感想と暴走
「えっと……史ちゃんは?」
どんな答えが返ってくるのか、ドキドキしながら史ちゃんにも聞いてみた。
すると、思いがけない言葉が返ってくる。
「凛花様の真の姿を見ることが出来ました」
「し、真の姿?」
思わず、史ちゃんが口にしたままを繰り返してしまった。
そんな私に代わって、委員長が「真の姿って、どういう意味かしら?」と聞いてくれる。
史ちゃんがそれに応えるよりも先に、茜ちゃんが「真の姿・・・」と呟いたあと、何かに気付いたかのように「ハッ!?」と声を漏らした。
その声に視線を向けた私と、こちらに振り返った茜ちゃんの視線が交わる。
直後、顔を真っ赤に染めた茜ちゃんが「真の姿って、一糸まとわぬ……」と言い出した。
「ちょっ!?」
真っ赤になった茜ちゃんの顔と発言に、急激に羞恥心を刺激された私は思わず上半身を隠すように腕を胸の前で重ねる。
そのタイミングで、ユミリンが「いっしまとわぬ……」と呟き、千夏ちゃんが「裸って意味よ」とはっきりと口にした。
直後、ユミリンの視線がこちらに向いて、足下から頭の先までゆっくりと視線が動くのが見えてしまう。
ユミリンは、ただ視線を動かしただけで何も言われていないのに、私の体温は更に高くなってしまった。
逆上せそうな体温にふらつきかけたところで、史ちゃんが「確かに、凛花様の生まれたままの姿は美しかったですけど、そうではありません」と言う。
「銀髪で、狐の耳と尻尾が生えていて、巫女さんの白い着物と赤い袴を履いて……」
うっとりとして語る史ちゃんの言葉を聞いて、上がっていた熱が一気に引いていった。
『史ちゃんには、私の神格姿が見えているってことかな?』
私の問い掛けに、リーちゃんは『聞いた話から考えれば、そうなるじゃろうな』と答えた。
『わらわの記録している限りの話ではあるがの、主様が神隠しの容姿をこの世界で言葉にしたことは無いのじゃ』
リーちゃんははっきりとそう断言する。
おかげで、私も史ちゃんが私の神隠しを見抜けたんだと、強く確信することが出来た。
「なんで、キツネなんだ?」
ユミリンの発言に、史ちゃんは「真の姿だからと言う以外に説明できませんね」と言い切った。
相手が、史ちゃんだから、ユミリンは「いや……」と口にしたところで、それ以上口にするのを止める。
代わりに、私に視線を向けて「と、侍女さんはいっておりますが?」と話を振ってきた。
まあ、私のことなんだから、本人に聞くのは実に正しいと思う。
正しいとは思うんだけど、私はどう答えて良いのか、言葉に窮してしまった。
理由はいくつかあるのだけど、一番大きいのは、神格姿に関することは、一般には秘匿することとなっているからである。
ただ、ここは元の世界では無く、推定では『種』が造り上げた過去の世界であるので、制限の外側とも言えた。
とはいえ、私から説明するのはどんな影響が出るかわからないので避けたい。
そう考えていると、オカルリちゃんが「ハヤリンは……狐憑き?」と小さな声で呟いた。
すると、委員長が少し慌てた様子で「待って! 茜、狐憑きって、危ないんじゃ無いの?」と茜ちゃんに問い掛ける。
「確かに、狐憑きは余りいい話を聞かないわぁ」
茜ちゃんの返しに、相談室内に緊張が走った。
が、史ちゃんが「大丈夫です」と明るい声で言い切る。
硬い表情で委員長から放たれた「根拠……は?」という質問に、史ちゃんはサラリと「神々しかったからです」と返した。
これに対して茜ちゃんが「言い難いけど……悪いモノが邪悪な姿をしているとは限らないよ?」と言う。
確かに、古くは神話、新しくはゲームや漫画などでも、邪悪なモノが美しい姿をしているなんて礼は無数にあるのだ。
実家がお寺で、いろんな逸話を知っているだろう茜ちゃんが警戒するのは当然だと思う。
ここで、説明できれば、皆に安心して貰えるかもしれないけど、上手く情報を隠しつつ立ち回る自信が無くてまごまごしている間に、千夏ちゃんが「私は……」と声を上げた。
「凛花ちゃんはどう考えても、悪いモノなわけないと思う」
千夏ちゃんはそう言うと、私の後ろに回り込んで抱き付いてくる。
「ほら、全然、問題ない!」
力一杯主張してくれた千夏ちゃんに「ちょっと待て、チー坊! リンリンに抱き付く必要は無いだろ!」とユミリンが食ってかかった。
「そうです! 凛花様を独占するのは許しませんよ!」
史ちゃんもそう言って参戦してくる。
「あ、こら、リンちゃんがもみくちゃになるから、止めなさい!」
そう言って加代ちゃんも輪に加わった。
「まあ、正直、凛花ちゃんが邪悪なモノって言うのは、考え難いわね」
委員長の発言に、茜ちゃんは「でも、狐さんは、人を惑わすって言うし……ほら、傾国の美女とか」と返した。
「確かに……そこは……」
委員長はそう言いながら、千夏ちゃん、じゃ夜ちゃん、史ちゃん、ユミリンに囲まれている私を見て、改めて「確かに」と頷く。
ここで、ここまで黙っていたオカルリちゃんが口を開いた。
「狐憑きって言って、この状況の切っ掛けを作った私が言うのも何だけど、そもそも、フミキチが見たイメージってだけで、それが、ハヤリンの本性とイコールってワケじゃ無いと思うのだけど?」




