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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第六章 日常? 非日常?
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いざ、印刷室

 結局、印刷室へ向かうのは私に加えて、一年生から一人、二年生から一人選ぶこととなった。

 特別扱いはしないでほしいと申し出たものの、私と一緒に行きたいから、皆が争っていると言われ、更に賞品が辞退できるわけが無いと、金森様に言われてしまう。

 加えて、穏便に済ますためにも、印刷室に行って欲しいと言われてしまえば、選択肢は受け入れるのみだ。

 結果、一年生と二年生のジャンケン大会を、なんとも言えない気持ちで眺めることになる。

 ちなみに、一年生からは、史ちゃん、オカルリちゃん、千夏ちゃんに、ユミリン、委員長に、茜ちゃん、そして加代ちゃんと、この場の全員が参加することになってしまっていた。

 一方、二年生からはかなで先輩が立候補しただけだったので、すんなりと決まっている。

 印刷機の使い方は大丈夫かと、寺山先輩に問われたかなで先輩は「大丈夫、わからなければ、先生呼ぶから」と勝手に判断しない旨を宣言していた。

 対して、金森先輩は「かなでが、最初から先生呼ぶつもりなんて……」と驚愕していたけど、かなで先輩は一体これまではどんな行動を起こしてきたのか、もの凄く気になる。

 そんなかなで先輩は、金森先輩に「もし勝手に操作して、姫さまが怪我したら困るでしょうが!」と力一杯訴えていた。

 直接確認したわけでは無いけど、話の流れからして、独自の判断で暴走する傾向があって、それが自他共に自覚している問題行動らしい。

 そんな考察をしていると、ジャンケン大会が決着したようで、茜ちゃんが勝利を収めた。


 かなで先輩を含めた三人で、印刷室に向けて廊下を歩いていると、茜ちゃんがご機嫌な様子で「日々のお努めの成果ですかねぇ~」と言い出した。

 なんとなく、実家のお寺のことだろうとは思いつつ、私は「お努め?」と尋ねてみる。

「本堂のお掃除をしたり、ご本尊様にご飯をお供えしたりすることだよぉ」

 茜ちゃんの返しに、かなで先輩が興味深げに尋ねた。

「おー、君はお寺の子なのかな?」

「そうですよぉ。雲在寺っていうお寺ですぅ」

 茜ちゃんの答えに、かなで先輩は「小木曽寺とかじゃないんだね、お寺の名前」と言う。

 対して茜ちゃんは笑いながら「名字の小木曽は、お寺の名前とは関係ないですねぇ。中にはお寺と名字が一緒の人もいるみたいですけどぉ」と返した。

「そうなのね。なるほど、勉強になったわ……えーと、小木曽さん?」

 かなで先輩の返しを聞いた上で、茜ちゃんは「茜で良いですよぉ。三橋先輩」と言う。

 頷きながらかなで先輩も「じゃあ、私もかなでで良いわ、茜ちゃん」と返した。


 印刷室は職員室の置かれている真ん中の棟の一階、保健室の奥に設置されていた。

 元いた世界では、倉庫だった筈なので、コピー機の普及で使われなくなったんだと思う。

 一階の東側の隅にあり、校舎が大きいせいか、どこか肌寒くて、ちゃんと蛍光灯は灯っているのに少しくらい感じがした。

 既に使っている先生がいるのか、振動を伴ったゴウンゴウンという重低音が響いていて、油とインクの混ざった独特の香りが漂っている。

 コンコンと、私たちを代表してかなで先輩が印刷室の扉を叩いた。

 けど、印刷機の奏でる音が大きいせいか、室内からは反応がない。

 三人で顔を見合わせた私たちは、恐らく全員が開けて見るしか無いと思い頷き合った。

 代表してノックをしたか撫で先輩が、頷き合った直後、入口のノブに手を掛ける。

 グッとドアノブを回転させ、かなで先輩は手前にドアを引くと、かなり軽やかな動きで手前に動き出した。

 ドアが開かれたことで、先ほどから響いていた印刷機の駆動音が大きくなり、これまでは聞こえてなかったシャッシャットントンという紙が送り出されている事で生まれたのであろう音が聞こえてくる。

 だが、今だ室内からは人の反応は見られなかった。

 三人で改めて顔を合わせたところで、かなで先輩が自分を指さしてから、印刷室内を指さす。

 自分が入室してみるという意味だと理解した私は茜ちゃんと目を合わせて、お互いの考えに違いが無いか確かめてから頷いた。

 私たちの反応を見て頷いたかなで先輩は、開けたままにしていたドアに向き直ったところで、中からグレーのスーツに身を包んだ先生らしき男性が顔の覗かせる。

 ビックリしたのか、身体を大きく震わせて硬直してしまったかなで先輩に代わって、私は慌てて口を開いた。

「あ、あの、私たち、演劇部で……台本の複製をお願いしたくて、来たんですが」

 簡潔に用件を口にすると、グレーのスーツ姿の先生は、掌を前に押し出してかなで先輩に下がるように指示を出す。

 かなで先輩は我に返るとドアから手を離して一歩後ろに下がり、スーツの先生は廊下に出てドアを閉めた。

「印刷機は危ないから、まずはここで話を聞きます」

 スーツの先生の発言に頷いた私たちは、改めて新人戦の演目の候補として、過去に使った台本の複製をしたい旨を伝える。

 結果、とんでもないことを失念していたことに気が付くことになった。

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