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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第六章 日常? 非日常?
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三度目

 お姉ちゃんも、まどか先輩も、動じない方だとは思っていたけど、赤井先輩の中では、まどか先輩の方が動じないように見えているようだ。

 それが、なんだかおかしくて、クスリと笑ってしまう。

「どうしたんだい、姫ちゃん?」

 赤井先輩は、まるでまどか先輩の様な好奇心に満ちた目をしていた。

 身体を少し前掲させて顔をのぞき込む仕草も、まどか先輩にそっくりで、直前までのお姉ちゃんスイッチの入ってきたときとまるで違っている。

 その事が私の中ではかなりの衝撃で「お姉ちゃんの時と違って、まどか先輩だなと思って」と今思ったままを声に出した。

 対して、赤井先輩は「うーん」と軽く唸ってからニヤリと笑う。

「え?」

 まどか先輩の姿が重なる完璧にトレースされた仕草に思わず声が出た。

 そんな私に、赤井先輩は「それは今感じたことで、本当は別のことを考えていたでしょう?」と言う。

 鋭い指摘に私は思わず「はい」と頷いてしまった。

 赤井先輩は「さあ、姫ちゃん、私に何を考えていたか、告白してごらん」と笑みを深める。

 思わず、私は身が引けてしまったのだけど、無視するつもりはないので「大した事じゃ無いですよ?」と前置きをした。

「もちろん、構わないさ。姫ちゃんの考えていることが知りたいだけだから」

 スッと目を細めて、軽く首を傾げる仕草は、どこまでも私の知るまどか先輩のままで、脳が混乱し始める。

 ともかく答えなければという思いで「その、赤井先輩の中で……お姉ちゃんとまどか先輩だと、まどか先輩の方が動じないって思っているんだなぁと思って」と、どうにか思っていたことを言葉にすることが出来た。

 対して、それを聞いた赤井先輩は、想像以上にあっさりと「そうだね。私もそう思う」と頷く。

「だから、まどか先輩スイッチを入れたんだしね」

 目を閉じながら澄まし顔で言う赤井先輩は、やっぱりどこから見てもまどか先輩そのものだった。


「まどか先輩のスイッチは、自分で言うのも何だけど、だいぶ本物に近づけてると思うんだよね」

 赤井先輩の言葉に、私は全力で頷いた。

「だいぶどころじゃ無いですよ。だって、私、赤井先輩にまどか先輩が重なって見えましたから!」

 それほど強く肯定するつもりは無かったのだけど、思ったよりも興奮していたらしく、一気に気持ちを言葉にしてしまう。

 赤井先輩はそんな私を見て驚くこと無く、本物と同じように柔らかな笑みで「姫ちゃんに総評して貰えるなんて光栄だな」と言ってくれた。

 その言葉に身体が妙な反応をする。

 全身が熱を帯びるし、心臓も少しうるさくなった。

 そんな自分の変調を悟らせたくないと咄嗟に思った私は「そ、それで、さっきは話の途中でしたよね」と切り出す。

 対して赤井先輩は「あー、姫ちゃん」と、困った顔をみせた。

「どうしたんですか?」

 私が聞くと、赤井先輩は「うん。重大な問題があってね」と今度は深刻そうな表情を見せる。

「……はい」

 なにを言うんだろうという未知に対する不安で、さっきまでの熱は冷めた一方で、心臓のドキドキは増してきた。

「まどか先輩スイッチは、相手の反応に動じなくて良いんだけど、説明とか、語りには向いてないんだよね」


「……ご、ごめんね、ひ……凛花ちゃん」

 スイッチをオフにした赤井先輩は、忙しなく視線を泳がせながら申し訳なさそうに言った。

 私は首を左右に振りつつ「いえ、全然気にしないでください!」と強めに伝える。

 赤井先輩が少し不安定になった分、私の方は落ち着けていた。

 目の前に自分よりも動揺している人がいると冷静になれると言うけど、まさにその通りだなと思う。

 そんな事を考えていると、私の沈黙に不安を強めてしまったらしい赤井先輩が「り、凛花ちゃん?」と上目遣いで声を掛けてきた。

 可能な限り刺激しないように柔らかい口調で「あ、すみません考え事をしてしまっていて」と謝罪する。

「あ、うん……大丈夫」

 全然大丈夫そうに見えない赤井先輩の反応をみて、私は対話に集中しなければと意識を切り替えた。

「赤井先輩。えっと、ゆっくりで良いので、私の演技を見て思ったことを教えて貰えますか?」

 しっかりと赤井先輩の目を見てそう伝える。

 やや間を開けてから、赤井先輩は「部長のスイッチを入れても……良い、かな?」と聞いてきた。

「赤井先輩が話しやすいなら、ドンドンスイッチ入れてください!」

 そう返すと、赤井先輩は「ありがとう」と目を閉じて頷く。

 そして、次に目を開けたときには自信に満ちた表情を浮かべていた。

 お姉ちゃんのスイッチを入れたんだなと、一目でわかるのは本当に凄いと思う。

「話の途中で迷走してしまって、その場逃れにまどかのスイッチまで入れて、恥ずかしい限りだわ」

 頬に手を当てて溜め息交じりに言う赤井先輩の姿は、本当にお姉ちゃんにそっくりで「なんか、さっきより、お姉ちゃんに似てませんか!?」と思わず口走ってしまった。

 急な発言で、赤井先輩を動揺させた結果、まどか先輩のスイッチを入れさせてしまったという失敗をしたばかりなのに……と、言ってから後悔する。

 が、三度目のお姉ちゃんスイッチを入れた赤井先輩は「私も姫ちゃんみたいに成長しているのかもしれないわね」と微笑んだ。

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