表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第六章 日常? 非日常?
266/477

分析と告白

「人物像を造り上げて、スイッチで意識をその人物に切り替えるって……ほぼ、再現できてないかしら?」

 若干、引き気味に赤井先輩に言われて、私は言葉に詰まってしまった。

 自分ではまだまだ及ばないという実感がある一方で、確かに流れは整っているように見える。

 私としては精度が全然違うと思うのだけど、それを言うと赤井先輩は「それは、姫ちゃんの望みというか、合格点が高すぎるんだけだと思うわよ」と呆れたように言われてしまった。

 客観的にはそうかもしれないけど、どうにも納得がいかない。

 それが表情に出ていたのか、赤井先輩は少し困ったような顔で「まあ少なくとも、同じような技術を使ってる私から見ても、かなり……というか、ほぼ完璧に再現できてると思うわよ?」と言ってくれた。

 赤井先輩の言葉が、飾りなど無い思ったままの言葉だと思えた私は、一歩踏み込んで自分が足りないと思っていることを伝える。

「で、でもですね。演技の最中、自分が自分で無いような感覚になっていて、演技をした実感がまるでないんです!」

 私の訴えに、赤井先輩はすぐになにかを言うのでは無く、顎に手を当てて何かを考えるような素振りを見せた。

 その反応は想像してなかったので、何を考えているんだろうと強く興味を引かれる。

 同時に変に声を掛けて邪魔をしてはいけないと思って、私は赤井先輩が、別の動きを見せるのを待つことにした。


「演技の間、実感がなかったっていうのは、セリフを口にした記憶がいないってこと?」

 しばらく考えていた赤井先輩が、こちらを見ずに、そう尋ねて来た。

「自分でもはっきりと、自分に起きている状況を把握出来ていないので、少し事実とは違うかも知れませんが、何というか、セリフを読んでいた記憶はあるんですけど、どうも、自分が呼んだって言う感覚が薄い……みたいな感じで……」

 直ぐに応えなければという考えが私の中で大きくなっていたのもあって、言葉をまとめずに口に出してしまったせいで、内容はかなりまとまっていない。

 口にしてから、赤井先輩に迷惑かもと後悔したモノの、思いの外早く言葉が返ってきた。

「それって自分で行動している感じじゃ無くて、誰かの行動を、その誰かの目線で体感しているような感覚じゃない?」

 思いの外的確に私の感じたモノを赤井先輩が言い当てたことにビックリして、私は上手くしゃべれなくなってしまう。

 代わりに、必死に頭を上下に振って、その通りだとアピールした。

 赤井先輩はそんな私に両掌を見せて「大丈夫、伝わってるから、そんなに必死に頷かないで」と言う。

 私が頷きを留めると、赤井先輩はくたびれたように息を吐き出してから「わかって貰えると、想像以上に感動するわよね」と言って今度は柔らかく笑った。


「ちょっと、皆には聞かせたくない話だから、少し声のトーンを落とすけど、良いかしら?」

 赤井先輩に、そう言われて、私は口に手を当てた状態で頷いた。

「そんな風に口を塞がなくても良いわよ」

 クスリと笑いながら、赤井先輩にそう言われて、少し恥ずかしくて身体が熱くなる。

「また、練習の時間からお話しの時間に戻っちゃうけど、ごめんね」

 赤井先輩が申し訳なさそうに言うので、私はすぐに「だ、大丈夫です!」と左右に首を振った。

「ありがとう」

 そう言って微笑んだ赤井先輩は自分の座っていた椅子を軽く持ち上げて、座面をお尻にくっ付けた状態で横歩きで私の横まで来て座り直す。

 赤井先輩が座るタイミングで、私の腕と赤井先輩の肩が触れて、なんだか緊張してしまった。

 そのせいで硬直しただけなのに、赤井先輩は「あ、痛かった?」と心配そうに聞いてくる。

「大丈夫です!」

 再び左右に頭を振って、痛くなかったことをアピールすると、赤井先輩はなんとも言えない秒な表情を浮かべた。

 居たたまれなくなった私は、何のプランも無しに「え……えっと……」と声を出す。

 ただ、何か言うべきことを思い付いているわけではないので、言葉は続かなかった。

 そんな私に、なんだか同情に似た目を向けた赤井先輩は「姫ちゃん。そんなに気を遣わなくても大丈夫よ」と言ってくれる。

「それよりも、話を進めるわね」

「は、はい」

 なんとも情けない気持ちで、私は赤井先輩の言葉に甘えることにした。


「実は、私、多重人格の疑いがあって、専門の先生に見て貰ったことがあるのね」

 赤井先輩が口にした言葉は、かなり衝撃的な発言ではあるものの、スイッチで完全に意識が切り替わる能力を考えれば、そう疑われてもおかしくは無いと思った。

 私が黙っていたからか、赤井先輩は「えーと、多重人格っていうのは、一人の人の中に何人も違う人格がある状態のことでね……知ってるかな? あの龍を呼び出す不思議なボールを集める兄もに出てくるくしゃみで性格が変わっちゃう女の子がいるんだけど……」と説明を始めてしまう。

「あ、だいじょぶです。わかります」

 慌ててそう伝えると、赤井先輩は「あのアニメ凄く人気があるモノね。ウチのお兄ちゃんも見ているわ」と、私がアニメを見ているという解釈で納得した。

 私側かると言ったのは多重人格の方だけど、そこを掘り返しても意味は無いし、話は繋がると思って指摘せずに「そうなんですね」と無難な返しをする。

 赤井先輩は一度頷いてから「それで、診察して貰ったときの話なんだけどね……」と話を再開した。

しばらくの間、予定が立て込んでしまったため、更新が不安定になるかも知れませんが、更新可能な日は16時に掲載しますので、予めご了承ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ