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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第六章 日常? 非日常?
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試着体験

 心境を簡潔にまとめると『どうしてこうなった』の一言に尽きるものだった。

 正直、諦めの境地に達してしまっているので、早くすませてしまおうという気持ちで、お姉ちゃんから渡された体操服を前に、制服を脱ぎ始める。

 別に、お姉ちゃんやお母さんに着てみせるだけなら、なんとも思わない……多少気恥ずかしい程度だけど、ゲストがたくさん来てしまっているのだ。

 帰り道で生き生きと体操服の試着を提案してきたお姉ちゃんを止めようとする人がいなかった時点で、こうなる流れはできあがってしまっていたような気がするので、考えようとも、例え過去に戻れようとも、覆すことは出来無いとは思う。

 そんなわけで、諦めの境地に至った私は、早く終わらせてしまうことに専念した。


 私を見た瞬間楽しそうにお母さんが口を開いた。

「あら、なんか、赤ちゃ……小さな女の子みたいで可愛いわね」

 お姉ちゃんは決してふくよかということは無いけど、身長が30センチほど違うので、かなりサイズが違う。

 ブルマ自体は伸びやすい素材だし、腰はゴムが入っているので、腰ベルトで留める制服のスカートと違って、それほどぶかぶかということは無いのだけど、ちゃんと履くとそのゴムがおへそより上に来てしまうのだ。

 当然ブルマの紺が覆う範囲は大きくなるので、見た目がお母さんの言いかけた『赤ちゃん』……いわゆるベビー服っぽく見えるのは、いささか不本にながら理解できてしまう。

 そんな私を見て目をキラキラさせてる同級生の皆に、羞恥心を掻き立てられていると、お姉ちゃんがもの凄く真面目な顔で「ちょっと、肌着が見えそうで、危ないわね」と、もの凄く自然な動きで、私の着る体操着の襟に指を突っ込んできた。

 ビックリして「お、お姉ちゃん!?」と声を上げてしまった私に対して、お姉ちゃんはもの凄く冷静に「これは、ちゃんと凛花のサイズの物を買わないといけないんじゃないかしら」と呟く。

「お、お姉ちゃん?」

 私の声が聞こえていないのか、お姉ちゃんは私の襟から手を離すと、そのまま腕組みをして、何かを考え始めた。


「あの、お姉ちゃん? 私自分のサイズの体操服持ってるからね、二着も!」

 思考の世界に入り込んでしまったお姉ちゃんに声を掛けるも、まったく反応は返ってこなかった。

 助けを求めようと、史ちゃん、加代ちゃん、千夏ちゃんと、ゲストメンバーに視線を向けるものの、にこやかな笑顔を返してくるだけで、助けを得られそうに無い。

 となれば、頼れるのは親友のユミリンだろうと視線を向けたのだけど、ニッと笑ってお手上げポーズで首を左右に振って見せた。

 私自身にもどうにか出来る気がしないので、ユミリンの態度も仕方が無いとは思う。

 頼りないなんて考えるのは良くないと自分を、心の中で叱りつけていたところで、視線の先にお母さんを見つけた。

 お母さんは少し困ったように笑ってから「考え事に没頭して周りが見えなくなるのは、お父さんそっくりねぇ」と溜め息を吐き出す。

 その後で「良枝、凛花が動かない良枝を見て心配してるわよ」とお母さんはお姉ちゃんの耳元で囁いた。

 直後、口で「はっ」と声を発するくらいわかりやすく我に返ったお姉ちゃんが私を見る。

「お、お姉ちゃん?」

 恐る恐る声を掛けると、お姉ちゃんは私をみたまま「お母さん」と口にした。

「何かしら?」

 軽く首を傾げて返すお母さんに「お年玉を全部使って、凛花の体操服を買い足すわ!」と何がどうなってそうなったのか推測のつかない言葉を言い放つ。

「お、お姉ちゃん?」

 動揺もあって、同じ言葉を繰り返してしまった私の肩に、お姉ちゃんは手を置いて「安心して頂戴! 凛花が間違ってもポロリしないように、ぴうったりさいずの体操服を買い足してあげるからね!」と力強く宣言した。

「落ち着いてお姉ちゃん、私、自分用のものはちゃんとあるから!」

 私の返しに対してお姉ちゃんは「だって、襟元から肌着が見えてしまっているわよ!」と表情を引きつらせる。

 全然我に返っていなかったお姉ちゃんを前に、私は「お母さん」と助けを求めた。

 お母さんはスススッとお姉ちゃんの背後に近づくと「安心して良枝」と言いながら、もの凄い速さで脇腹に人差し指を突き刺す。

「ひょわっ!」

 不意打ちに目を見開いてお母さんの指から逃れるように、お姉ちゃんは身体をくの字に曲げた。

「妹思いなのは素晴らしいと思うけど、凛花のお洋服くらい買ってあげられるから、安心し」

 マイペースで言葉を続けるお母さんの視線の先には、疲れた脇腹を押さえてうずくまるお姉ちゃんの姿がある。

 しばらくその姿勢のままプルプル震えていたお姉ちゃんは、ピタリと動きを止めた。

 それからゆっくりと立ち上がると「ゴメンなさいね。凛花、お姉ちゃんちょっと暴走してたみたい」と軽く頬を染めて恥ずかしそうに言う。

 いろいろ言いたいことはあったものの、我に返ったなら良いかと考えて「大丈夫だよ、お姉ちゃん。心配してくれてありがとう」と伝えるだけに留めた。

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