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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第六章 日常? 非日常?
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お昼ご飯自由化

「渡辺~、席借りるねー」

 渡辺君の返事を待たずに、そう言って席を奪い取ったのはオカルリちゃんだった。

 午前の授業は四時間、その授業の間にある休み時間には全く近づいてこなかったオカルリちゃんは、満を持したと言わんばかりの態度でお昼に突撃してきたのである。

 一応、お昼ご飯は、自分の所属のクラスで昼食を取るのが基本ルールだ。

 例えば、お昼の放送をする放送委員会や行事直前で準備のある各委員会や生徒会、大会の近い部活動、保健室登校の生徒など、教室以外でのお昼ご飯が許可されるケースもある。

 オカルリちゃんの場合、教室内での食事ルールは守っているので、問題があるとすれば席の強奪という点だ。

 けど、いろいろと悟っているというか、諦めている渡辺君は「べ、弁当と牛乳、と、取るから」と言葉に引っかかりながらも、手早く抱えて離れて行く。

 無理矢理追い出された格好なので「渡辺君、お昼食べる席ある?」と心配で声を掛けた。

「だ、だいじょうぶだ、よ。は、やし、ださん」

 全然大丈夫そうに見えないけど、他の男子が声を掛けてくれて、何か話を交わしだしたので、これ以上はお節介かなと、更に声を掛けるのは止めることにして席に戻る。

 一方、渡辺君の席では史ちゃんが「田中る! 席を奪い取るなんて良くないと思いますけど?」と噛み付いていた。

 対して、田中る、こと、オカルリちゃんは「ちゃんと、渡辺君に断りを入れましたぁ~」と口にした後で、私に振り返って「ね、ハヤリン?」と確認してくる。

 私は「まあ、確かに、結果的に渡辺君は席を譲ってくれたけど、かなり強引だったかなぁ」と返すと、オカルリちゃんは「というわけで、私は適法ですぅ~」と、挑発気味な口ぶりで言い放った。

 なぜ、こう、皆とげとげしているのかと思わなくは無いが、思春期はありがちだなと思うと注意するのも違う気がして、どうしたものかと思ってしまう。

 と、そんな事を考えていると、委員長が「皆聞いてー」と教室の中央で手を叩いて注目を集め始めた。


 皆の目が向いたところで「綾川先生から許可取ったけど、教室内なら、好きに席を交換して良いそうよ」と言い、それを聞いたクラスが盛り上がった。

 ザワつきだした教室を、委員長の「た・だ・し」の三音がピタリと納める。

「喧嘩になったり、揉めたりしたら、授業中の席に戻ること、あと、机の向きを変えたり移動させた場合は、五時間目の授業前に元に戻すこと、五時間目が移動教室でも、体育でも戻さないと駄目。これも出来無かったら自由は無くなります」

 ハキハキとした態度で説明を終えた委員長は最後に「以上!」と締めくくった。

「あ、ちなみに、質問は私に聞きに来てねー。私に言いにくいないようだった場合は綾川先生に直接言って頂戴」

 委員長は追加の情報も添えると、自分のお弁当の包みと牛乳を手に、私たちの方へと歩いてくる。

「というわけで、凛花ちゃんたちと打ち合わせしたいから、席譲って貰って良いかな? 森君、矢野君?」

 渡辺君の前の席の二人に向かって、笑顔で言い放つ委員長に男子二人には、おそらくだけど、頷くしか選択肢は無かった。


「えーと、それじゃあ、お昼にしましょう」

 完全にグループのリーダーに収まった委員長の指示で、私はグループ学習のように、六つの席をくっ付けてそれを囲むことになった。

 元々、自分の席である私とユミリンとお百合、席を強奪された渡辺君、矢野君、森君の席にそれぞれオカルリちゃん、委員長、史ちゃんが座っている。

 その六人に加えて、椅子だけ持ってきた茜ちゃんと加代ちゃんを加えて八人の大所帯になった。

 さらに細かいことを言うと『机は要らない』と言い出したユミリンが、席だけの加代ちゃんと入れ替わっている。

 そんなわけで八人でお昼を食べ始めたのだけど、オカルリちゃんが「あら、ユミキチとハヤリンのお弁当、そっくりというか同じじゃ無い?」と言い出した。

「私のお母さんが、ユミリンのお弁当も作ってるからね」

 問題に発展する前に、私は簡潔にそう説明する。

「そうなの? いいなぁ~、羨ましい」

 オカルリちゃんはそう言ってにっこりと笑った。

 笑顔からは悪意の類いは感じなかったけど、その分、どう対処するのが正解科のヒントも掴めない。

 なので、無難な提案をしてみる「じゃあ、おかず交換する? 皆に食べて貰ったら、お母さん嬉しいと思うし」と提案してみた。


 おかず交換会はビックリするぐらい盛り上がった。

 一応、私とユミリンのお弁当はおかずを含めて同じな上に、量はユミリンの方が多い。

 結果的に交換した数が多いのはユミリンだった。

 私の提案なのに申し訳ないなと思っていたのだけど、ユミリンとしてはいろんなおかずが楽しめて嬉しかったらしい。

 お昼を食べ終えて、お弁当箱を洗っているときに、そう教えてくれた。

 と、そういえば、流しでお弁当箱を洗っていたら、委員長が興味深そうに話しかけてきて、茜ちゃん、史ちゃんと皆にも連鎖して、お弁当の水洗いの列が出来てしまったのがちょっと申し訳ない。

 ちなみに、私と一緒に洗い始めた加代ちゃんは、魚の骨や皮と言ったものを捨てるための紙袋を用意していて、皆から回収していた。

 素直に流石だなぁと感心した私は、明日は自分も盛ってこようと思う。

 自己満足でしか無いのに、こうやって世のお母さん達のお仕事を減らしたら嬉しいななんて思ってしまった。

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