オカルト対策
朝のホームルームを終えると、五分間の休み時間というか、準備時間を挟んで一時間目の授業なのだけど、今日は私の真横にオカルリちゃんが陣取っていた。
私の隣の席の渡辺君は、可哀想に立たされてしまっている。
薄らと消えかかっている京一お父さんの記憶に寄れば、なかなか女子相手に物を言うのはハードルが高いらしく、大人しく様子を覗っているようだ。
なので、思い切って「オカルリちゃん」と話しかけてみる。
「何かしら、ハヤリン?」
大きめな目を輝かせながら、ワクワクという効果音が似合いそうな顔で見返してくるオカルリちゃんの間に、教室のほぼ真反対の場所に席がある史ちゃんが全速力で飛んできて割って入った。
「凛花様に近すぎです!」
頬を膨らませながら怒る史ちゃんに「大丈夫大丈夫、あたし、ハヤリンを同志だとは思っても、恋人とか、お姉様とか、妹とかは思ったりしないから」と何が大丈夫なのかさっぱりわからない事を語る。
が、史ちゃんは、それで納得したのか、呆れたのかはわからないけど、怪訝そうな顔をしたまま、私とオカルリちゃんの間に突入したときに広げていた手を下ろした。
そのタイミングで、オカルリちゃんはニッと笑みを深めて「今のところは!」と、追加の一言を放ち、バッと再び史ちゃんに両手を挙げさせる。
どことなくユミリンに似ているなぁと思っていると、横からその本人が「リンリン、悪いけど、これと一緒にしないで」と完全に私の思考を読み切って苦情を言ってきた。
心を見透かされたことにちょっと驚いたのだけど、オカルリちゃんの「え、ユミキチが、あたしと似ているように、ハヤリンには見えるの? はっ!? もしかして、あたしとユミキチは魂の波動が似てたりするのかな?」とまくし立てるように自分の考えを口に出すのを見て、私は冷静さを取り戻す。
「あの、もうすぐ授業も始まるし、その席の主の渡辺君も困ってるし、お話しはもっと長い休み時間にしない?」
チラチラと渡辺君に視線を向けながら、そう伝えると、オカルリちゃんは首だけでは無く体ごと振り返った。
急に大きな動きをされて戸惑った渡辺君が一歩後ろに下がり、代わりにオカルリちゃんは立ち上がって歩み寄る。
直後、全力でバンバンと渡辺君の肩を叩いたオカルリちゃんは「ごめんね。席取っちゃって! そうか、君、渡辺っていうのかー、ハヤリンに名前覚えて貰えてて幸せだねー」と勢い任せに言い放った。
またなんてリアクションに困る言葉を掛けるんだと思って渡辺君を見れば、顔どころか身体全体を赤に染めてプルプルしてしまっている。
これは、オカルリちゃんにダメ出しをしないといけないだろうかと考えている間に、当の本人は渡辺君に「@これからもちょくちょく席を借りるかもしれないから、よろしくね~。ではまたっ!!」と言いたいことだけ言って去って行ってしまった。
結局、史ちゃんやユミリンを含め、皆が呆然とする中、授業開始を告げるチャイムが鳴り出す。
硬直してしまったのか、身動きを見せない渡辺君に、私は立ち上がって軽く肩を叩いて「渡辺君、授業始まっちゃうよ」と声を掛けた。
すると、渡辺君は私から逃げるように大きく潮路に飛び退いて教室後ろにあるロッカーに激突してしまう。
伊東、見た目は男子と女子とは言え、そこまで激しい拒絶アクションを起こされると、なんだか少し悲しかった。
『案外、何かの助けになるかもしれないのう』
数学の数式を解いていたところで、リーちゃんが急にそう呟いた。
手を止めずに計算の答えを書きながら『どういうこと?』と聞いてみる。
『田中るり』
『オカルリちゃん?』
私がそう聞き返すと、リーちゃんは『うむ』と答えた。
その上で『あの娘の持っているオカルト知識がどのような物かはわからぬが、超常のことについて興味があるなら『種』が係わっている可能性のある事柄にも鼻がきくのでは無いかと思ってな』と言う。
先生に指示された範疇の問題を一通り解き終えたので、確認のためにもう一度、解き直しながら『不思議な事件の情報を集めているかもって事だね?』と聞いた。
『今のところ、主様の周囲で怒っている出来事に、超常と呼べる出来事は見受けられぬ故、アンテナを広げる必要もあるのでは無いかと思うのじゃ』
もっともな意見に私は『うん。確かに』と同意する。
『他にも、神子、小木曽茜、委員長、話が聞けそうな人物はおるが、説明は難しいじゃろ? 一方で、田中るりならばじゃ、勝手に情報を持ってきてくれそうだと思うのじゃ』
リーちゃんの考えを聞いて、特ダネを握って駆けつけてくるオカルリちゃんの姿が簡単に想像できてしまった。
『主様が拒否しなければ、好奇心で寄ってきてくれるじゃろうから、主様をしたっておる周りの皆との軋轢にだけ気を配れば良いと思うのじゃ』
既に、史ちゃん、ユミリンとは軽く衝突しているので、確かに丘瓜ちゃんガチかずいてきてくれるのなら調整は必要だなと思う。
『まどかという手本もおるし、そもそも主様は本来は大人なのじゃから、調整などは容易かろう』
どうしようかと考え始めていたのに、大人のプライドを突いてくるリーちゃんの発言によって、私は受けて立つ以外の選択肢をなくしてしまった。




