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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第五章 想像? 実像?
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手水と手順

 ワクワクする気持ちに背中をもの凄く押されながらも、私は石の鳥居の前で一旦立ち止まって、頭を深く下げた。

 本殿へと続く石畳は、私の記憶にあるものと変わらない。

 違うのは、参道左手にある手水舎が普通に使えることだ。

 竹を使った水道管に開けられた穴から水が飛び出して、下に設置された大きな石で作られた直方体状の水盤に溜まる水に波紋を作っている。

 穴の数に合わせて、木製の柄杓(ひしゃく)が置かれているので、私はそれを手に取る前に、スカートのポケットからハンカチを半分だけ出して、すぐに引き抜ける状態にした。

 その上で、柄杓の柄を取って、水道管から毀れる水を(ごう)に受ける。

 合の半分くらいに水が入ったところで、手元に引き寄せて、左手、柄を持ち替えて右手と水を掛けて清めた。

 改めて柄を持ち替えて、今度は左手の掌に水が溜まるようにして合からの水を受ける。

 口を近づけて、僅かに含んで軽く口を濯いでから、柄杓を元の場所に置き戻して、ポケットから半分出して置いたハンカチを取り出した。

 両手の水を拭ってから、口元にハンカチを当てる。

 口を濯いだ水をこっそりハンカチに移そうとしたところで、皆が私を見ていることに気付いた。

「な、なに!?」

 私はその聖戦に驚いて、思わず声を上げてしまう。

 けど、すぐに反応が返ってくることは無かった。

 皆それぞれが顔を見合わせるようにしたところで、皆を代表してと言った感じでまどか先輩が「いや、多分、皆だと思うけど、ビックリしたんだと思う」と言う。

「ビックリ?」

 何か驚くことがあっただろうかと瞬きをしていると、お姉ちゃんが「いや、凄くスムーズな流れで手を洗ってたから」と手水舎を指さしながら言った。

「え、でも、神社に来て手を清めるのは普通だよね?」

 そう口にしてから、もしかして、この世界の『私』はそういう事が出来無かったんじゃ無いかと閃く。

「確かにそうだけど、順番とか戸惑ったりするじゃない?」

 お姉ちゃんが私の発言に違和感を持っているわけじゃ無さそうなので、内心ホッとしていると、ユミリンが「右からとか左からとか、わからないから周り見て真似してるわ」と言い出した。

「隣町の大きな神社とかだと、看板が立ててあって、清め方が書いてありますよね」

 史ちゃんの言葉に、加代ちゃんが「書いてあるよね」と頷いてから、チラリと私を見て、申し訳なさそうに「その……いつも、確認しちゃうかも」と徐々に声のボリュームを下げる。

 加代ちゃんの態度から見て、作法を覚えてないと、私が気を悪くするんじゃないかという不安を抱いているように見えた。

 なので、慌てて「覚えれば良いんだよ! 基本的な作法はそんなに変わらないから!」と気持ち明るめの声で訴える。

「何も言わずにやってしまったけど、右手で柄杓を持って……」

 私がそう言って説明を始めると、お姉ちゃんが「待って、凛花!」と強めにストップを掛けてきた。

 思わず身体が強張ってしまった私の前に進み出たお姉ちゃんは柄杓の一本を手に取ると「それで、どうすればいいのかしら?」と先を促してくる。

 急なストップにビックリしたものの、即実践したかっただけかと知って、少し表情が引きつってしまった。


 私がお姉ちゃんの行動にビックリしている間に、まどか先輩、史ちゃん、ユミちゃん、ユミリンに千夏ちゃん、全員が柄杓を手にm準備万端と言わんばかりの視線を私へ向けてきた。

 妙なことになったなとは思ったものの、神社での作法は覚えておいて駄目なことではないので、わかりやすく伝えようと心掛ける。

「それじゃあ、柄杓の合……筒状になっているところに、水を注いでください」

 私のことに頷くと各々が水道管の穴から水を溜め始めた。

「この先の部分、名前があったんだ」

「さすが、凛花様、何でも知ってますね」

 加代ちゃんと史ちゃんの会話がもの凄くくすぐったくて、私は少し大きめの声で「水は七割くらいでで良いですよ~」と伝える。

「えっ!?」

 千夏ちゃんが声を上げて顔を青くしているので、どうしたのかと思えば、少し多く入ってしまった……というか、もう目一杯に近く溜まっていた。

「あ、水を手に掛けるときに少なめの方がやりやすいだけなので、ダメって事じゃ無いよ」

 明るめの声で私がそう伝えると、千夏ちゃんはホッとした表情を見せてくれる。

 私もホッとしながら皆の様子を確認して、問題が無さそうなので「次は手を清めていくんですけど、左手に柄杓の水を掛けていきます。皆が使うものなので、柄杓自体には触らないように気をつけてくださいね!」と次の動きを説明した。

「なんで触っちゃダメなの?」

 ユミリンからのストレートな質問に私は「簡単に言うと、この神社の柄杓は新しいですけど、場所によっては古かったりするので、さわるとこわれたりすることがあるみたいなので、常に気をつけておけばいざという時に大丈夫ってこと……かな」と答える。

 本当は衛生面への配慮が一番ではあるけど、この国を震撼させる感染症はこの時代から数十年後に起きる事なので、ピンとこないと思ったのだ。

 なので、少し説得力の弱い説明になってしまったかなと思ったものの、皆それなりに納得して受け入れてくれたみたい。

「それじゃあ、手を清めていきますけど、持ち替えて反対の手、最後に口をすすぐので、水の配分には気をつけてくださいね」

 皆を見渡しつつ、最後の説明を言い加えた。

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