表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第六章 日常? 非日常?
296/477

帰宅と入浴

「凛華、おかえりー……って、千夏ちゃん?」

 玄関を開けるなり声を掛けてきたお姉ちゃんが、一緒に入ってきた千夏ちゃんを見て目を瞬かせた。

「私が泊まりに来ない買って誘ったの」

 お姉ちゃんが千夏ちゃんに疑問をぶつけてしまう前に、そう言って前に出る。

 私の態度に、お姉ちゃんは何かを感じ取ったらしく、千夏ちゃんから視線をこちらに移して「話は後で聞かせて貰うけど、まずはお風呂で暖まってくること」と言いつけてきた。

 その後で「由美ちゃんと待ってるから、千夏ちゃんと一緒に入ってきなさい」といい加えて踵を返す。

 私は千夏ちゃんに視線を向けると「お姉ちゃんは、ああ、言ってたけど、一人が良ければ……」と口にしたところで、被せるように「二人で良い……二人が良いです!」と言ってきた。

 千夏ちゃんの訴えの勢いに押されて、私は「あ、うん」と頷く。

 それだけで、千夏ちゃんはほっとした表情を浮かべた。

 直前に、マンションでの不安そうな表情を浮かべていたのを見ているので、それが和らぎそうなら、恥ずかしさや気まずさは捨て置こうと気持ちを定める。

 私は、靴を脱いで家に上がると、千夏ちゃんが靴を脱ぐのを待って手を取った。

「それじゃあ、早速入っちゃおう!」


 二人でお風呂に着た私と千夏ちゃんは、早速、着替えを用意してから、服を脱いで浴室に入った。

 浴室の床は小石をモルタルで固めたモノが使われていて、正直、冷たい。

 なので、厚みのあるバスマットを引いて、避難所としていた。

 お風呂用の給湯器はまだ普及し始めたばかりなので、浴槽の横にガス式の大きな湯沸かし器が付いている。

 浴槽と二本のパイプで繋がっていて、お湯を循環させてワカしたり、温め直したりする仕組みになっていた。

 当然浴室内で火を使うので、給湯器からは外に向かって、金属製の煙突が繋がっている。

 お湯は既に沸いているようで、給湯器は動きを止めていた。

 そんな時代の浴室にシャワーが付いているわけも無く、先見やシャンプーを洗い流すのには、浴槽から桶でお湯を掬って身体に掛ける仕組みになっている。

 私はそれなりに日数を過ごしたのもあって、慣れてきたけど、普段、マンション暮らしの千夏ちゃんはまだ難しい筈だ。

 加えて髪も長いので、私は「髪の毛洗ってあげるよ」と伝えて、お風呂用の椅子に座って貰う。

 掬い上げたお湯に少し水を足して埋めてから、ゆっくりと千夏ちゃんの髪に賭けて洗い流してから、シャンプーを使って髪を洗った。


 リンスで髪を仕上げると、今度は千夏ちゃんが、私の髪を洗ってくれると言い出した。

 どう考えても、身体が冷えるから先に身体を洗って、お湯に浸かった方が良いと言ったのだけど、千夏ちゃんは譲ってくれない。

 問答をしてる間に、洗って貰って、先に進んだ方が良いと判断して、千夏ちゃんに任せることにした。

 私の手順通りにシャンプー、リンスと使って仕上げてから、タオルで水分を軽く取ってから、ターバンのように髪の毛を頭の上に巻き上げて止めてくれる。

 お互い、髪の毛が身体に掛からなくなったところで、今度はお互いに身体を洗い合った。


 幸か不幸か、身体のサイズが小さいお陰で、私と千夏ちゃんは並んで浴槽に浸かることが出来た。

 じわじわと身体に染み込んでくる熱が心地良い。

 そんな風にお風呂を味わっていると、千夏ちゃんが「あの……凛花ちゃん」と声を掛けてきた。

 いつもより遙かにテンションの低い千夏ちゃんが、マンションでのことを気にしているのは間違いないだろう。

 そして、何か言い出そうとしているのだけど、私は敢えて「お風呂上がってからにしよう」と伝えた。

 折角覚悟を決めた千夏ちゃんの気持ちを裏切ることになるかもしれないけど「ちゃんと大人の人のいるところで話そう!」と告げる。

 精神面では、私だって十分大人だけど、千夏ちゃんから見たら、同級生なのだ。

 同級生の言葉よりも、ちゃんとした大人であるお父さんやお母さん、それに先輩でもあるお姉ちゃんがいる場で話した方が良いだろう。

 私が提案するよりも、両親やお姉ちゃんの提案の方が、幾分身を任せやすいはずだ。

 千夏ちゃんはそんな私の提案に対して「そうだね、そうする」と頷く。

「じゃあ、しっかり暖まろう」

 そう私が告げると、千夏ちゃんはコテリとこちらに首を倒し頭を預けてきた。

 肩に掛かる千夏ちゃんの重みを受け止めた私は、顔が水没してしまわないように、意識して背筋を伸ばす。

 いろいろ思うことや、不安なことがあるんだろう千夏ちゃんの重みを、文字通り肩で支えながら、こんな風に心の重い物を支えてあげられたら良いなと思った。

 そうして二人して言葉を発さぬまま、しばらくそうやって入浴を続ける。

 ダイブからだが火照ってきたところで「それじゃあ、そろそろ出ようか?」と千夏ちゃんに提案してみた。

 対して、千夏ちゃんは「もうすこしだけ」と小さな声で返してくる。

 まだ落ち着かないんだろうと思って「わかった」と返して、もう少しだけお風呂の時間を延長した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ