先輩達の評価
まどか先輩は私たち一年生を順番に見た後で「正直、私は驚いたよ」と笑みを浮かべた。
「単なる音読じゃ無いことがまずスゴイよ」
まどか先輩の発言に続いて、金森先輩が「そうですね。棒読みの子が一人もいなかったのはビックリポイントですね」と頷く。
まどか先輩と同じように私たちを見渡しながら、寺山先輩はニコニコの笑顔で「全員演劇経験者とかかな?」と尋ねて来た。
心当たりがある人はいるかなと思いつつ、私たちはお互いに顔を見合わせる。
ややあってから、千夏ちゃんが手を挙げながら「多分、私だけだと思います……経験者」と発言した。
すると、まどか先輩が皆を確認するように視線を巡らせる。
千夏ちゃんだけに任せるのはおかしいなと思った私は、手を挙げてから「多分、学芸会とかで劇の経験はあるかも知れませんが、劇団とかで本格的に学んでは無いと思います」と口にした。
その後で、皆に振り返りながら「ね?」と声を掛ける。
真っ先に反応してくれたのは委員長だった。
「私は小学校で三年生と五年生の時、劇をやりました。それくらいですね……ただ、その時はナレーションを担当したので、演技経験とはほど遠いです。ただ、朗読では賞を貰ったことがあります」
委員長の発言に、茜ちゃんが「そうだったぁ、いいんちょー、朗読会でいつも褒められてたよねぇ」と大きく頷きながら声を弾ませる。
発言をしたことも合って、自然と自分に視線が集まると、それに気付いた茜ちゃんは「私はぁ、劇はセリフのある役はやったこと無いなぁ……じゃない、ないですぅ。さっきのも演技をしたというか、普通に読んだだけというかぁ」と苦笑した。
「ま、まどか先輩も言っていたけど、自然体で人物像を描き出せる、表現できるのって凄いことですからね!?」
松本先輩がずれ落ちそうになった眼鏡を抑えながら、茜ちゃんの認識を否定するように強めに訴えた。
スゴいことをしたという意識が、全く無かったのであろう茜ちゃんは、キョトンとしてしまう。
そんな茜ちゃんの反応に、松本先輩は困り顔で「まどか先輩、全然伝わってないみたいです」とまどか先輩を見た。
「はっはっは、茜ちゃんはかなりの大物みたいだね。演じ分けるのは苦手かもしれないけど、はまり役だととことん存在感を出せる素質があるよ」
まどか先輩の言葉を聞いて、何故か茜ちゃんは私の方を見て自分を指さす。
「もしかしてぇ、褒められてるぅ?」
首を傾げた茜ちゃんに、苦笑してしまった私は、頷きつつ「スゴイ才能があるって言ってくれてるね」と伝えた。
すると、茜ちゃんはピタッと動きを止めて固まってしまう。
「どうかした、茜ちゃん?」
動きを見せなくなってしまった茜ちゃんが心配になって声を掛けると、茜ちゃんは目を潤ませながら「私ぃ、何かととろくてぇ、褒められる事なんてほとんど無かったからぁ」と口にした。
そんな茜ちゃんの頭を委員長が無言で撫でる。
茜ちゃんはそのまま身を預けるように委員長に抱き付いた。
二人のやりとりだけで重ねてきた友情を感じると共に、茜ちゃんは委員長に任せておこうと、見ている皆が思ったと思う。
特にそういった機微を感じ取る能力に長けたまどか先輩は、スッと話のターゲットを変えた。
「えーと、るりちゃん」
まどか先輩に名前を呼ばれたオカルリちゃんは「はい、本名は田中るりです」と返事をした。
更に「オカルト好きなので、オカルト好きのルリ略して、オカルリと呼ばれてます。あと、最近、『田中る』とも呼ばれてますね」と瞬く間に情報を付け足す。
まどか先輩は「じゃあ、ルリちゃんでいいかな?」と尋ねると、オカルリちゃんは「構いませんよ。まー先輩」と切り返した。
対してまどか先輩は「まあ、まで始まる名前は私しかいないからね。まー先輩、OKだよ」と笑顔で頷く。
「ありがとうございます。では、まー先輩、何でしょうか?」
瞬く間に、小気味よいリズムで、どんどん二人の会話が進んで行くのを見ていると、なんだか観劇しているような妙な気分になってきた。
他の皆も似たような感覚なのか、まどか先輩とオカルリちゃんの会話は二人きりでドンドンと進んで行く。
「さっきのジョーはだいぶ人物像が明確だったよ」
まどか先輩の言葉に「アニメで見たジョーを真似るというか参考にしてみました。なので、頭の中でアニメの声優さんがセリフを読んでくれて、私はそれをモノマネするような感じでやらせて貰いました」とオカルリちゃんは淀みなく返した。
流石に、淀みなくスラスラと答えるオカルリちゃんに驚いたのか、まどか先輩は目を丸くした後で「そうか、君は観察眼と再現力に優れているのか」と感心した様子で頷く。
対してオカルリちゃんは「オカルト現象を見逃さないためにも常に観察と思い返しには力を入れているので」と自信ありげに答えた。




