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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第六章 日常? 非日常?
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コンビ結成

 先輩達の名前が黒板に書き込まれたところで、まどか先輩がカードをシャッフルしながら「さて、それじゃあ、後輩ちゃんたちの番号決めだね」と笑みを浮かべた。

「そ、そうね。練習の時間も限られてしまうから、早く決めて貰いましょう」

 どこかソワソワした様子でお姉ちゃんが言う。

「そんなに、慌てない、慌てない」

 笑いながら言うまどか先輩に、お姉ちゃんは「一休みしないわよ」とツッコんだ。

 直後軽く悪いが起こったんだけど、正直笑いどころがわからない。

 回りの皆から浮かないように、笑顔を作って見るものの、正直訳がわからずに困っていると、リーちゃんから助け船が出た。

『データによると、少し前まで放送されていたアニメの中で、CMに切り替わる前に流れていたシーンのセリフが「慌てない、慌てない、一休み、一休み」だったらしいのじゃ』

 リーちゃんの情報に、思わず手を叩きそうになったが、そこは身体が動き出す前にどうにか踏み留める。

 急にリアクションを起こすと、理由の説明をしなければいけなくなって、泥沼に落ちかねないからだ。

 とはいえ、まったく動かずに泊まれたわけではないので、一部の人から私の様子を確認する視線が飛んできてしまっている。

 私は思いきって手を挙げて「まどか先輩、で慌てないのも大事ですけど、練習の時間が減っちゃうのももったいないので、早く決めましょう」と提案する体で発言してみた。

 まどか先輩は少しビックリしたようだけど「まあ、確かにあんまり要らすのもね」と言いながら、裏返したカードを机の上に円を描くように並べていく。

「それじゃあ、一年生の諸君、カードを選んでくれたまえ。黒板に描かれた同じ番号を引いた先輩が今日の練習相手だ」

 私たち一年生の八人はお互いに視線を交わし合って頷いてから、カードの置かれたテーブルを囲むように立った。


「じゃあ、いっせーの、せ!で、カードを指さしてね」

 まどか先輩の指示に対して、カードの置かれたテーブルを囲む皆が頷いた。

 直後、余り間を置かずに、まどか先輩が合図を出す。

 同時に私たちは心の中で決めたカードを指をさすと、なんと見事に重ならずに一度で決まった。


「それじゃあ、よろしくお願いします。赤井先輩!」

 私は組むことになった赤井先輩にそう言って頭を下げた。

「わ、わ、わ、わ、私で良いのかな……というか、部長とか、奏ちゃんと入れ替わった方が良いんじゃ無いかな?」

 声をもの凄く震わせて言う赤井先輩に、私は首を左右に振って「でも、カードで決まったコンビですし、決め方にも不正はなかったので、赤井先輩がどうしてもいやだって言うので無ければ、一緒に練習させて欲しいんですけど……」と伝える。

 相性というのがあるし、頭の中でどれだけ納得していても、心というか、本能的な部分で相容れないと言うことがあるのだ。

 もしも、赤井先輩にとって私がどうしてもダメなら、大人しく受け入れるつもりだけど、お姉ちゃん達の視線が気になるという理由なら、折角の縁だし、一緒に練習して欲しい。

 そう思いながら、赤井先輩を観察していると、急に目を閉じて大きな溜め息を吐き出されてしまった。

「あー、やっぱり、私のこと苦手ですか?」

 なんだか少し悲しくもあるけど、先輩の負担になりたいわけでもないので、今回は諦めた方が良いだろうかと思った私は、そう尋ねる。

 赤井先輩はすぐには反応せず、もう一度、長く息を吐き出してから、ゆっくりと目を開きながら私を見た。

「赤井……先輩」

 真っ直ぐに私を見る目に少し圧倒されてしまったせいで、少し言葉が途切れてしまう。

 そんな私に、赤井先輩は柔らかく微笑みかけながら「大丈夫」と柔らかな声で言った。

「私も姫ちゃんと練習したいわ。折角の縁だものね」

 赤井先輩は直前の震えていた姿とはかけ離れた大人の余裕を感じさせるゆったりとした振る舞いで笑みを深める。

「どうしたの、姫ちゃん?」

 軽く首を傾げながら問い掛けてくる赤井先輩に、私は戸惑いながらも、素直に「ちょ、ちょっと前の先輩と……その、雰囲気が……」と思ったままを言葉にした。

 それを聞いた赤井先輩はクスクスと上品に笑ってから「スイッチを入れたの」と口にする。

「スイッチ?」

 赤井先輩は聞き返した私に頷きながら「元の自分とは違う誰かに代われる心のスイッチ」と言いながらゆったりとした動きで自らの胸に手を当てた。

「姫ちゃんが見ていたおどおどした私が素の私。そして、今の私はスイッチを入れて変わった『なりたいと思っていた私』なの……わかるかしら?」

 最早、別人と言ってもおかしくないほど変わってしまった振る舞いと言葉に、私は「確かに、なんだか、別の人みたいです」と思ったままを伝える。

「これを姫ちゃんが出来るかはわからないけど、演技の勉強にはなるかも知れないから、私と一緒にコンビを組んでくれる?」

 改めてそう聞いてきた赤井先輩に、私は「はい! よろしくお願いします」と深く頷いた。

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