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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第六章 日常? 非日常?
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先輩の説明

「最初にいっておくと、私はまー子のような切り替えは出来無いわ」

 断言した松本先輩に「それじゃあ、松本先輩はどういう演じ分けをしてるんですか?」と尋ねてみた。

 松本先輩は、ピタッと動きを止めてから「良いわ。先にその話をしましょう」と言う。

「あ、話す順番を決めてたなら、後でで良いので」

 私の発言に対して、松本先輩は「どうせ話すことだし、順番が変わった所で気にしなくて良いわ」とサラリと流してしまった。

 更にそのままの流れで、松本先輩は話を始める。

「まず、私に演じ分けが出来ているのかっていう大きな問題があるけど、人物像を思い描くのはまー子や凛花ちゃんとそう大きく変わらないと思うわ」

 確かに演ずる以上、その演じるキャラクターをイメージするのは当たり前だ。

 納得の上で頷くと、それを見ていた松本先輩は更に先を話してくれる。

「まー子の場合は、そのまま意識をその人物に切り替えられるわけだけど、それが出来ない私は、その人物だったらどう動くかを想像するの」

「どう動くかですか……」

 言いたいことはわかるものの、実像が少しぼやっとしてしまっていて、私の中ではきっちりと定まらない感じがした。

 それを察してか、松本先輩は「例えば、朝の挨拶ね」と言う。

「朝の挨拶?」

 私の聞き返しに頷いた松本先輩は「おはようというのか、それともおはようございますなのか、あるいは言わないのか……言わないなら、初めから挨拶するつもりが無いのか、引っ込み思案なのか……って感じで、その人物がどういう感じなのかを考える訳ね」と具体例を出してくれた。

 ここまでは理解したと言うことを伝えるために頷くと、松本先輩は「まー子の場合は、挨拶の次は歩き方だったり、口癖だったりを考えて人物像を不可折りしていって、自分の中に人間一人を造り上げていくんだけど……私の場合はそこまでしても、演技には活かせないのよ。残念ながら、ね」と言って苦笑する。

「だから、私がやるのは、挨拶の仕方の応用……この時のセリフを、その人物はどういうつもりで言うのかを考えるの」

 人物の深掘りという共通点はあるけど、その人物の心理を解析して、自分の中にその人物像を組み上げる赤井先輩と違って、似たことはするものの、セリフに注目して、そのキャラクターがどういう気持ちで言うのか、どうして言うのかを考察するのが松本先輩流のようだ。

「なりきれれば自然と言葉が出てくるんだろうから、羨ましい能力だと思うわ」

 軽い溜め息交じりの松本戦費あの言葉は、本心なんだろうなというのが感じ取れる。

 そんな松本先輩は私を真っ直ぐ見ると「だから、おいなじ事が出来そうな、凛花ちゃんも羨ましいわ」と言われてしまった。

 ただ、そこには嫉妬とか、逆に羨望という色は感じ取れない。

 多分だけど、赤井先輩と練習を重ねてきたらしい松本先輩は、自分には習得できない能力だと、折り合いを付けているのだろうと思った。


「まあ、そんなわけで、人物の心理を予測するところまでは同じ過程を辿るわけだから、その方法は凛花ちゃんの参考になるかなって思うの」

 そう言ってくれた松本先輩に頷きで返しつつ「確かに、勉強になると思います」と伝えた。

 ただ、松本先輩にはプラスになりそうにないので、私は「でも……」と口にしてしまう。

 対して、松本先輩は軽く左右に頭を振ると「まあ、先に聞いて頂戴」と言われてしまった。

 私は続きを口にせず、松本先輩の言葉に「はい」と応じる。

「セリフの人物が、それを口にした時、何を考えていたかを話し合えば、私の思い付かない考えを凛花ちゃんが示してくれるかもしれないでしょう? そうしたら、私は新たな考え方……大袈裟に言えば可能性に出会えるわけじゃ無い? だとしたら、大きなプラスでしょ?」

 松本先輩はそう言って笑顔で話を締めくくった。

 確かにと思った私は「じゃあ、松本先輩にもプラスがあるんですね?」と尋ねる。

「そもそも、私が何かを凛花ちゃんに教えるだけだったとしても、どう伝えるか、どう伝わったかっていうのを知るだけでも、勉強になるものなのよ」

 松本先輩が言い加えた事は、私自身、耳にしたこともあるし、実感したこともある考え方だ。

 誰かに何かを教えると言うことは、一方的な行為では無く、教える相手の反応から学べることも多い。

 松本先輩の言っていたどう伝えるかを考えることは、知識を深めることになるし、どう伝わったかを知ることは、自分の指導方法の有効度合いを測ることが出来るので、ともに教師としては欠かせない視点だ。

 だからこそ、松本先輩のいうプラス面には納得しか無い。

 私がそう考えたのをバッチリと読み取ったのであろう松本先輩は「凛花ちゃんにしっかり伝わったようで嬉しいわ」と柔らかな笑みを浮かべた。

 完全に読み切られているという事実に、既に何度目かわからないお釈迦様の手の上を飛び回った孫悟空の気分を味わった私は苦笑する。

 そんな私を見ながら、松本先輩はクスクス笑って「また、孫悟空の気分?」とズバリ考えを見透かして、心臓をドキッとさせてきた。

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