表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第六章 日常? 非日常?
259/477

仕切り直し

「赤井先輩! 是非私に解明のお手伝いをさせてください!」

 私が改めてそう伝えたところで、時が止まってしまった。

 手伝いを訴えた私の勢いがつきすぎていたのか、赤井先輩が固まってしまったのである。

 とりあえず強すぎる刺激を与えないように「あの、赤井、先輩?」と細かく言葉を句切って様子を確認しながら声を掛けてみた。

 けど、声が届かなかったのか、赤井先輩は固まったまま動かない。

 断りもなく触れるのは良くないかもしれないと思いながらも、いつまでもこのままというワケにはいかないので、少し緊張しながら、赤井先輩の肩に触れた。

 直接触れたことが良かったのか、赤井先輩が「あっ」と声を漏らして、触れた私に視線を向ける。

 改めて「あの、赤井先輩……だいじょうぶですか?」と声を掛けてみた。

「へぁっ!」

 すると今度は言葉になっていないながらも、ちゃんと赤井先輩が反応してくれる。

 赤井先輩をこれ以上ビックリさせないように、できるだけ穏やかな声で、もう一度「大丈夫ですか?」と尋ねてみた。

 すると、赤井先輩は両手を口元に当てて、顔の半分を隠しながら「だいじょ・・・ばない」と言い出してしまう。

「じょばない!?」

 聞き慣れない言葉に、思わず聞き返してしまった。

「あ、え、う!?」

 動揺からか、赤井先輩は変な声を出す。

 このままではらちがあかないので、ゆっくりと丁寧に声を掛けることにした。

「赤井先輩、落ち着いてください。無理そうなら、練習を終わりにしましょう」

 私がそこまで言うと、胸に手を当てて、短く呼吸を繰り返してから、長く息を吐き出して赤井先輩は動きを止める。

 そこから、ゆっくりと目を開けた赤井先輩は「心配を掛けてゴメンなさい、姫ちゃん」とまさに別人と言うべき変わり様を見せた。

「姫ちゃんからすると、演技しているように見えて、嫌かもしれないけど、こうしている方がちゃんとやりとりできると思うから、許して頂戴ね」

 スイッチが入ったお陰で、とても落ち着いた赤井先輩は申し訳なさそうに言う。

 確かに、演技されているとわかっている相手と相対するのは、余り良い気分で無いこともあるかもしれないけど、赤井先輩に関しては、むしろ演技スイッチを入れて貰っていた方がコミュニケーションは取りやすかった。

 いずれは素の状態でも、普通にやりとりができるようになりたいけど、今は練習の時間でもあるので「それよりも練習が出来そうなら、練習がしたいです」と要望を伝える。

「そうね……折角二人の時間だものね。迷惑を掛けてごめんね、姫ちゃん」

 改めてそう言ってくれる赤井先輩に頭を左右に振って「いえ、気にしないでください」と伝えた。


「えっと、私のやり方はさっき伝えたとおり、頭の中で演じる人物像を思い描く……まで、話……で、良いかしら?」

 赤井先輩の確認に頷きつつ「そこまでは」と返した。

 そんな私に、赤井先輩は「もしかして何か疑問があるの?」と首を傾げて聞いてくる。

 私は「疑問というほどでは無いんですが、ちょっと聞いてみたいことがあります」と素直に答えた。

「あら、何かしら?」

 首を反対に傾けながら聞いてくれた赤井先輩に、私は浮かんだ疑問点をそのまま問いする。

「あの、自分の中に演じたい人物像を思い浮かべるところまでは、わかるのですが……その、赤井先輩は、演じるスイッチを入れたとき、その思い描いた人物に自分が入り込むイメージなのでしょうか? それとも、自分の中に思い描いた人物が入り込んでくるイメージなんでしょうか?」

 私の問いに、赤井先輩は目を丸くしてから「姫ちゃん……スゴいところに目が行くのね:」と溜め息交じりに言った。

「そう……ですか?」

「ええ。私はそこまで深く考えたことがなかったもの」

 赤井先輩はそう言って笑みを浮かべる。

 思わずその穏やかな表情に見蕩れてしまった。

 そんな私を見て目を細めた赤井先輩は「どちらでもないかも知れません」と口にする。

「え?」

 驚きで瞬きをする私に、赤井先輩は「自分の中でスイッチを入れると、その瞬間に頭に描いた人物に入れ代わってる……そんな認識です。それこそカードの表裏をひっくり返すように、まったく違う図面にスイッチで切り替わるという感覚でしょうか」と説明してくれた。


「今の話から考えると、先輩のやり方は再現するのが難しそうな気がします」

 赤井先輩から聞いた情報を元に考えた結果、私はそういう結論に至った。

「そう……ですか……」

 なんだかもの凄く悲しそうに赤井先輩が言うので、私は慌てて「自分の中に演じようとする人物像を造り上げて、その人物になりきるというところまでは出来ると思うんですが、スイッチを押すだけで完全に入れ替わるのは、赤井先輩だけに出来る特殊な技術じゃ無いかと思うんです」と考えを説明する。

 そして、私は少し間を御開けてから「赤井先輩のスキルは、他の人には真似られないような特別なモノだと思います」と言い加えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ