が合ったお父さんは、笑顔を浮かべるとスッと視線を逸らす。
「お父さん!?」
そのリアクションに思わず声を掛けたお父さんは、視線を逸らしたままで「まあ……素直なのは良いことだと思うよ」と呟きのような小さな声でそう口にした。
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