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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第六章 日常? 非日常?
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先輩の実力

 私たち一年生は、机の上に該当シーンのページ全てを並べて、皆で共有で見つつ、先輩達の台本読みを見学させて貰うことになった。

 先輩方はその台本を広げたテーブルの向こう、円形に椅子を並べて6人が向き合うように座っている。

「さっき決めたとおり、6人全員が登場する家族団らんのシーンで」

 金森先輩の音頭に、二年生の先輩方はそれぞれ台本を片手に頷いた。

 皆の準備が整ったことを表情で読み取ったのであろう金森先輩が、まどか先輩に「先輩、スタート掛けて貰って良いですか?」とキリッとした表情で問う。

 それだけで気合に満ち、準備が整ったのがわかる表情だった。

「もちろん、任せなさい」

 軽い口調で返すと、まどか先輩は一気に「それじゃあ、若草物語、シーンはマーチ家団らんのシーン、今回は立ち稽古じゃないので、私の切っ掛けで、シーンの最初のセリフを言うジョーから初めて」と指示を出しきる。

 対して、二年生全員の「「「はい!」」」の声がきっちり重なった。

 ただそれだけのことで、空気が一気に引き締まり、先輩達の凄さが感じとれる。

 ビリビリと緊張感を増した空気で肌が震えるのを実感したところで、まどか先輩の「よーい、スタート!!」の声が響いた。


 シーンの冒頭で、家を不在にしていた両親でもあるマーチ夫妻に、これまでの出来事を早口でまくし立てるように語るジョーでシーンの幕は上がった。

 直前まで短い呼吸を繰り返して、緊張しまくっていた赤井先輩と同一人物とは思えないほど、しっかりと発声されたセリフが部屋の中を支配していく。

 そんな暴走気味のジョーを止めるのは長女メグ役のかなで先輩だ。

 普段のハキハキしたかなで先輩とは違う、茜ちゃんのような少しのんびりした口調でやんわりと制止を掛ける。

 まるで、これまで、マーチ夫妻が不在だった間もそうして窘めていたんだろうなと思えるほど自然な話し方だった。

 一旦ブレーキを掛けたジョーに代わって、無邪気に報告をするのはエイミー役の金森先輩である。

 これまで二年生のリーダーのようなポジションで仕切っていたのとはまるで違う可愛らしい声で、小さな子が自分の頑張りを主張するように、これまでのことを両親に伝えていった。

 言いたいことを短い時間で言いすぎたのか、金森先輩演じるエミリーは咳き込んでしまう。

 台本には書かれていない咳き込みは、余りに真に迫っているせいで、演技かどうか判断が付かなかった。

 チラリと様子を確認したまどか先輩はストップを掛けない。

 アドリブなのか、ハプニングなのか、わからずにいる私の耳に届いたのは、エミリーをいたわるセリフをベス役の松本先輩の声だった。

 実際は皆椅子に座ってる状態で動いてはいないのに、セリフだけでベスがエミリーの背中を撫でているのがわかる。

 松本先輩のアドリブのお陰で、金森先輩もアドリブだったのだろうと、内心ほっと出来た一方で、先輩方の演技力がただただ驚愕でしか無かった。


 不在中の報告をにこやかに聞いていたのだろうと思わせるマーチ牧師と夫人の柔らかな声が、四姉妹を労ったところで、シーンは終わりを迎えた。

 私は気付けば立ち上がってしまっている。

 それだけで無く、力一杯拍手を贈っていた。

 自分の奥から沸き起こる感動の波に背中を押され、思ったままを言葉にする。

「スゴかったです、先輩方、本当にマーチ家の団らんにお邪魔しちゃった気分になりました!」

 私の感想を皮切りに、先輩達の演技を見せて貰った一年生陣から絶賛の声が上がった。


「皆スゴかったよ」

 まどか先輩の言葉に、二年生の先輩方は、皆一様にホッとした表情を見せた。

 私たちはともかく、先輩に演技を見せるとなると、緊張するのは当然だろう。

 気持ちはわかるなと思って頷いていると、まどか先輩が「それじゃあ」と口にした。

 途端にぞわっと背中が寒くなる。

 感じとった、嫌な予感はまどか先輩が続けた言葉で現実になった。

「次は一年生の番だね」

 心の中で、そうなるよなぁお思いながらも「千夏ちゃんはともかく、まだ皆、経験が無いですから」と言ってみたのだけど、まどか先輩は「誰にでも初めてはあるよ」と返してくる。

「二年生のようにやる必要は無いから、挑戦してみよう。まずは第一歩だ」

 笑顔で言葉を重ねるまどか先輩に「で、でも私たちは八人ですし……」と皆の様子を確認しながら言うと、まどか先輩は「じゃあ、私歩はじめちゃんで、マーチ夫婦をやるから、四姉妹をにグループ作って同じシーンやってみようか」と、切り返してきた。

 これはもう覆しようが無いなと思った瞬間には、先ほどのカードゲームから1~4の赤いカードに加え同じく1~4の青いカードを加えた8枚のカードがまどか先輩の手で準備される。

「まあ、お試しだから気負わずにセリフを読んでみよう!」

 まどか先輩はウキウキした様子で、手にした八枚のカードをシャッフルし始めた。

 そのまま、テーブルの上に裏返しにカードを置いていく。

「ルールは二年生と一緒、1がメグ、2がジョー、3がベス、4がエミリーね。赤のグループが最初、青のグループが二番目にしようか」

 そこまで言い終えたまどか先輩は「それじゃあ、希望カードが被ったらジャンケンね」と言って私たちに微笑みかけた。

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