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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第六章 日常? 非日常?
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我が道を行く

「美保子さん。私も出来る限り協力しようと思うわ」

 昼食の始まりと同時に、演劇部組で固まってお昼を食べようとしたところで、椅子とお弁当の包みを片手にやって来た裕子さんが、そう宣言した。

 珍しく名前で呼ばれた委員長は短く「助かるわ」と返す。

 言葉足らずにも思えたけど、二人の間ではそれで十分だったようで、お互い不満の様子は感じられなかった。

 その代わりにユミリンが「いや、シレッと加わってるけど……」と口にしたところで、裕子さんは「そうね!」と言って遮る。

 その上で「今日からお昼にませて貰うことにしたから、よろしく」と優雅に頭を下げた。

 完全に裕子さんのペースに飲まれていたのもあって、思わず私は「よろしく」と返してしまう。

 すると、裕子さんはさっさと委員長の隣に椅子を置いて、自分のお弁当の包みを広げだした。

 ここでオカルリちゃんが「あー、流石にかまぼこは入ってないかぁ」と、裕子さんのお弁当をのぞき込みながら余計なことを口走る。

「なにか、おっしゃったかしら?」

 澄まし顔の裕子さんは、右手でオカルリちゃんの顔を押しつぶすように鷲掴んでいた。

 藻掻くオカルリちゃんと澄まし顔の裕子さんのギャップがもの凄く怖い。

 そう思っていると、ユミリンが「あ、アイアンクローだと!」と声を漏らした。

 そんなユミリンの発した声に、何故か周囲でお昼を食べていた男子が反応する。

 周囲から好奇心の籠もった目が集まってくる中、裕子さんは興味を無くしたかのようにパッとオカルリちゃんを締め付けていた手を離した。

 解放されたオカルリちゃんは、裕子さんの指跡が残る顔を抑えながらプルプルと震えている。

「だ、大丈夫、オカルリちゃん?」

 声を掛けたオカルリちゃんは「あ、頭が割れるところだったけどね」と軽口で返してきた。

 ただ、流石にダメージがあるからだろう。

 いつもよりも声の張りは無かった。


「なるほど、プロレスの技なのね。アイアンクローって」

 うろ覚えだったけど、やっぱり、先ほど裕子さんがオカルリちゃんに放った鷲掴みの技名だったようだ。

 確認も兼ねて聞いてみたら、ユミリンが興奮気味に説明してくれたので間違いないだろう。

 ちなみに、男子達がこちらを向いたのも、ユミリンが技名を口にしたのに反応したようだと、リーちゃんが補足してくれた。


「しかし、まさか、ヒロがアイアンクローの使い手だとは思わなかったわ」

 浅い頷きを数度繰り返しながら、ユミリンは感心してみせた。

 対して、裕子さんは「ちょっと待って」とユミリンにストップを掛ける。

「うん?」

 反応したユミリンに向かって、裕子さんはオカルリちゃんに技を掛けたときと同じ、背筋が何故か寒くなるような笑みを浮かべて『いくつか確認したいのだけど、良いかしら?」と尋ねた。

「どうぞ」

 ユミリンにそう言われた裕子さんは「その、拾って言うのは私のことで合ってる?」と問う。

「ああ、名前と苗字を縮めて言うのはいやだって言ってたから、いやなら返るけど?」

 裕子さんは「いえ、いやじゃ無いわ……というより、配慮してくれてありがとう」と軽く頭を下げた。

 ユミリンはオカルリちゃんを見ながら「流石に、どっかのオカルリ(アホ)と違って、嫌だってことはしないさ」と返す。

 直後、二人はしっかりと握手を交わし合った。

 どうやら通じ合うものがあったらしい。

 私がそんな風に思って二人を見ていると、委員長がパンパンと手を叩いた。

「委員長?」

 目を瞬かせながら見た委員長は、苦笑を浮かべている。

 ふっとい気を吐き出した委員長に「ほら、早く食べないとお昼が終わっちゃうわよ」と言われて、皆と顔を見合わせた私たちは、少し急ぎ目にお昼を食べ始めた。

 

 皆で部室へ向かうメンバーの中に、スルリと混ざっていた裕子さんが「放課後は演劇部なのね」と口を開いた。

「いま、新人戦と文化祭の演目決めの最中で、全員がまず全部の役をやってみることになったんで、その練習をするんです」

 私がそう説明すると、裕子さんは「なるほど」と頷く。

「それで、ヒロは部活に参加するのか?」

 ユミリンの問い掛けに、裕子さんは「今日はお花のお稽古があるから、挨拶だけ、今度見学させていただこうかと思っているので」と明確に答えた。

「演劇部に興味があるんですか?」

 どうして見学に来るんだろうと思って、そう尋ねてみたところ、裕子さんからは「多少はね」という答えが返ってくる。

「多少ですか?」

 意外な答えだなと思っていると、裕子さんは私の目前まで顔を近づけて「どちらかというと林田さん……いえ、凛花ちゃんに興味があるの」と妖艶寝笑みを浮かべた。

 いまいち頭に入ってこない返しに「はぁ」と口にしたところで、私はそのおかしな言い回しに気付く。

「はいっ!?」

 驚きのあまり声が飛び出たものの、続けていったはずの『私に興味があるってどういう意味ですか!』という問いの方は、口が開閉しただけで声は出ていなかった。

「口をパクパクさせてるの。可愛いね」

 目を細める裕子さんに、私の瞬きが早くなる。

 どうにかなりそうだと思ったところで、委員長が「こら、凛花ちゃんは純粋なんだから、惑わすようなことはしない」といって割って入ってくれて、どうにかパニックになる前に踏みとどまれた。

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