お部屋訪問
「リンリンはお母さんの作ってくれたお弁当って言ってるけど、リンリンも一緒に作ってくれてるよね」
急にユミリンが、そう話を振ってきたのが切っ掛けで、突然会話が盛り上がり始めた。
「え、なに、ハヤリン、お弁当作ってるの!?」
驚いた顔で聞いてきたオカルリちゃんに、私は「いや、おかずをつめてるだけだよ?」と大して何もしていないことを伝える。
「でも、おじさんに、良枝お姉ちゃんに、自分のに、私のでしょ、結構あるじゃん」
ユミリンが指を折りながら言う度に、茜ちゃんが「おー」と言いながら拍手をし始めた。
「ちょ、ちょっと、茜ちゃん、ユミリンも止めて?」
変な盛り上がりをし始めた二人にストップを掛けると、今度は委員長が「凛花ちゃんとしてはお弁当作りのお手伝いってつもりだろうけど、ちゃんと朝起きて毎日やってるだけで偉いと思うわよ」と言う。
「そうだね、私には出来無い!」
オカルリちゃんが力一杯頷いた。
「で、でも、加代ちゃんは自分で作ってるんじゃ無い?」
話がこちらに向きそうだったので、少し悪いなと思いながら自分でやってそうな加代ちゃんに話を振ってみる。
すると、加代ちゃんは「私? 私はお弁当は作ってないよ」と首を左右に振った。
「夕飯やお菓子作りとかはするけど、朝はお洗濯してるし」
頬を掻きながら、なんだか恥ずかしそうに言う加代ちゃんに、史ちゃんも「まあ、加代は朝苦手ですからね」と言う。
対して加代ちゃんは「朝弱いのは史の方でしょうが!」と加代ちゃんがジト目でツッコミを入れた。
「確かに、この前は史ちゃんとユミリンは起きるの遅かったね」
最近目にしたばかりの二人の寝姿を思い出しながらそう口にすると、茜ちゃんが「ん? んん?」と変な反応をする。
ちょっと、嫌な予感がしたので身が得ながら「な、に、茜ちゃん?」と尋ねた。
すると茜ちゃんは「なんで二人の寝顔を知ってるのかなと思って」と言うので、そんな事かと思い、少し気分が軽くなるのを感じた私は「あ、二人ともウチに泊まりに来たから」と答える。
「え、いいな。私もハヤリンの部屋に入り浸りたい!」
オカルリちゃんがうらやましがるのはわかるけども、内容がおかしいと思ってしまった私は「入り浸るってなに!?」と聞いてしまった。
「ん? ずっとハヤリンの部屋に居座るって意味だよ」
平然と言うオカルリちゃんに「意味はわかるよ。そうじゃなくて、何で、入り浸りたいって話になったの!?」と問い掛ける。
すると、オカルリちゃんは「ハヤリンにはなんだか不思議なオーラを感じるんだけど、その原因がどこにあるのか調査したいなと思って」と真面目な顔で返してきた。
「調査のためには、朝、昼、晩、少なくとも時間経過に寄る変化なんかも観測しないといけないでしょう?」
検証という意味ではもの凄く的を得た考えに、思わず「確かに」と頷いてしまう。
勢いと突飛な発言が印象深かった分、学術的に理に適ったことを言われて驚いたのと同時に、少し感心してしまったのだ。
「じゃあ、今度泊まりに行くね!」
サラリと泊まる宣言をしてきたオカルリちゃんに、私は我に返って、慌ててストップを掛ける。
「ちょっと待って、ストップ」
「ん?」
小首を傾げるオカルリちゃんに「遊びに来て貰うのも良いし、泊まるのもお母さんが良いって言ってくれたら構わないけど、部屋はお姉ちゃんの許可が無いとダメだよ」と伝えた。
ユミリンも腕組みをしながら「リンリンは、良枝お姉ちゃんと同じ部屋を使ってるからな。確かに良枝お姉ちゃんの許可は要るな」と言って頷く。
「うん、わかった。演劇部の林田部長でしょ? 許可貰ってくるね」
言うなり立ち上がったオカルリちゃんが、そのまま飛び出すのは簡単に想像が付いた。
けど、残念ながらその席は向き合わせ担った机を二つ挟んだ向こう側なので、私の手は届かない。
停められないと思った瞬間、オカルリちゃんの両肩には委員長とユミリン、二人の手が乗っていた。
「さすがに、お昼を食べ終えて空にしなさい。凛花ちゃんのお姉さんにも、お姉さんのクラスの人にも迷惑だから」
「だな」
委員長とユミリンの挟撃に、オカルリは思ったよりもあっさりと「それもそうね」と納得して席に座り直す。
席に戻ったオカルリちゃんに、私は「放課後に部活があるから、その時一緒に行こう。私からお姉ちゃんに説明するよ」と提案してみた。
すると、オカルリちゃんはこれまた素直に「じゃあ、そうしようかな」と頷く。
その上で私に向かって「協力してくれてありがとう。ハヤリン」と言って深く頭を下げた。
これで、オカルリちゃんの件は一段落かなと思ったら、今度は委員長が「私も遊びに言っても良いかしら?」といい。
茜ちゃんが「私も遊びに行かせてほしいなぁ」と名乗り出たので、私は「お姉ちゃんとお母さんの許可が出たら……あ、あと、皆のおうちの人の許可が下りたら、私は良いよ」と答えた。
それで納得してくれたらしい。
二人からも感謝の言葉を貰ったところで、お母さんに負担が掛かるかもと、少し申し訳ない気持ちになった。




