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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第六章 日常? 非日常?
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不穏

「じゃあ、また明日ー」

「うん! うんっ! また明日ね、凛花ちゃん!」

 私の別れの挨拶に対して、千夏ちゃんのは今生の別れかと思うぐらい大袈裟だった。

 でも、それだけ惜しんでくれているのだと思うと、やっぱり嬉しい。

「明日も部活で会えるんだから、ね?」

 腕に力を入れて千夏ちゃんを抱きしめた。

 史ちゃん、加代ちゃんやユミリンと違って、クラスの違う千夏ちゃんとは会う機会が少ない。

 クラスでのことまではわからないけど、私たちが入部するまで演劇部所属の一年生で、演者希望は千夏ちゃんだけだったのもあって、割と一人で過ごすことが多かったようだ。

 引っ越してきたばかりで、こっちでの友人もまだ出来ていなかったみたいだし、家族とも疎遠気味なのもあって、縋って聞く垂れているんだと思う。

 とはいえ、依存しすぎるようになってはいけないので、突き放すことにならない程度にキョp理を保たなければと、私は抱きしめた千夏ちゃんの背中を軽く叩きながら「運転してくれたお父さんも、休ませてあげたいし」と少しズルイかなと思いながらも、お父さんを引き合いに出した。

 千夏ちゃんは頭も良いし、人を思いやれる優しい人なので、それで納得してくれて「そうだね」と返してくれる。

 納得したというよりは、納得しなければいけないと言い聞かせるような表情を浮かべて、千夏ちゃんは私から身体を離した。


「お父さん、お部屋まで送ってきても良い?」

 私がそう尋ねると、お父さんは「マンションの駐車場で待ってるよ」と運転席から笑顔で応えてくれた。

「あんまり遅くならないようにね」

 お父さんの言葉に「はい」と答えて、千夏ちゃんの腰を押してマンションに向かう。

「凛花ちゃん、こ、ここでいいよ」

 もの凄く悲しそうな顔で言う千夏ちゃんに「私も千夏ちゃんのお部屋番号とか、遊びに来た時に同輩ったら良いか、覚えておかないとだから」と返した。

 千夏ちゃんは泣きそうな顔を途中で笑顔に変えて、小さな声で「うん」と言う。

 承諾して貰った私は、お父さんを待たせているのもあって、少し急かすように千夏ちゃんの背中を押した。


 千夏ちゃんの部屋は四階なので、エレベータで上がるのだけど、リーちゃん情報によると、この時代では、エレベーター完備はかなり新しめのマンションだそうだ。

 オートロックなどのセキュリティはまだ発展していない。

 建物入ってすぐのメインエントランスには、各戸の郵便受けが設置されていて、その対面には管理人室が設置されていた。

 千夏ちゃんは、管理人室を背に、自室である403の郵便受けをチェックすると、足早にエレベーターへと向けて歩き出す。

 少し変だなと思いながら後を追うと、すぐに背後の管理人室の扉が開かれた。

 千夏ちゃんがビクッと身体を震わせたので、私は咄嗟に目を出現させて、片目を閉じる。

 閉じた片目に、目で捉えた背後の……管理人室の扉を映し出した。


 管理人室からは年配の女性が顔を出した。

 ほぼ同じタイミングで、エレベーターの前に立つ千夏ちゃんが、上階行きのボタンを強めに押し込む。

 状況からの推測でしか無いけど、千夏ちゃんが管理人さんが苦手なんじゃ無いかと思った私は、目を巨大なスクリーンのように変化させて、そこに誰もいないエレベーターホールを映し出した。

 潜入捜査の訓練中に編み出しためくれマシの術だけど、一般の人にも事実誤認させることが出来る優れものである。

 マジックミラーのようになっていて、私のいる側からは普通に管理人室のよう素が見えるけど、管理人室側からは、私が意図的に作り替えたエレベーターホールの光景が見えるのだ。

 チンと到着を伝えるエレベーターの発する音を、スクリーンで吸収して管理人さんと思われる女性に音が届かないように調整した。

 千夏ちゃんと二人でエレベータに滑り込むと、千夏ちゃんはドアに背を向けたまま「よ、四階」と小さな声で言う。

 私は「うん。押すね」と伝えてエレベーターのボタンパネルを操作した。


 ドアが閉まりエレベーターが動き出したところで、千夏ちゃんは両膝に手を置いて大きく息を吐き出した。

「千夏ちゃん」

 私が名前を呼ぶと、千夏ちゃんが弱々しい顔でこちらに振り返る。

「大丈夫?」

 軽く身体を抱き寄せながら声を抑えて問い掛けた。

 人の温もりが、不安を溶かすと聞いたことがあるので、抱きしめて背中を叩きながら「どうしたの?」と尋ねる。

 丁度、四階に辿り着き、ドアが開くと、千夏ちゃんは返事をせずに、私の手を引いて四階の廊下に飛び出た。

 何があったのかはわからないけど、普通じゃ無い千夏ちゃんの様子に、心配な気持ちが強まる。

 千夏ちゃんはそんな私の変化を感じ取ったのか、なんだか言い難そうに「ごめんね」と口にした。

 正直、原因が気になって仕方が無いところだけど、ここで無遠慮に聞くのは違うと、踏み止まった私は、千夏ちゃんに尋ねる。

「もし、千夏ちゃんが……」

 そこまで口にしてから、私はその先を言うのを止めた。

 本当はもしよければと続けようと思っていたのだけど、それじゃダメだと思ったのである。

 だから、深く深呼吸をして気持ちを切り替えた私は「今夜もウチに泊まりに来ない?」と誘い言葉に変えた。

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