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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第六章 日常? 非日常?
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連携と弊害

「確かに、面白そうだけど……小夜子、台本の準備とか大丈夫かしら?」

 金森先輩をはじめとした二年生の先輩方とまどか先輩の報告を聞いたお姉ちゃんは、そう言って春日先輩に話を振った。

 春日先輩は急に振られたはずなのに、サラサラと答えを返す。

「新人戦の方は若草物語と決まったようなので、過去の台本から、オーディション用のセリフ集は出来ると思うけど、文化祭の方はまだ演目が決まってないから、ちょっとわからないわね」

「あの」

 春日先輩の返答を聞いた千夏ちゃんが、少し遠慮がちに声を上げた。

「なに? 千夏ちゃん?」

 首を傾げながら聞き返してきたお姉ちゃんに、少し緊張した様子で千夏ちゃんは「先輩方が演目決めるって聞いてますけど……その、まだ作品自体の候補は挙がってないんですか?」と問い掛ける。

 すると、お姉ちゃんは私たちを見渡してから「新しく入部してくれた子もいるし、ちょっとお復習いから説明するわね」と言って立ち上がった。

 直後、ガラガラと音を立てて、いつの間に移動していたのか、移動式の大きな黒板を春日先輩が引っ張って来ている姿が目に入る。

 素早く黒板に付いたキャスターに、ストッパーになるくさび形の木材を、まどか先輩が差し込んで固定した。

 何のやりとりも無いのに、そのタイミングで立ち上がったお姉ちゃんは、白いチョークを手に取って、黒板に振り向くと、迷い無く文字を書き始めた。


 自分の板書した二つのイベントを、手にしたチョークでコツコツと突くようにして示しながらお姉ちゃんは「まず、演劇部の大きな公演として、どちらも秋にある文化祭公演と、新人戦……正式には中学校演劇コンクール……この二つがあるわ」と説明してくれた。

「この他に、公民館や保育園で、地域の交流会があって、人形劇と朗読会をしているの」

 新たに『交流会』と描きながらお姉ちゃんは説明を続ける。

「えっと、部活を掛け持ちしている子もほぼ全員が参加するのが、この文化祭公演と新人戦、交流会の方は参加できる人が参加するって言う形ね」

 お姉ちゃんの説明を聞いた私は、少し聞きにくいなと思う疑問が浮かんだので、敢えて自分で聞いてみることにした。

「はい、おねえちゃ……良枝部長!」

 私が手を挙げると、お姉ちゃんはなんだか妙な百面相をした後で「なにかしら?」と尋ねてくる。

「その、自由参加だと、人が集まらないっていうことは無いんでしょうか?」

 私の疑問に、答えをくれたのは春日先輩だった。

「正直に言うと、実は二つの大きな公演より、交流会の方が人気があるのよね」

「え、そうなんですか?」

 私としては、逆だと思っていたので、春日先輩の言葉に少し驚いてしまう。

「単純に演技はしてみたいけど、舞台に上がるのは苦手って子もいるし、そういう子達には、自分たちが余り前に出ない紙芝居や人形劇の方が好きって子もいるわけ」

 春日先輩の説明に、私はなるほどと思って頷いた。

 確かに、注目……視線を向けられるのが苦手な子もいるだろうし、演技とセリフとを熟すのは体へって子もいるかもしれない。

「それに、美術部と兼任とかだと、紙芝居とか、人形劇の人形や、その背景とか、サイズが人間サイズと違っていろいろ描けたり、作れたりして嬉しいってい意見もあるな」

 まどか先輩がそう言って補足してくれた後で、今度はお姉ちゃんが「手芸部の子とかは、人形用の衣装作りで練習して自信が付いたからって、私たちの衣装作りにも加勢してくれたりするわね」と実例を挙げてくれた。

 三人の例に頷きながら「なるほどー、そう聞くと交流会の方に人気があるのがわかりますね」と返すと、まどか先輩に「ホントは公演の方に軸足を置いて欲しいけどね」と苦笑する。

 それは確かにと思いながらも、やっぱり自分のやりたいこと、実力を出せることに力が入るのは仕方が無いよなと思ってしまった。


 先ほどと同様に、手にしたチョークで黒板の板書を指し示しながらお姉ちゃんは「ちょっと、本筋から逸れてしまったけど、演劇部のメインはあくまでこの二つの公演なので、一番力を入れるわけだけど、文化祭公演の方は、この学校でやる文化発表、普段の活動成果の発表の場でもあるのよ」としきり直した。

「つまり、文化祭公演は演劇部単独じゃ無くて、他のいくつかの部活との兼ね合いがあるのね」

 私たちが頷くと、お姉ちゃんはその続きを口にする。

「それは交流会よりも大規模な連携があって、美術部には背景や小道具の提供、手芸部には小道具に加えて衣装、そして、文芸部には台本の作成とか、ね」

 学校にある部活動市が連携して動くこと自体、結構衝撃的だったけど、この時代では当たり前なのか、それともこの学校が特殊なのか、もの凄く考察に興味が湧いた。

 その過程で、私はふと一つの可能性に突き当たる。

「あっ」

 思わず声を出してしまったことで、皆の注目を集めてしまい、当然それを見逃してはくれなかったお姉ちゃんに「どうしたの、凛花?」と聞かれてしまった。

 私は何も答えないというわけにはいかないと思い、行き当たった可能性を口にする。

「複数の部活が連携するせいで、意見のすりあわせに時間が掛かる……だから、まだ何も決まってない?」

 私の疑問符混じりの言葉に、お姉ちゃんは苦笑して「まあ、そういうことね」と頷いた。

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