来客
ピンポーンと、電子音がして、すぐに立ち上がったお姉ちゃんが「はーい」と言って掛けだしていった。
私はその後に続きながら、この時代だとインターフォンも、モニターも無さそうだということに気が付く。
来客をカメラで映し出すことも、インターフォン越しに通話が出来ないことも、セキュリティ的にはかなり危ないんじゃ無いかと思ってしまった。
そんなことを思いながら追い掛けているお姉ちゃんは、廊下を早足で擦り抜け、玄関まで多度値付くと、玄関に置かれていた大きめなサンダルを踏みつけて、何の躊躇いも無くドアを開ける。
そこに立っていたのは私服姿のユミリンだったので、全く問題は無かったけど、少し不用心だと思ってしまった。
「いらっしゃい。今日も可愛いね」
私服姿のユミリンは、お姉ちゃんが言うとおり確かに可愛い格好をしていた。
赤と白の私服は、沢山のフリルに、大きな膨らみのあるスカート、全体的にもこもこしている感じのコーデで、イメージとしては西洋人形が近い気がする。
「父さんが、勝ってくれるから……その着ないわけにはいかなくて……」
そう言いながら、ユミリンはチラリと私を見た。
どういう糸の視線だろうと思いながら首を傾げると、ユミリンは「こう言うの、本当はリンリンの方が似合うと思うんだけど……」と言う。
お姉ちゃんが「そんなこと無いと思うけど」と言うと、ユミリンは強めの口調で「じゃ、じゃあ、この格好をしてるリンリンを想像してみてくださいよ」と切り返した。
言われて視線を向けたお姉ちゃんが、私とユミリンを交互に観た後で「んー」と言葉に詰まってしまう。
これは悪い流れだと瞬時に察した私は「どっちが似合うとか、似合わないとかじゃないよ!」と強めに訴えた。
ユミリンとお姉ちゃんの目が私に向く。
私は「見て」と言いながら、ユミリンの横に靴下で飛び降りて、その横に立った。
「リンリン?」
「凛花?」
突然の行動に、二人が戸惑いの声を上げる。
気にしたら負けというか、押し切れなくなるので、頭に思い浮かべたで描いた通りに行動を起こした。
「見て、これ」
私はそう言いながら、ユミリンのスカートを引っ張る。
「り、リンリン」
ユミリンが慌ててスカートを抑えに来たので、サッと手を離した。
その上で「私が履いたら、スカートじゃ無くて、ワンピースだよ?」と言ってから、今度は袖のフリルを引っ張る。
「これだって私、手が出ないよ?」
ここで私は腰に手を当てて起こってますという表情を作ってから「私が似合うわけ無いでしょ! どう考えてもユミリンの方が着こなせるでしょ!」と言い切った。
事実を並べて、至った結論だけに説得力はあったのだろう、目を合わせたお姉ちゃんとユミリンは、二人揃って「「ごめんなさい」」と謝ってくる。
納得じゃ無くて、謝罪だったのが、どうにも複雑だったものの、ユミリンが変に自分を卑下するのを止める事は出来たので、良しとすることにした。
ついでに、追い打ちも掛けておく。
「ゆみりんは十分可愛く着こなせているんだから、わざわざ、私を引き合いに出してどっちが上とか下とか言わないの! わかった?」
私の言葉に、ユミリンは「うん、ごめん」と素直に謝ってきた。
「ちゃんと着られない服が似合うわけ無いんだよ」
溜め息交じりにそう言うと、お姉ちゃんが何を思ったから私の頭をなで始める。
更に、それにユミリンまで参加して、私は二人からなで続けられることになってしまった。
玄関の土間に靴下で降りてしまった私は、お姉ちゃんの指示で靴下を履き替えることになった。
学校からずっと履いていた靴下は、校則通りの無地の白だったので、足の裏の形に汚れてしまっていたので、履き替えないわけにはいかず、裸足になってお姉ちゃんと私の部屋に行って、靴下を取り出して履き替える。
脱いだ靴下の方はお姉ちゃんが洗濯機に持って行ってくれたので、私はそのまま居間に向かった。
今には既にユミリンとお姉ちゃんが、大きめなテーブルに向き合うように座っていて、私は無言で自分の横に置いた座布団を叩くユミリンに誘導されてその横に座る。
「宿題ででたのは……」
私が座るとユミリンは早速説明を始めた。
居間で宿題をして少し、いつの間にかやってきていたお母さんに「あら、ユミちゃん、いらっしゃい」と声を掛けられて、私たちは顔を上げた。
お母さんの手にはおぼんがあって、湯気の立つ紅茶と、クッキーやチョコレートが入れられた木製の器が乗っている。
ユミリンは手に持っていた鉛筆を置くと「あ、お邪魔してます」と頭を下げた。
笑顔で「いらっしゃい。ユミちゃん」と返したお母さんから、私とお姉ちゃんに、手で勉強道具を退けるよう指示を出てくる。
お姉ちゃんとは言葉を交わさずに、その指示を果たすと、お母さんは無言でおぼんから紅茶とお菓子の載った木の器を置いた。
私とユミリン、お姉ちゃんが口々にお礼を言ったところで、お母さんは「それで、ユミちゃん。今日はご飯食べていける?」と問い掛ける。
「いいんですか?」
そう返したユミリンに、お母さんは「ユミちゃんが大丈夫なら、ウチは大歓迎よ、ね、良枝、凛花」と私たちに振ってきて、タイミングを合わせたつもりは無かったけど、ほぼ同時に「「うん」」と声が重なった。




