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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第六章 日常? 非日常?
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先輩のスキル

「まずは、私なりの演技の方法を説明しても良いかしら?」

 自信に満ちた赤井先輩の仕草に、私は単純に凄いと思いながら「お願いします」と頭を下げた。

 一応、緋馬織で潜入活動のための講習やら実技やらは習ってきた私と違って、目の前の赤井先輩はおそらくそういう学びの名は無かったのでは無いかと思う。

 となれば、赤井先輩の技術は独学……自らで編みだした物の筈だ。

 その仕組みを教えてくれるならどうしても聞きたいし、その能力を会得した課程にも興味がある。

 医学的に二重人格を形成する課程には精神的な負荷が影響を与えているというのは耳にしたことが有るので、もし赤井先輩の境遇が良いモノでないならどうにか出来無いかという気持ちもあった。

 いずれにせよ、情報を得ないことには何も始まらないので、赤井先輩の話すことに集中する。

 そんな私の態度をジッと見ていた赤井先輩は「準備は良さそうね」と余裕のある笑みを浮かべて見せた。


 何故だか大人っぽさを感じる艶のある赤井先輩の言い回しに、頬が熱を帯びた。

 明確に抱いた感情は分析できなかったけど、恥ずかしいが似てるような気もする。

 そんな自分の感情を把握出来ずに戸惑っていると、赤井先輩は笑みを深めながら「まず、私が意識をどう切り替えているか伝えますね」と口にした。

「はい」

 私が頷いたところで赤井先輩は「簡単に言うと、頭の中で演じようと思う登場人物のイメージを造り上げて、スイッチを切っ掛けにその人物と入れ替わる……という感じです」と言い終えたところで、パシッと手を合わせる。

 同時に、直前の堂々とした態度から、おっかなびっくりという態度に変わった赤井先輩が「あ、あの、つ、伝わりましたか?」と尋ねてきた。

 私はその変化の大きさに「スゴイです! 完全に別人みたいです!」と拍手を贈る。

 対して赤井先輩は両腕を顔の前で交差させて隠しながら「や、やめてください。それほどでも、ないです」と謙遜した。


 心の底から凄いと思うのだけど、あんまり褒めても、話が迷走するだけだなと判断した私は、質問を口にして見た。

「今、見せてくれた人物像はどんなイメージだったんですか?」

 赤井先輩は私の問い掛けに「え?」と声を漏らす。

「あー、その、スイッチを入れてその人物になりきるというお話しだったので、今さっき赤井先輩が入れ替わっていた人のイメージをまずは聞いてみたかったんですけど……」

 説明不足だったかなと反省して、気持ち丁寧に説明の言葉を付け足してみた。

 すると、赤井先輩は「私の演じた人物像に興味があるの?」と聞いてきたので、素直に頷く。

「はい。どういった人物をイメージすると、あんな風な堂々とした姿になるのか、興味があります!」

 私の返しに、赤井先輩は「ぶちょ……」と口にした。

 声が少し小さかったけど、恐らく聞き取れたとおりだろうと判断した私は「部長……お姉ちゃんですか?」と聞いてみる。

 赤井先輩は一瞬固まった後で、左右に目を泳がせてから「そう……です」と頷いた。

「身近な人の方が人物像を固めやすいですか?」

「へ?」

 私の問いに、赤井先輩は何故か瞬きを繰り返す。

 やっぱり私の言葉不足だったかなと思って、少し言葉を添えて言い直してみた。

「スイッチで入れ替わる人物像って、明確なイメージが必要なんじゃ無いかと思って……だとすると、身近な人をイメージした方が人物像を固めやすいんじゃ無いかなって思ったんですけど……」

 考察を真面目ながら自分の考えを口にすると、赤井先輩は「ひ、姫ちゃんは、そっちの方に意識が向くんだね」と呟く。

「そっちの方……ですか?」

 私がそう口にすると、赤井先輩は「こう……さつ? しくみの……」と返してきた。

「あ、はい。私は仕組みとか考えるのが好きみたいで……それに、出来るなら、赤井先輩の技術を学べたら共思っていますので、まず、頭で理解しないと、それも難しいですよね?」

 赤井先輩は私の返しを聞いて、パチパチと拍手を始める。

「え!? 何ですか、赤井先輩」

 思わず聞いてしまった私に、赤井先輩は「す、すごく。あ、頭が良いなぁと……思って」と言ってきた。

「あ、頭が良いって……」

 不意打ちで持ち上げられたこともあって、思ったよりも動揺してしまう。

 一方、赤井先輩はジッと私を見たまま黙り込んでしまった。

 少しずつ時間が経過する度に、居たたまれなくなって「あの、どうしました?」と尋ねる。

 赤井先輩は少し躊躇うよう生を挟んでから「も、もうすこしね……」と話し出した。

 けど、底で止まってしまったので、私は先を促す意味も込めて「はい」と返す。

 気持ちが届いたのか、赤井先輩は私の言葉を切っ掛けに「じ、じぶんでも、スイッチに、く、くわしく、なりたいな……って」と、何度も足下と私の間で視線を上下させながら言った。

 私はそれを聞いてテンションが上がって「ということは、まだ解明できていない部分もあるのですね?」と迫ってしまう。

 赤井先輩は一瞬ビクッと身体を震わせてから、無言でコクリと頷いた。

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