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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第六章 日常? 非日常?
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斎藤家にて

 私の問い掛けに動きを止めた千夏ちゃんは、身体を震わせながら何かを口にした。

 おそらくだけど『なんで?』だったように思う。

 ただ、その事に触れるよりも先に、どこか怯えた風に感じる上目遣いで、千夏ちゃんは「いいの?」と聞いてきた。

 私は直前の言葉を言及するよりも、千夏ちゃんを連れ出した方が良いと判断して、少し嘘くさいかもしれないけど、安心して貰えるように笑顔を添えて「もちろん。良いから誘ったんだよ」と返す。

 千夏ちゃんはほんの一瞬だけ、いろんな感情が混ざり合った複雑な表情を浮かべた。

 何を考えたのか、気になるところだったけど、千夏ちゃんが「お世話になります」と私の提案を受け入れを選択してくれたので、そちらの追求は一旦止める。

 千夏ちゃんの背中を押すつもりで「それじゃあ、着替えを取りに行こう! あ、お洗濯は私がするから任せておいて」と伝えた。

 私の積極的な態度に、何かを感じたのであろう。

 千夏ちゃんは泣き笑いのような複雑な表情を浮かべ、大きく息を吐き出した。

 その後で、私の手をギュッと握って「凛花ちゃん。一緒に来て」と私に背を向けて言う。

 私は「もちろん! 行こう!」と返して握られた手に少し力を込めた。


 新築マンションだけあって、千夏ちゃんの部屋のドアは真新しかった。

 ドア横のプレートは何も書かれていないし、通路側のガラス窓に部屋の灯りは灯っていないので、無人……それどころか未入居にすら見える。

 千夏ちゃんは学生鞄から鍵の束を取り出すと、慣れた手つきで解錠して、玄関の扉を開けた。

 ゆっくりと大きなドアが開かれ、玄関へと続く長い廊下と、奥の部屋に入口のガラス扉が見える。

 だが、廊下にも、奥の部屋にも灯りは灯っていなかった。

 それに加えて廊下には、まだ開封すらされていない段ボール箱が積まれている。

 およそ生活感を感じない部屋の中へと足を踏み入れた千夏ちゃんは、こちらに振り返って「あの、まだ、その片付けられていないけど、上がって」と声を掛けてきた。


 玄関ポーチに入ると、独特の匂いが感じられた。

 他人の家の匂いでは無く、真新しい木材や内装の匂い。

 まったく人の温もりがしない廊下にパチッと言う音共に灯りが灯った。

「着替え持ってくるから……」

 千夏ちゃんの目が、私はどうするのかとp尋ねているように思えたので、私は「玄関で待っているよ」と伝える。

 対して千夏ちゃんは「あ、あの、もし嫌じゃなかったら、わ、私の部屋までついてきて貰っても良いかな?」と僅かに声を震わせて尋ねて来た。

 千夏ちゃんが何かに怯えていて、私が視界から消えることを怖がっているんじゃないかと考えて「それじゃあ、お邪魔します」と笑顔で返す。

 対して、千夏ちゃんは少し慌てたように「待って、ちょっと待って!」と強めにストップを掛けてきた。


 私はトラ猫の足をもしたもこもこのスリッパをはいて、千夏ちゃんの部屋の前に立っていた。

 千夏ちゃんがストップを掛けたのは、このスリッパを履かせるためで、自分の部屋まで慌てて駆け込むと、ほとんど間を置かずこのスリッパを手に戻ってきたのである。

 正直、何か打ち明けるのを躊躇するようなモノを抱えているんでは無いかと身構えていたので、ストップの理由がスリッパだったのには、肩透かしを食らった気分だ。

 ちなみに、千夏ちゃんは私とお揃いのスリッパを履いている。

 違いと言えば、私が茶系の明るい毛色で、千夏ちゃんがグレー系の毛色ということくらいだった。


 千夏ちゃんに連れられて、彼女の部屋の入口まで行くと、その室内を見ることが出来た。

 入って右手に、教科書の並ぶ木製の学習机、沢山の本が詰め込まれた畳一畳くらいのサイズはありそうな大きめなの本棚が並べられている。

 部屋自体は洋室で、入口と反対の壁にベッドが置かれていて、窓の類いは無かった。

 入って左手には、私の胸くらいまでの高さの洋服ダンスが置かれている。

 千夏ちゃんはそのタンスから着替え類を手早く取り出して、部屋に置かれていたバッグに詰め込んだ。


 短時間で着替えを鞄に詰め込んだ千夏ちゃんは「お待たせ」と言うと、さっさと自分の部屋のドアを閉めてしまった。

 見られたくないのだろうなと思い、私は「お父さんが待ってるから急ごう」と告げて、玄関へ戻る。

 玄関ポーチで、もこもこスリッパから履いてきた靴に着替えながら「ところで、制服のままで良いの?」と尋ねてみた。

 千夏ちゃんは「明日学校に行くのに制服はいるし、お泊まりに持っていくのを忘れないように、と、思って」ともっともらしい理由を口にする。

 正直なところ、私は、早くマンションを離れたいのが理由では無いかと思った。

 もちろん、千夏ちゃんはそんな事は口にしていないし、煮お合わせも無いけど、何故か強く確信が出来た。

 なので私もその点は指摘せず、代わりに「お父さん、待ってるだろうから、急がないとだね!」と急ぐ理由を挙げてみる。

 千夏ちゃんは大きく頷くと「そうだね、おじさんを待たせるのは良くないね」と同調してくれた。

 二人で頷き合って、すぐに部屋の外に出ると、すぐにドアに施錠する。

 後は帰るだけなので、一階でスクリーンを再度展開する準備をしながら「エレベーターで良いんだね?」と確認してみた。

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