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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第一章 過去? 異世界?
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触れ合い

 お風呂は一番奥にあるので、お父さんと一緒に廊下を歩いていると、じゃらじゃらと何本もの木の球が数珠つなぎになったのれんをかき上げながら、顔を出したお母さんが声を掛けてきた。

「なんだか、楽しそうでしたねー」

 お父さんはとぼけた顔で「今、この可愛い仲居さんに風呂を案内して貰ってるところだ」と言う。

 お母さんは私に視線を向けてから微笑むと「あら、女将さんじゃ無いの?」と首を傾げた。

 二人のノリに、上手く返さなきゃと思ったんだけど、私は一瞬言葉に詰まってしまう。

 それでも、どうにか「女将さんな訳ないよ! それはどっちかっていうとお母さんか、お姉ちゃんじゃ無いかな!」とは言えた。

 するとここで、ユミリンが後ろから私の肩を抱くように腕を回してきて「リンリンなら、お宿の座敷童が向いてるんじゃ無いかな」と言い出す。

 お父さんが「お、ユミちゃん、いらっしゃい」と笑顔柄で声を掛けると、ユミリンは「おじさん、お邪魔してます」と私に抱き付いたまま挨拶を返した。

「座敷童って、妖怪よね。テレビの漫画で見たことある様な気がするわ」

 頬に手を当てて、おっとりとした口調で言うお母さんに、お父さんが「座敷童は東北地方に伝わる子供の妖怪だな。座敷童のいる家は幸運に恵まれるそうだよ」と座敷童について説明する。

「あら、お父さん、詳しいのね」

 お母さんがニコニコしてそう言うと、お父さんは「まあ、僕は妖怪の類いが好きだからね」と笑みで返した。

 そこにパタパタと足音を立てて、二階から戻ってきたお姉ちゃんが「未だ、ここで止まってるの?」と呆れたような声を上げる。

 さらに、お姉ちゃんが「お父さんがお風呂出てくれないと、ユミちゃんご飯食べれないでしょ」と続けると、お父さんは「ああ、そうだったね」と言って、着替えを受け取った。

「可愛いお嬢さん方を四人も待たせる訳にはいかない。不肖林田正一、風呂に突貫してクルであります!」

 そう言って敬礼したお父さんは、軽やかな足取りでお風呂場に向かって行ってしまう。

 お母さんはその背中を見送りながら「四人って、相変わらず気取ったことを言うのね、お父さんは」と苦笑を浮かべた。

 ただ、口ではそう言いながらも、気持ちの上では嬉しかったのかもしれない。

 台所に戻ったお母さんは鼻歌交じりで、コンロの火を付けていた。


「リンリンのおじさんもおばさんも仲良いよね」

 二人のやりとりから見てもそれは間違いないだろうと思いながら、私は「うん」と口にして頷いた。

 ちゃんと、元の世界ではもういないお母さんと会ったのは、初めてなのに、本当のお母さんでは無いのに、ユミリンに『仲が良い』と評されたことが、自分でも驚くほど嬉しくて誇らしい。

 自分が気持ちよくなっていたせいで、ポソリと放たれた「良枝お姉ちゃんとも仲が良いし、羨ましいなぁ」というユミリンの呟きに、私は反応できなかった。

 そんな不甲斐ない私と違って、お姉ちゃんはユミリンの横に座って「ユミちゃんがどう思ってるかはわからないけど、ユミちゃんも私の大事な妹だよ」と言ってその頭をなで始める。

 気持ちよさそうに目を閉じてお姉ちゃんの手を受け入れたユミリンは、しばらくして目を開けてこっちに視線を向けてきた。

「私も、妹の頭を撫でたい」

 何か言い出したユミリンにジト目を向けて「妹に心当たりがありませんが」と棘付きで返す。

 対してユミリンは「凛花」と言いながら自分の太ももを叩き始めた。

「なに? どこかの部族の儀式?」

 ジト目でそう切り返すと、ユミリンを撫でていたお姉ちゃんが噴き出す。

「部族って……あはははは」

 お腹を抱えて笑い出したお姉ちゃんに釣られて、私もユミリンも笑い出してしまった。


 しばらく笑い合った後で、改めてユミリンが「ん」と言いながら自分の太ももを叩き始めた。

「なんで、シレッと仕切り直ししてるんですか!」

 私のツッコミに対して、ユミリンは「んーーー」と同じリアクションを繰り返す。

 それを見てまたも笑い出したお姉ちゃんが「もう、皆で見に行ったアニメ映画の男の子みたい」と言ってお腹に手を当てた。

 お姉ちゃんの言葉で私が連想したのは、妹と雨宿りしている主人公の女の子に、素直になれなくて意地悪してしまう男の子がぶっきらぼうに自分の黒い傘を貸すシーンだったのだけど、こんな昔に公開された映画なんだろうかという疑問が湧いてしまう。

 私の意識が自分から逸れたことに気付いたのか、ユミリンは「ん~~~」と言いながらバシバシと自分の脚をたたき出した。

「ちょ、ほ、ほら、凛花、ゆ、ユミちゃんの、太もも、は、腫れちゃうから」

 笑ってるせいで言葉が途切れ途切れになっているお姉ちゃんと、止める気配のなさそうなユミリンの容姿に、私は盛大にわかりやすく大きな溜め息を吐き出してみせる。

 確かに映画の男の子みたいに傘を置いて帰るなんて虚構手段は執れないよねと思いながら、太ももに座らせようとしたことを後悔させてやると意気込んで、私は思いっきり勢いを付けてユミリンの太ももに腰を下ろした。

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