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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第五章 想像? 実像?
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神社のシンシ

「うぐ……」

 入れすぎてしまっていたこともあって、千夏ちゃんは持ち替えで躓いてしまっていた。

 どう考えても許容量を超えてしまっている水を減らすしか無いのだけど、千夏ちゃんは汲んだ水を捨てるのが良くないと思っているみたい。

 そこで私は「千夏ちゃん、もうちょっと左手を清めてみたらどうかな?」と提案してみた。

「もうちょ……ああ、うん」

 私の意図に気付いてくれたようで千夏ちゃんは、大きく頷くと、更に左手に水を掛けて総量を減らす。

 その後はスムーズに持ち替えて、右手にも水を落として清めた。

「ん! んぅ!」

 変な声が聞こえてきたので、どうしたのかと思って、声の方を見れば、ユミリンが口を真一文字に結んで唸っている姿が目に入る。

 状況と、様子からして、口に含んだ水をどうするのかと訴えているようだ。

「えーと、濯いだ水は飲んじゃ駄目だよ、穢れを含んでいるからね」

 そう伝えてから「水盤の下の排水口に吐き捨てるか、ハンカチかタオルに含ませるかして」と伝えると、ユミリンはつかつかと水盤に歩み寄って頭を下げて水を吐き出す。

 水を吐き出すこと自体に抵抗がないようで、まどか先輩やお姉ちゃん、史ちゃんや加代ちゃんも口元を隠しながらも吐き出していた。

 唯一千夏ちゃんだけは、ハンカチを口元に当てていたので、私と同じように吐き出さなかったらしい。

 そんな風にお清めを終えた私たちは次いで本殿の前に移動した。


「ここは、特に明言されていないようなので、二礼二拍一礼です」

 周囲を見渡して参拝の仕方について何も明示されていないことを確認してから、皆にそう伝えた。

 ただ、私の説明だけでは上手く伝わってない気がしたので「礼は頭を下げる、拍は手を叩く、二階頭を下げて、パンパンと手を合わせて、最後に一礼です」と伝える。

「お賽銭は?」

 お姉ちゃんが軽い調子で聞いてくるので「最初の二礼の前に入れるのが良いと思うよ」と答えた。

「お願い事は?」

 更にお姉ちゃんが聞いてきたので、最後の一礼の後で頭を下げたまま手を合わせてお祈りすると良いよ」と返す。

 そこまで説明してから「あ、お願い事が終わったら、一度手を離して、立ち去る挨拶としてもう一回頭を下げると丁寧かな」と言い加えた。

「えーと、鈴はいつ?」

 ユミリンがそう尋ねて来たので「神様に気付いて貰うためにならすものだから、絶対にならさなきゃいけないものじゃ無いんだけど……鳴らすならお賽銭を入れる前だね」と説明して、皆が納得したところで揃ってお詣りをする。

 それぞれ参拝を終えたタイミングで、どこからか拍手の音が聞こえてきた。


 拍手の主を見ると、それは白い上衣に浅黄色の袴姿の神職らしき人物だった。

 白髪に僅かに黒いものが混じっているので、見た目よりも若いのかもしれない。

 加代ちゃんが神職らしき人物を見て「あ、神子(かみこ)のおじさん」と口にした。

「久瀬さん、こんにちは。飯野さんも……」

 神子と呼ばれた神職の人物は、加代ちゃん、史ちゃんに挨拶をしたところで、私たちに視線を向ける。

「それから、天野さん……だったね」

 ニコニコとしながらまどか先輩に神子さんは声を掛けた。

「小学生の頃合っただけなのに、よくわかりましたね」

 まどか先輩の言葉に、神子さんは「凄く大人びていたから、自信がありませんでした」と苦笑する。

「他の方は初めましてですよね? 女の子は成長が早くて、もしも既にお会いしたことがあったら許してくださいね」

 もの凄く腰が低い神子さんに、なんだか申し訳なくなってしまって、すぐに初対面ですと言いたくなってしまったものの、この世界では出会っているかもしれないので、踏み止まってお姉ちゃんとユミリンの反応を見た。

 すると、お姉ちゃんは「初めまして、第一中学校の三年生で林田良枝です」と名乗る。

 ユミリンも「一年で根本由美子です」と続いた。

 更に千夏ちゃんも「斎藤千夏です。一年生です」と名乗る。

 完全に置いてけぼりになってしまった私に、神子さんの視線が向いた。

「あ、えっと……お、お姉ちゃんの妹で、一年生で、林田凛花です」

 少し言葉に詰まりながらも、どうにか挨拶をする。

 すると、何度か頷いた神子さんは自分の胸に手を当てて「私はこの辺りの神社を任されている神子庄之介といいます」と名乗った。

 神子さんの名乗りに、千夏ちゃんが「この辺り?」と首を傾げる。

 思わず「複数の神社を管理されてるって事だと思うよ」と耳打ちしてしまった。

 すると、神子さんが「ほぉ」と声を漏らす。

「先ほどの手水の作法もそうですが、神社にお詳しいようですね」

 神子さんが私を見ながら目を細めた。

「い、いや、それほどでも……ないと、思うのですけど……」

 即否定しようと思ったものの、皆の目がそんなこと無いと訴えていて、つい声が弱まってしまう。

「一般の方は複数社を兼務しているなんて、調べないとわからないですよ……林田さんは神職の家系では無いですよね?」

 私の反応が悪いからか、神子さんはお姉ちゃんに質問の矛先を変えた。

 お姉ちゃんが「しんしょく?」と首を傾げるので「神職は、神様の『神』に職業の『職』って書いてね。神社に奉職する人だよ、宮司さんと、禰宜(ねぎ)さんとか……あ、巫女さんとか……」と教える。

「ああ」

 伝わったようでホッとした私に、神子さんが「十分お詳しいですね」と微笑みかけてきた。

 その後で、神子さんは「そんな林田さんに不躾なお願いなのですが……」と言い出す。

「なん、でしょう?」

 何をお願いされるのかわからず、私は思わず警戒心が強めに前に出た反応をしてしまった。

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