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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第六章 日常? 非日常?
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先輩と選択と

「あー、良いんじゃ無いかな。若草物語」

 小柄なのに、何故か大きく見える金森先輩がこれからの方針を聞くなり、そう言ってくれた。

「そもそも、上級生に反対する権利はないけどねー」

 かなり砕けたしゃべり方で寺山先輩がツッコミを入れる。

 前髪をきっちり一直線に切りそろえ、日本人形を思わせる雰囲気の寺山先輩から砕けた言葉が出てくるので、もの凄いギャップを感じてしまった。

 腕組みして話を聞いていた菅原先輩が、何かを思い出したように閉じていた目を開いて、副部長である春日先輩に声を掛ける。

「小夜子、若草物語なら、何年か前の台本が残ってなかった?」

「あー、あったね、確か六年前の文化祭公演のヤツ」

 菅原先輩に頷きで応えつつ、春日先輩は部室の奥にある本棚の方に歩き出した。

「え、えっと、まどか先輩。春日先輩と菅原先輩って、これまでの演目を覚えているんですか?」

 思わず近くにいたまどか先輩にそう尋ねると、お姉ちゃんが「ちょっと、凛華、そこはお姉ちゃんにきくところじゃない?」と不満げにこちらを見る。

「ゴメン、お姉ちゃん、まどか先輩が近くにいたから、つい」

 言葉通りまどか先輩を選んだのは一番近くにいた先輩だからだけだったので、そのように伝えるとお姉ちゃんは「あの二人は多分これまでの演劇部の全演目を暗記してるんじゃ無いかしら」と視線を逸らしながら教えてくれた。

 質問したのに、答えを聞かずに終わってしまったことを申し訳なく思ってまどか先輩をチラリと見ると、ウィンクをして気にしてないことを示してくれる。

 そんなタイミングで、ユミリンが「え、この学校って、出来てからもう40年くらい経ってるよね!? 創立40周年だか、45周年がすぐとか聞いた記憶があるし!」と驚きの声を上げた。

 春日先輩は本棚から取り出した小冊子をテーブルの上に置きながら「私は脚本とかの勉強もしているからね。一通り目を通しているのよ、台本」とユミリンの言葉に応える。

 それを聞いたオカルリちゃんが菅原先輩を指さしながら「え、じゃあ、あの先輩は?」と尋ねた。

「あー、一恵は単純に記憶力が良いだけだ」

 まどか先輩の答えに、オカルリちゃんを含めた何人かが「おー」と歓声を上げる。

 対して、菅原先輩は「一応、念のために、勘違いする前に、はっきり言うわね」と、とても知性を感じる落ち着いた視線を私たちに向けた。

 何を言うのだろうと、少し身構えると「私は記憶力は良いけど、頭は良くないからね?」と言い出す。

「はい?」

 思わず声が出てしまった私に、菅原先輩はドキッとするような妖艶な笑みを浮かべて「だから、勉強は出来ないのよ。これでも、赤点の数は誰よりも多いの……なので、勉強は教えられないわ……補習の内容は教えられるけどね」と言い放った。

 言っていることはわかるのに、何故だか脳みそが理解を拒むせいで、上手く耳に下内容を飲み込めない。

「一恵は演技も上手いし、セリフも抜けないし、合気道の達人でもあるから所作は綺麗なんだけど、知力は残念なんだよ」

 まどか先輩の遠慮の無い品評に、菅原先輩は口元を隠しながらコロコロと笑う。

 所作一つ一つが洗練されて見えるのは、合気道の達人故なのだろうか、言われてみれば、最初の演技の時も目を閉じて歩いていたような気がした。

 笑い終えたらしい菅原先輩は、スッと真面目な顔になると「そういうわけで、頼るなら小夜子や良枝にしておきなさいな」と言い切る。

 そんな菅原先輩に、呆れたと言わんばかりの表情で「あんたねぇ」と春日先輩が溜め息を吐き出した。


「新人戦は、基本的に一年と二年の部員だけの出場になるから、詳細については後で話し合おう」

 金森先輩の言葉に私たちは頷きで応えた。

 このまま、詳細の話が始まるかとおもったところで、眼鏡の蔓を押し上げながら松本先輩が、オカルリちゃんを見ながら「それで、そっちの子は、新しい入部希望者なのでしょうか?」と首を傾げる。

 自然と皆の目が自分に向くと、オカルリちゃんは腕組みをして唸りだした。

「オカルリちゃん、どうしたの?」

 思わず聞いてしまった私に、オカルリちゃんは視線を向けると「私はハヤリン……林田凛華さんを観察したいだけなので、入部する予定はなかったんですけど、部室に入らせて貰うのに入部が必要なら入部します」と宣言する。

 これを聞いた金森先輩が「う~~~~~~~~~ん」と真剣な顔で唸りだした。

「はじめ先輩? どうしました?」

 唸りだした金森先輩に千夏ちゃんは心配そうに声を掛ける。

 声を掛けられた金森先輩はパッと表情を切り替えると「いや、凛花ちゃんを餌に部員になって貰うのはなんか違うんじゃ無いかと思って」と唸ったわけを口にした。

 松本先輩は眼鏡に触れながら「じゃあ、仮入部ってことにすれば良いんじゃない?」と言う。

「うちは大所帯で、部員を無理に増やさなくても良いし、そっちのおかさん? るりさん? とりあえず、彼女がこの部室に入り浸るのに問題があるとしたら、部員じゃ無いことだけだから、仮入部にしておけば、良いんじゃない?」

 サラサラと淀みなく言い切った金森先輩は「本気で演劇に興味が出たら入部すれば良いしね」とまとめてしまった。

 完全に圧倒され、パクパクと口を開閉させていた松本先輩は「ソ、ソウデスネ」と抑揚のない声で頷く。

 一方オカルリちゃんは「じゃ、仮入部員でよろしくお願いします!」とニッカリ笑って見せた。

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