連絡とシンテン
神子さんには、お父さんが電話をしてくれた。
どういう結果になるか、ドキドキしながら待っていると、十分くらい経ったところで、お父さんが帰ってくる。
「お父さん」
思わず声を掛けると、お父さんは「待たせたね」と笑顔で答えてくれた。
「凛花にしては珍しく気持ちが急いているようだから、勿体ぶらずに説明しよう」
そう言いながら今の中央のソファにお父さんは腰を下ろす。
「まず、神子さんに凛花や皆がやる気を見せてくれていることを伝えた」
皆を見渡すように視線を向けながらお父さんは説明を続けた。
「神子さんに確認したが、凛華に任せたいという神楽舞いは、本来は複数人で舞うものらしく、皆がやる気であることを伝えたら、是非にと言ってくれたよ」
お父さんの言葉に、私たちは顔を見合わせ、それぞれが嬉しそうなのを確認し合う。
ここで、お父さんが少し声のトーンを変えて「ただ」と口にした。
一瞬で皆の表情に、緊張で引き出された硬さが滲む。
「氏子さん方と話をしてからでないと最終結論は出せないそうだから、まだ決まったわけじゃ無いのは心に留めておいて欲しいと言われたよ」
皆の反応を確認してから、代表して「うん。わかってる」と返すと、お父さんはニッと笑って「神子さんは絶対に説得するから信じてほしいと言っていたからね。彼はきっと話を通してくれると思うよ」と結んだ。
お父さんからの説明によると、氏子さんとの打ち合わせ、氏子会を来週日曜日に設け、その席で私たちのことを伝え承諾を得るそうだ。
もちろんそれまでに、連絡の取れる氏子さんや、これまで神楽を担当されていた家の方とも話を進めるらしい。
もしもその過程で問題が無ければ、更に翌週、再来週の日曜日に、私たちと、氏子の代表者さん、加倉を担当されていた家の方の顔合わせをしたいということだった。
お父さん、お母さんも再来週の顔合わせには参加してくれる。
更に、その顔合わせまでに、必要であれば、皆の保護者の方への説明と協力のお願いもしてくれると申し出てくれた。
「なんだか、今朝起きたときは考えもしなかったことが、スゴく現実味を帯びてきたね」
まどか先輩の言葉に、私は「確かに、神楽をお願いされるなんて思っても無かったです」と頷いた。
「リンリンが、神社の作法に詳しかったからだよね」
ユミリンの言葉に、史ちゃんが「詳しいだけじゃ無くて、所作そのものも美しかったですよ」と言う。
二人の話に興味を持ったお父さんが「ほお、そうなのかい?」と身を乗り出してきてしまった。
お父さんの視線に黙っていることも出来ず、つい「本で読んで……」と返してしまう。
ここで、加代ちゃんが恐らく素直な気持ちでだろうけど「え!? お手本みたいな動きだったから、誰かに習ったのかと思ってたのに、本で勉強したの!?」と声を上げた。
「凛花様なら、本から得た知識だけでも、あのような綺麗な所作になるんです!」
加代ちゃんに対して、何故か自慢げに言う史ちゃんだけど、それで納得出来る人ばかりじゃ無い。
むしろ、史ちゃん以外は疑問に思うんじゃ無いかと、背筋が冷たくなってきた。
上手い言い訳が思い付かずに、前進からプツプツと汗が噴き出したところで、お母さんが「図書館で小さい頃に観た映画が勉強になったんじゃ無いかしら」と言い出す。
不意な発言だったので、自然と皆の視線がお母さんに向かった。
お母さんは皆の視線を笑みで受け止めつつ「図書館の催しで、神社を学ぶって言う記録映画を見たことがあるのよ。ね、凛花?」と行って、私に振る。
内心では心臓がバクバクと暴れていたものの、ここはお母さんの話に乗るいってだと思い「う、うん」と頷いた。
けど、ここでお姉ちゃんが「私、見たことないけど……」と首を傾げる。
私だったらここでボロが出てしまったかもしれないけど、お母さんは凄かった。
「たしか、凛花が幼稚園の頃だったから、良枝は学校に行ってたんじゃ無いかしら」
首を傾げながら、記憶を辿っているような素振りを見せると、お姉ちゃんは「だから、私の記憶にないのかぁ」と納得した様子で頷く。
「きっともの凄く印象に残ったのね。あの時のお手本を見せてくれた巫女さん、スゴく綺麗だったものね」
流れるように言葉を続けるお母さんは、更に「そう言えば、神楽舞いをするなら、凛花や皆も巫女さんの格好をするのかしら?」と言い出した。
「巫女さんの格好って、あの、白と赤の……」
そう口にしながら、お姉ちゃんが私を見る。
お母さんがそのタイミングで「似合いそうよね、凛花に」と囁いた。
お姉ちゃんは無言で頷く。
その流れで確認するようにお母さんが皆を見ていった。
皆と視線を交わし終えたお母さんは更に「皆にも絶対に似合うわね。きっと可愛いわ。学校の制服とは違う、和装でお揃いなんて素敵な思い出になるわね」と声を弾ませる。
その言葉にお互い視線を交わし合った私たちは、多分全員が、なんだか嬉しさとワクワクと、ほんの少しの恥ずかしさの混じった高揚感を味わうことになった。




