仮の配役で
「それじゃあ、折角、印刷してきて貰ったし、軽く本読みやってみますか?」
金森先輩の提案に、二年の先輩方が、表情を引き締めた。
「まずは、私たち二年生で配役を決めてやってみるから、一年の皆は見ててねー」
私たちがほぼ同時に「はい」と返事をすると、直後、先輩方が配役に関して話し合いを始める。
のかと思ったのだけど、話し合いの代わりに取り出されたのは、一組のカードゲームだった。
「え!? カードゲームですか?」
私の発言に対して、金森先輩が「本番はちゃんと、見た目や演技力なんかを踏まえて決めるけど、今やるのは軽く台本に合わせるだけだからね。どんな役でもこなせるようにする練習も兼ねてるの」と説明してくれる。
「で、今回の役に合わせて1から6番まで配役を割り振ったら、このカードから配役の番号と同じ1~6のカードを一枚ずつ抜いて裏返しに並べて、それぞれ引いて早くを決めるわけ」
実際に赤のカートの組から1~6のカードを取り出して裏返した。
確かに、これならすぐに決まるし、配役を決めるのに時間を取られることはないし、何よりどの役が割り振られるかわからないから、練習にもなる。
「なるほど、確かにどんな役でも演じられた方が良さそうですもんね」
納得のいく説明に、感心しながらそう告げると、何故か金森先輩はスッと目を逸らした。
思わず『あれ?』と思っていると、かなで先輩が「本当は、二年生は自分で立候補したがる人がいないからなのです。姫さま」と真相を口にする。
直後、金森先輩は「す、少しくらいは先輩としてかっこつけたいじゃない!」と両手で顔御覆ってしまった。
これはフォローしなければと思い「金森先輩、決め方は演技力には関係なと思います。むしろ、いろんな役に挑もうとする姿勢は凄いと思います!」と伝える。
「凛花ちゃん!」
私のフォローが効いたらしく、金森先輩は両手を顔から離して輝く笑みを見せてくれた。
「もう、愛してる、結婚しよう!」
「はいっ!?」
何でそうなったと思考している間に、私の身体は金森先輩に抱きかかえられる。
「えぇっ!?」
力のこもった金森先輩のハグだったけど、それは直後にやってくる大混乱に比べればとても弱々しいモノだった。
「調子に乗って申し訳ありませんでした」
椅子の上に正座させられた金森先輩はそう言って深々と頭を下げた。
「流石に、姫に抱き付くのは悪手だと思うよ、はじめちゃん」
呆れた様子で言うまどか先輩の指摘に、金森先輩は平謝りを続ける。
過激派なのは、史ちゃん、千夏ちゃん、そして、同学年だから二人よりも更に遠慮の無いかなで先輩だった。
口撃主体の史ちゃん&千夏ちゃんに、拳で頭をぐりぐりと圧迫するかなで先輩、思いあまって抱き付いただけなのに、かなり過剰な対応をされてしまっている。
どうにか止めようと思ったのだけど、私がなに買う言うとどう引火するからわからないよと、加代ちゃんやオカルリちゃんに言われて、私は見守るしか出来無くなってしまった。
金森先輩が暴走して私に抱き付かないと誓ったところで、過激派の三人もどうにか矛を収めてくれたので、途中でほったらかしになっていた配役決めに戻った。
今回は台本に書かれているワンシーンで、四姉妹とその両親、合計6人の登場人物がいる家族の団らんシーンである。
数字のカード1~4は姉妹に合わせて、長女のメグが1,次女のジョーが2、三女のベスが3で四女のエミリーが4、母であるマーチ夫人が5,父親のマーチ牧師が6となった。
二年生の先輩、金森先輩、寺山先輩、尾本先輩、松本先輩、赤井先輩、そしてかなで先輩の六人が一つの机を囲み、その机の上には裏返された6枚の数字カードが置かれている。
「じゃあ、自分が引きたいカードを指さして、被ったらジャンケンね」
思ったよりもシステム化されているらしいルールに、何度も使われてる方法なんだなと思った。
それだけ自己主張するメンバーが少ないのかもしれない。
ルール確認の後、先輩方は『せーの』で自分の引きたいカードを指さした。
「んーー、思えば小さい子はやったこと無いな」
4番のカードを手にした金森先輩はそう言って頬を掻いた。
身長は二年生では低い方なのに、演技がダイナミックなせいか、金森先輩には大きいという印象がある。
そのイメージも手伝って、金森先輩の呟きは意外とは思わなかった。
「私は楽かなーセリフほとんど無いしねー」
6番のマーチ牧師を引き当てた寺山先輩はかなり余裕そうに見える。
「はぁはぁはぁはぁ」
もの凄く荒い息で短い呼吸を繰り返しているのは赤井先輩だ。
主人公であり、快活なキャラクターである次女のジョーは、赤井先輩にはハードルが高いらしい。
でも、代わって欲しいとか、無理だとか言わない当たり、根性があるか、あるいは演技に自信があるのか、ともかく楽しみになってきた。
松本先輩は「私なりのベスをやってみます」と3のカードを手に困り顔を見せる。
四姉妹の母親であるマーチ夫人の5を引いたのは尾本先輩、長女メグはかなで先輩が引き、先輩方の配役が決まった。




