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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第六章 日常? 非日常?
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新たなパートナー

 苦笑を浮かべながら、松本先輩は「姫ちゃんも、大変だったね」と言ってくれた。

 気遣ってくれたのはわかるし、申し訳ないなと思いながら「松本先輩、今は姫ちゃん止めてください」と伝える。

「あー、じゃあ、凛花ちゃんで良い?」

 すぐにそう聞いてくれた松本先輩に「すみません。助かります」と頭を下げた。

「ま、まあ、あんなに持ち上げられるとね。凛花ちゃんは、それで気持ちよくなっちゃうタイプじゃ無さそうだしね」

 そう言ってくれた松本先輩に「わかってくれて、嬉しいです。ありがとうございます、松本先輩」と感謝の気持ちを伝える。

 すると、松本先輩は「あー」と声を漏らした。

「どう……したんですか? 松本先輩」

 私がそう尋ねると、松本先輩は苦笑いを深めて「凛花ちゃんは純粋な気持ちでやってると思うんだけど、その満面の笑顔は危険だと思うわ」と言う。

 私が瞬きをしていると、松本先輩は「なんか、女の子の理想像そのものな上に、嫉妬しても無駄だなって思わせてくる圧倒的可愛さなのよね。凛花ちゃん……だから結局、悪感情を抱こうとしても応援とか憧れになっちゃうのね」と言いながら溜め息を吐き出して、眼鏡を外した。

「え、えーと……」

 言葉に困っていると、松本先輩は眼鏡を外したままで、私をしっかり見て「まあ、凛花ちゃんのせいじゃないわ……演じているんじゃ無ければね」と言う。

「あ、あの……」

 何か言わねばと焦る私に松本先輩は眼鏡をかけ直しながら、掌を見せて、私の言葉を遮った。

「必死に説明しなくても、凛花ちゃんが理想の女の子を演じてないのはわかっているわ」


 私と松本先輩が二人きりで話ているのは、昨日に引き続き、先輩とのマンツーマン練習となったからだ。

 昨日と同じく、赤井先輩についてスイッチの習熟に励みたい気持ちもあったが、今日の組み合わせの相手は、くじ引きの結果、セミロングと眼鏡が特徴の松本先輩となったのである。

 裕子さんと私の違いの話から始まった、私の『姫』加減についての言い合いは着アスヒとが多かったせいで変に盛り上がってしまった。

 昨日に引き続きマンツーマン練習にンッ田のは、冷却期間を作るためだったのだろう。

 誰かが調整してくれたのか、偶然かはわからないものの、姫談義に参加していなかった松本先輩と当たった時は、正直ホッとした。

 褒めてくれるのは嬉しいし、ありがたいとは思うのだけど、何しろ居心地が悪い。

 戸籍でも身体的にも、父である林田京一と、私、林田凛花は完全な別人ではあるのだけど、やっぱり『自分が本当は京一なのだ』という意識を消し去ることは出来ていなかった。

 そのせいで、褒められている凛花は、自分では無いという気持ちが、嬉しさとか感謝とかを上回ってしまって、素直にはしゃげない。

 自分で改めようと思っても改められない今の状況で、褒めちぎられるのは苦しくなりそうだったので、引き当てたのが、一歩引いて見ていた松本先輩だったのだ。


 松本先輩が台本を手に、何事もなかったような落ち着いた様子で「とりあえず、練習を始めましょう」といって微笑んだ。

 一度、成人を経験している私が言うのはおかしいけど、大人を感じてしまう振る舞いだと思う。

「凛花ちゃん?」

 首を傾げながら声を掛けられた私は、慌てて自分の分の台本を手に取った。

「最初に言っておくけど、私はまー子……赤井さんのスイッチみたいな演技技術は無いわ」

 松本先輩は赤井先輩を『まー子』って呼ぶんだなと言うところに意識を持って枯れてしまっていたので、返事のタイミングがおくれてし舞う。

「は、はい」

 私の反応に、松本先輩は「なにか考えてたみたいね」と、ズバリ言い当ててきた。

「あ、えっと……その、松本先輩は赤井先輩をまー凝って呼んでるんだなぁと思って」

「ふふふ。関係性が気になるかしら?」

 素直に頷くのは、物見高いと思われないだろうかと思って、一瞬、返事に窮して黙ってしまったものの、冷静に考えて、松本先輩は私の心理をかなりしっかり読み取っているので、今更だなと言う考えが湧いてくる。

 なので「正直、気になりました」と白状することにした。

「素直なのは良い事よ。何でもかんでもツッコんでくるわけじゃ無くて、躊躇や躊躇いを挟んだ上で、好奇心に逆らえなくて聞いちゃうなんて、最高に可愛いと思うわ」

 松本先輩は淀みなく澄まし顔で言うけど、バッチリ心情を味到された私としては、誰もいなかったら悶絶して転げ回りそうなほど恥ずかしい。

「私も、今度は姫ちゃん談義に参加しようかしら」

 耳に入ってきた松本先輩の発言に、ハット我に返った私は、止めようと顔を上げたところで、柔らかな笑みに迎撃された。

「冗談。揶揄っただけだから、安心して、ね」

 完全に元遊ばれているとわかる松本先輩の言葉に、腹立たしさも怒りも沸いてこない。

 ただ、単純に上回れてしまったことに対する心地良いほどの敗北感だけがあった。

「……あら、また面白そうなこと考えている?」

 私を見詰めながら、なにかを感じ取った松本先輩はそう言って首を傾げる。

 流石に、内容までは読めなかったようなので、私なりに返すことにした。

「例えるなら……」

「例えるなら?」

「お釈迦様には適わないと実感した孫悟空の気持ちですね」

 私の例えに、松本先輩は目を大きく見開く。

 その後で、お腹を押さえて笑い出した。

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