相談室
「まさか、その日のうちに、相談室を抑えてしまうなんて……」
委員長と茜ちゃんの手配で、放課後、私たちは相談室を使えることになった。
演劇部の活動日は、月水金の三日間で、月曜日の今日は活動日だったのだけど、今回相談室を借りた理由が、地域に貢献する文化的なものだったこと、私たちが一年生だったこと、部長であるお姉ちゃんを含めた演劇部の先輩方から許可が得られたなど、いろいろ重なったお陰で今日の部活参加は打ち合わせが終わり次第参加か、お休みということになっている。
ちなみに、部活動にも関係あることということで、演劇部からも一人派遣されてきていた。
「凛花ちゃんの神楽舞い、楽しみなんですよねぇ~」
委員長、茜ちゃん、オカルリちゃんと、いつもと違う三人が加わってるからか、その派遣されてきた千夏ちゃんは少し硬い気がする。
ちなみに、演劇部からはお姉ちゃんも参加したがっていたのだけど、部長が部活を休んで参加するというのは良くないし、妹にかかりっきりもいけないと、まどか先輩に止められてしまった。
というわけで、相談室いる生徒は、私、委員長、茜ちゃん、オカルリちゃん、史ちゃん、加代ちゃん、ユミリン、千夏ちゃんの八人で、もう一人監督役として、先生が同席している。
お爺ちゃん先生こと、社会科の大野先生だ。
「林田さんが、神楽舞いの舞手を神子さん直々に頼まれた話は聞いてますよ」
穏やかな口調で言う大野先生に、私は「えっと、神子さんとお知り合いなんですか?」と尋ねてみた。
「私の自宅が神子さんの本務神社と近くてね。実は幼なじみなんですよ」
委員長に続いて、意外な繋がりにビックリして「そうなんですか!?」とちょっと声が大きくなってしまう。
「昔は彼の実家……彼の神社でよく遊んだものです」
そう言って目を細める大野先生は、どこか悲しそうに見えた。
何かあるんだろうなとは思ったけど、好奇心で聞いていい話にも思えなかったので、ちょっと、話の流れを変える意味で、質問をしてみる。
「それじゃあ、委員長とも氏子さん繋がりとか……」
私が視線を大野先生から委員長にスライドさせると、そのタイミングで目が合った委員長が「あー、お父さんが氏子をやっている神社と、大野先生の近所の神社は違うから、厳密には氏子繋がりでは無いわよ」と首を振った。
「厳密には?」
妙な言い方に首を傾げると、委員長は「夏に御神輿が集まるお祭りがあるでしょ?」と言って人差し指を立てる。
「うん」
私が頷くと、委員長は「そのお祭りの関係で、それぞれの神社の氏子同士で話し合いとかがあるから」と説明してくれた。
「なるほど、確かに厳密には、氏子繋がりじゃないね」
私がそう口にすると、大野先生が「委員長のお家が氏子を務める神社と直接の関係は無いですが、同じ地域に住むものとして、失われ掛けている伝統をどうにか出来るかもしれないとなれば、協力は惜しまないつもりですよ」と言ってくれる。
「ありがとうございます」
委員長がすぐに頭を下げ、少しで遅れたものの、私も「ありがとうございます」と頭を下げた。
そのまま、大野先生の話を聞きながら、神社の神楽舞いについての話になった。
実体験を交えて、概要を大野先生と委員長が語ってくれるので、とても勉強になったのだけど、元々この相談室を手配した切っ掛けに触れられていない。
オカルリちゃんは興味深そうに大野先生と委員長の話を聞いた上で、メモまで取っているので良いのだけど、問題はユミリンだった。
完全に退屈そうな顔をして、少しイライラしてきているようにも見える。
下手に爆発したらどうしようかと思っていると、茜ちゃんが「大野先生」と先生に声を掛けた。
大野先生が自分に振り返ったところで、茜ちゃんは「会議大丈夫ですか?」と尋ねる。
そう言われて視線を上げた大野先生は「ああ、楽しくてつい時間を忘れていましたよ。ありがとう小木曽さん」と言いながら立ち上がった。
「これから少し社会科の教諭で打ち合わせがあるので、少し席を外しますね」
「え、大丈夫ですか……その、生徒だけで……」
思わずそう聞いてしまった私に、大野先生は笑いながら「君たちなら大丈夫だと思っています」と言ってくれる。
その上で「それじゃあ、木元さん。なるべく早く戻りますから、しばらくの間、お任せしますね」と行って相談室の入口へと向かった。
委員長は「はい。先生が戻られるまで、神社の由来やお祭りしている神様のお話をしておきますね」と返す。
「では行ってきます」
ガラッと音を立てて相談室のドアが開かれると、校内の喧噪が流れ込んできた。
「それじゃあ、手早く、話してしまいましょう」
委員長はそう言って私を見た。
「ハヤリン、お願いします」
さっきまで大野先生の話をメモしていたノートをめくって、新しいページを開いたオカルリちゃんは目を輝かせる。
切り替えの早い二人に、戸惑っている間に、好奇心の籠もった瞳は、史ちゃん、加代ちゃん、茜ちゃんと広がっていった。
そんな周りの目の色の変化に、説明が不十分な千夏ちゃんは少し戸惑ってしまっている。
とはいえ、変に勿体ぶって時間切れになるよりはと考えて、私は早速話を始めることにした。




