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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第六章 日常? 非日常?
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赤の演技

 二年生の先輩方と同じシーンを演じるので、当然ながら最初はジョー役のオカルリちゃんのセリフで幕を上げた。

 本格的な演技の経験がオカルリちゃんにあるのかはわからないけど、正直、上手いと思う。

 丁寧にセリフを読むだけで無く、弾むようなセリフの言い回しが、ワクワクするジョーの心情を表現しているように感じられた。

 オカルリちゃんの上手さに驚いている間に、台本はかなり進んで、暴走気味のジョーを止める茜ちゃん演じるメグのセリフが始まる。

 先輩方の演技を聞かせて貰って、メグに茜ちゃんを重ねたけど、やはりというべきか、相性はとても良く、茜ちゃんの少しのんびりした言い回しがとても役にはまっていた。

 とても上手い二人の本読みに、自然と私の緊張は強まってしまう。

 一方でジョー留め具も掛け合いは続き、二人の母親であるマーチ婦人が会話に参加してきた。

 マーチ婦人は金森先輩が演じるのだけど、無邪気で明るいエミリーとは違う落ち着いた抱擁感のある大人の雰囲気で、先輩の巧さを実感させられる。

 そんな先輩とのやりとりを見ていると、メグとジョーのセリフがちゃんと、マーチ婦人の子供に聞こえてくるから驚きだ。

 三人の演技に驚いていると、エミリー役の千夏ちゃんが私の袖を引っ張りながらセリフを口にする。

 私たちの登場場面まで進んでいたことに気付いて、内心では慌てたモノの、皆が上手に演じている中、足を引っ張ってはいけないという思いで、無理矢理動揺を押し込めた。

 その上で、急かすエミリーを落ち着かせるように、暴走した志緒ちゃんにストップを掛けた時を思い描きながらセリフを声に出す。

 何故か、目に力が増した千夏ちゃんが、台本では無く私の目をしっかりと見てセリフを言い始めた。

 短時間でセリフを暗記してしまったのか、何故私を見ているのか、次々と湧いてくる疑問にパニックになりかけたものの、今は最後まで演じきらなければならないという優先事項のお陰で、思考停止せずに台本に目を戻す。

 千夏ちゃんの行動に引き摺られないように、台本に意識を集中して、私はどうにか最後まで、ベスをやり遂げた。


「スゴイよ、四人とも!」

 金森先輩が一番にそう言って拍手をしてくれた。

 私はその拍手でようやく終わったという認識と共に、思いっきり息を吐き出す。

 それを見て、まどか先輩が「おや、姫はかなり緊張したみたいだね」と笑った。

 一瞬、反射で否定しそうになったけど、その通りなので、私は「はい」と頷く。

「これから数を熟せば良いだけさ」

 笑いながら、まどか先輩はそうフォローしてくれた。

 そんなやりとりは自然と皆の目を引いてしまった私は、視線から逃れたくてオカルリちゃんに話を振る。

「オカルリちゃん、スゴかったよ。初めてとは思えないくらい上手かった」

 私がそう伝えると、オカルリちゃんは少し照れくさそうにしながら「これでも、アニメで見てたからね、毎週」と苦笑いを浮かべた。

「お陰でセリフを読むときも、こう、感じがわかるというか、浮かんだ話し方を真似てみたというか……」

 オカルリちゃんの話を聞いていたまどか先輩が「登場人物の具体像が頭に出来ているなんて、なかなかスゴいことだよ。オカルリ君は演劇部に向いていると思うね」と力説する。

 真っ直ぐなまどか先輩の肯定の言葉に、オカルリちゃんはより照れてしまったようで首の後ろを描きながら「そ、そうかな……」と視線を泳がせた。

 視線の矛先を押し付けた自覚のある私としては、そのままオカルリちゃんに皆の意識が集中するのは良くないと思い、少し強引に話題を振る。

「茜ちゃんもスゴく堂々としてて、まさに長女って感じがしたな」

 私がそう感想を伝えると、茜ちゃんは「正直、私はぁ、台本を音読しただけだからぁ、演技というのとは違うと思うわよぉ」と困り顔を浮かべた。

「いいいいいや、そんなことは無いよ!!」

 金森先輩が茜ちゃんの発言にかなりあくの強い班のを見せる。

 目を点にした茜ちゃんに、金森先輩は畳み掛けるように「自然体で成立するなんてスゴいことなんだよ!」と告げた。

「は、はい……」

 瞬きを繰り返す茜ちゃんは完全に呆気にとられている。

 それに気付いているのか、いないのか、金森先輩の勢いは変わらなかった。

「誰かを演じると言うことは、その人物を理解してなりきることが大事だけど、自分に似ているのならその第一段階をクリアしてるも同然なんだ!」

「か、金森先輩!」

 完全に茜ちゃんが勢いに飲まれてしまっているので、慌てて声を掛けたのだけど、直後、金森先輩が全身でグリントこちらに身体を向ける。

 思わずぎょっとしてしまう動きだったけど、それよりも金森先輩から放たれる言葉の波の方が衝撃だった。

「姫ちゃんもスゴイよ! ベスの控えめで優しいっていう特徴が、千夏ちゃんとの掛け合いに滲み出てた! 間の取り方がスゴく上手いと思うんだ!!」

 まさか怒濤の褒め言葉が飛んでくるとは思って無かったので、驚いて「あ、ありがとうございます」としか返せない。

 けど、褒めて貰った『間』は、ほぼ流れを踏みはずしそうになって慌てていたせいで意図的では無く、たまたまだっただけに、もの凄く居心地が悪かった。

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