怖い話大会
「あの、聞いてもいいかな?」
私がそう切り出すと、オカルリちゃんは「なに? なに? 何でも聞いて~」と目を輝かせた。
とりあえず、軽く咳払いをして気持ちを整えてから「オカルリちゃんはオカルトが好きだって言っていたけど、具体的にはどんなジャンルが得意なの?」と尋ねる。
対してオカルリちゃんは「ジャンル?」と首を傾げた。
その反応を見たリーちゃんが『もしや、漠然と不可思議な物が好きという感覚で、細かな分類はしていないのかも知れぬの』と予測を口にする。
なるほどと思いながら、こちらの返しを待っているようなので、軽く説明することにした。
「えーっと、オカルトって、科学で説明できないものってイメージだと思うんだけど……」
オカルリちゃんの反応を確認しながら、ゆっくりと言葉を続ける。
「例えば、個人が持っている超能力……」
何も言わないけど、コクコクと頷いているので、私は更に言葉を続けた。
「透視とか、千里眼とか、瞬間移動、物体浮遊……」
私が項目を挙げる度に、オカルリちゃんは目を輝かせて頷く。
「そう言ったのは好きなの……かな?」
窺うようにそう尋ねると「もちろん好き……出来るなら私も習得したいと思うよ、うん」とオカルリは満面の笑顔で言い切った。
超能力が好きでいつか会得したいという話は聞けたものの、これからの対策、要するに『種』に係わる情報に繋がる内容では無いので、大きく踏み込んでみることにした。
「怪談……みたいなのは、好き?」
「もちろん!」
オカルリちゃんが心から好きというのがわかるほど、声は弾んでいる。
なので、もう少し踏み込んでみることにした。
急に街の噂を聞いても、何故と問われたときに言葉に窮すると思ったので、身近な不思議な話を知りたいという体で進めると決め「それじゃあ、この学校の怪談とかも、知ってる?」と尋ねてみる。
「ほほう。この学校の七不思議とか、興味アリですか?」
なんだか嬉しそうに目を細めるオカルリちゃんに、私は「うん」とだけ答える。
余計な言葉を付け足すとボロが出そうなのもあるけど、主導権を渡してしまいたかった。
その思いが叶ったのか、ユミリンが「え、なに、この学校七つも不思議があるの?」と食いつく。
オカルリちゃんは機嫌良さそうに、もの凄い早口で「世の中には七つ目に、七つ無いのに七不思議とか、八個あるのに七不思議なんてパターンもあるけど、私の調べた限りでは、この学校ではきっちり七つだね」と語った。
「な、なんか、七不思議って全部知ると、不幸に見舞われるとかって、なかったっけ?」
このままだと七不思議が上げられて行くであろう事を見越したらしい加代ちゃんが、不安そうに先手を打つ。
対してオカルリちゃんは「大丈夫だよ」とアッケラカンとした態度で返した。
これに茜ちゃんが「その、心は?」と大丈夫の根拠を問う。
オカルリちゃんは自信のあるといった顔つきで「私知ってるけど、不幸に遭遇してなから!」と言い切った。
「なるほど、それは、もの凄い説得力だわぁ~」
茜ちゃんはコロコロと笑いながら何度も頷く。
「というわけで、このオカルリ様が教えて上げましょう」
胸に手を当ててそう宣言したところで、委員長が「ストップ!」と止めに入った。
「なんでよ」
もの凄く不満そうに頬を膨らませるオカルリちゃんに、委員長は「知っても平気とか、興味があると思ってる子ばっかりじゃ無いから、ちゃんと話を聞きたいかどうか確認してからにしなさい」と告げる。
その指摘に、オカルリちゃんも「たしかに」と素直に受け入れた。
「どうせなら、皆でウチに泊まりに来てやらない? 七不思議とか、百物語とか」
一旦仕切り直そうとなったところで、茜ちゃんが両手を胸の前で下に垂らして、幽霊を想起させるジェスチャーを見せながら、そんな提案をした。
「いつやる?」
参加表明もせず、即座に日程決めに入るオカルリちゃんに、委員長が「そこは参加者を募ってからだろう」と冷静に指摘する。
するとオカルリちゃんは、さも問う前途ばかりに「ハヤリンたちは参加するでしょ?」と聞いてきた。
私としては、まあ、緋馬織での経験もあるし、そもそもオカルト方面から『種』に関する情報を得ようという考えもあるので、参加するつもりではあるけど、加代ちゃんが余り得意じゃ無さそうに見えたので様子を覗う。
加代ちゃんの方も、私の反応が気になったのか、意図せずバチリと視線が交わった。
私を見るなり、覚悟を決めたような表情を浮かべた加代ちゃんは「わ、たしは、タイミングがあれば、いつでも良いよ」と宣言する。
「私も、やるなら参加しようかな」
加代ちゃんに続いて、私がそう言うと、史ちゃん、ユミリン、お百合も参加表明をし出した。
「あの、茜ちゃん、その、皆で泊まりに行って迷惑じゃ無い?」
私がそう尋ねると、茜ちゃんは「むしろ、古いお寺だけど大丈夫?」と聞き返してきた。
平然とオカルリちゃんは「最高の舞台じゃ無い?」と笑む。
委員長も「皆で集まれる場を提供してくれるのは凄く助かる」と続き、私たちがその意見に同意して頷くと、茜ちゃんはなんだか嬉しそうな顔で「じゃあ、私は大歓迎だよぉ」と言ってくれた。




