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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第六章 日常? 非日常?
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演技と評価

 私なりの演技プランを考えながら台本のセリフに目を通した。

 赤井先輩との練習で、最初に演じるのは、主人公でもある次女の『ジョー』である。

 快活な正確で、物語を引っ張っていく力強さを持った人物だ。

 今、私にはお姉ちゃんがいるので、アルミでは立場は近いかもしれない。

 まあ、妹はいないのだけど、そこは、緋馬織時代の舞花ちゃんや結花ちゃんを思い浮かべれば、妹を持つ気持ちは少しは理解できるハズだ。

 潜入のための練習でも、自分の立場と演じる役目の類似点を探して気持ちや思考を想定すると良いと習っている。

 加えて、二年生の先輩方の演技を見たし、赤、青の二チームの演技も見てきた。

 三者三様の『ジョー』を元にして、そこに私の体験や実感を組み合わせて人物像を組み上げる。

 赤井先輩には絶対及ばないけど、スイッチでの意識の切り替えも意識してみた。


「それじゃあ、感想を言わせて貰うわね」

「は、はい」

 演技が終わったところで、赤井先輩からの評価を聞く事となった。

 赤井先輩を真似た意識のスイッチを意識した演技のせいか、セリフを読み終えて、自分の意識に戻るまでの感覚がかなり曖昧になってしまっていて、モヤがかかったような感覚がある。

 当然、演技の出来栄えと言った実感はほぼなかった。

 こうなると、赤井先輩の目に委ねることになるのもあって、どんな評価が下るのか、緊張で喉が渇いてきている。

 時代的なモノもあって、校内にペットボトルはおろか、水筒を持ち込む人もいないので、喉を潤わすには廊下に出て水道の水でも飲むしかないのだけど、審判を待っている真っ最中に申し出るわけにはいかなかった。

 そもそも、こんな余計なことに意識を向けているのも、単純に評価を聞くのが怖いからで、単なる現実逃避でしかない。

 はっきりとそれがわかっていても、評価をされるというのは、今の私にとってはとてつもなくプレッシャーの掛かるモノだった。

 そんな今すぐにでも逃げ出したい心境の中、赤井先輩の評価が下される。

「あくまで私の感じたところだけど、もの凄く上手だなって思ったわ」

 赤井先輩の言葉で、スッと気持ちが軽くなった。

「……本当、ですか?」

 喉が渇いていたのもあって、多少声が掠れてしまったものの、どうにか尋ねることには成功する。

 私の頭に手を伸ばしながら「上手だったから、そんなに心配しなくて良いのよ」と赤井先輩は微笑んだ後で、撫でてくれた。

 完全な子供扱いだけど、正直、恥ずかしさよりも、ホッとした部分の方が大きくて、つい目を閉じて受け入れてしまう。

 そんな私の担当に、赤井先輩は「あらあら」と言って笑った。


「改めて、私の感じたことを言うわね」

「はい」

 私は赤井先輩に頷いた後で「すみません。なんだかお手数をおかけして」と評価を聞くまでに無駄に時間を掛けさせてしまったことを謝った。

 対して、赤井先輩は「私でも、先輩な振る舞いが出来るんだって自信になったわ」と言ってくれる。

 このまま話していると、話がまた進まなくなってしまうので、私は軽く咳払いをしてから「聞かせて貰っても良いですか?」と話の先をせがんだ。

 赤井先輩は軽く頷くとすぐに離し始める。

「さっきも言ったけど、演技は完璧だと思うわ」

「……そうですか?」

 自分ではっきりとした実感がないのもあって、つい疑問形になってしまった。

 赤井先輩は「スイッチを入れているときの演技にどうしても実感がもてなくて、今の姫ちゃんみたいに、不安でついつい質問してしまうわ」と言って苦笑する。

 その後で、グッと顔を近づいて「もしかして、姫ちゃん。私のやり方に近いことが出来ちゃったんじゃない?」と逆に質問が飛んできた。

 その瞬間、どう返そうかと、頭の中にいくつものパターンが思い浮かぶ。

 でも、そのどれもが誤魔化すような説明だったので、なんだか自分が赤井先輩を欺こうとしている様に感じてしまった。

 ちゃんと教えてくれようとしている赤井先輩に、それは不誠実なんじゃ無いかと思った私は、言葉を繕わずに素直にありのままを答えることに決める。

「うまく、説明できないかも知れませんけど……」

 私がそう言うと、赤井先輩は柔らかく笑みを浮かべて頷いてくれた。

 その頷きに背中を押された私は拙いながらも説明を始める。

「まず、ジョーを演じるのに、さっき見せて貰った三人の演技を思い出したんです」

 私の発言に、赤井先輩は優しく頷きながら「それで?」と先を促した。

「その三人の演技で、私の中のイメージの『ジョー』に似ているところを特に意識しました」

 私がそこまで言うと、赤井先輩は「なるほど、三人の演技を単純に真似るわけではなくて、より自分の印象に近い部分を切り取ったのね」と深く頷く。

 話がそこで終わってしまいそうだったので、私は思わず「あの、これは必要ないかも知れませんが……」と口にしてしまった。

 赤井先輩は「あら、なにかしら?」と聞く姿勢を見せてくれる。

 正直、心のどこかでは言わなくても良いんじゃ無いかとも思ったのだけど、全部を聞いて欲しくなっていた私は、更にお姉ちゃんや緋馬織で接していた双子のことも演じる前に思い出したことを伝えた。

しばらくの間、予定が立て込んでしまったため、更新が不安定になるかも知れませんが、更新可能な日は16時に掲載しますので、予めご了承ください。

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