旅と合宿
「うーーーん、気持ちはわかるけど、中学生だけで旅行は難しいよ、姫」
真面目な顔でまどか先輩にそう言われたわたしは、ふと、少し前にお寺がおうちの子に、練習場所としておうちを貸してくれると言われたことを思い出した。
「そういえば、小木曽……茜ちゃんが……」
私の呟きを聞いたユミリンがすぐに「合宿の話?」と聞いてくる。
「う、うん」
ユミリンのスピードにビックリした私は、少し辿々しくなりながらもどうにか頷いた。
その後で、言葉が足りないなと思い言い加える。
「あー、えー、と、旅行は無理でも、合宿は出来るんじゃ無いかなーと、思ったんだけど……」
窺うように皆の様子を探ってみると、お姉ちゃんが瞬きを何回かしてから「凛花、昨日から今日に掛けてのお泊まりが既に合宿みたいなものじゃない?」と言い出した。
確かにと思ってしまった私に、加代ちゃんが笑いながら「じゃあ、今は住んでる街を旅行中ってことになりますね?」と言う。
私もなんだかおかしくなって、笑いながら「まどか先輩、中学生だけでも旅行できちゃいましたよ」と告げた。
まどか先輩もおかしそうに笑いながら「皆スゴイな! 要は考え方次第なんだって、つくづく思ったよ」としきりに頷く。
旅行と言えば、電車やバス、飛行機、あるいは車を乗り継いで遠出するイメージがあったけど、確かに考え方一つでどうにでもなるんだなと深く頷けた。
「現在と未来を見られるなんて、この旅行はなかなか幅が広いわねー」
お姉ちゃんがしみじみというので、皆クスクスと笑い出した。
今お姉ちゃんが行った『現在』は街の散策で、『未来』は駅の模型の事だろう。
そうなると、過去も欲しくなってしまうのが人情というものだ。
どうやらそれは私だけじゃ無かったらしく、史ちゃんが「それでは、芸能の神様の神社をお詣りしますか?」と提案してくれる。
興味深そうに千夏ちゃんが「芸能の神様?」と目を瞬かせた。
「近くに弁財天様を祀ってる神社があるのよ」
お姉ちゃんの説明に、千夏ちゃんは弁財天を知らなかったみたいで「べんざいてん?」と首を傾げる。
一応、お姉ちゃんや史ちゃんが説明してくれそうだったけど、つい「七福神の一柱だよ」と口にしてしまった。
千夏ちゃんの目がこちらに向く。
そして「はしら?」と首を傾げた。
チラリと周りを確認して、説明し出してくれそうな人がいなかったので、引き続き私が引き受けることにする。
「柱って言うのは、神様を数える単位だよ。人間の人とか、本の冊みたいなことだね」
私がそう伝えると、千夏ちゃんは驚いた様子で「「そうなんだ! 神様も、一人、二人だと思ってた!」と口にした。
ついで、まどか先輩が「さすが、姫、博識だねぇ。私も知らなかったよ」と言う。
口が上手くて乗せ上手なので、まどか先輩は私を持ち上げてるだけかもと思ったけど、表情からすると本心の様に思えた。
確かに神様を数えるってなかなか無いから、知らないこともあるのかなと思っていると、ユミリンが「え、じゃ、あれは? お寺のヤツ、神様じゃ無かったよね、確か」と聞いてくる。
流石に言い方が不遜すぎると思ったので「お寺のヤツって、仏様のことでしょ? 流石に失礼だと思うよ」と釘を刺した。
ユミリンは「うっ」と言葉を詰まらせたけど、すぐに「仏様……つい、うっかり忘れてたよ」と困り顔を浮かべる。
これ以上はユミリンを責めることになるなと思った私は、話題を変える意味も込めて答えることにした。
「仏様の場合は、一尊、二尊が多いかな。一仏、二仏って数えたりもするみたい」
ユミリンでは無く、今度は加代ちゃんから「え、そうなんだ!」よいう声が上がる。
私が思わず視線を向けると、加代ちゃんの横にいた史ちゃんが「あの、凛花様。ブツって仏っていう字だと思うんですけど、ソンはどんな字を書くんですか?」と手を挙げながら質問してきた。
「尊いっていう字だよ。尊敬の『ソン』だね」
「なるほど」
私の答えに史ちゃんは深く頷く。
その様子を見ていたら、お姉ちゃんが「はい、凛華先生」と言って手を挙げた。
「は、はい、お姉ちゃん」
少し動揺しながらも発言を促すために指名する。
「仏様って、一体、二体じゃないんですか?」
ふざけてるんだろうと思っていたお姉ちゃんの質問が凄く真面目だったので、ちょっと驚きながらも真剣に答えなければと思い「それは仏像の場合の数え方だね」と答えた。
簡単な説明だけど、それで通じたらしくお姉ちゃんは「あー」と口にしながら何度も頷く。
これで終わりかと思ったら、今度はまどか先輩が「姫って、歴史も出来そうだね」と言い出した。
「いや、数え方……その単位を説明しただけですよ!?」
まどか先輩の話の飛躍に動揺しながらそう返すと、千夏ちゃんが「でも、凛花ちゃん、社会得意だよね?」と言う。
なんだか、このままだと皆から『歴史が得意』と認定されそうだと予感した私は、それを回避するために「待ってください。物の数え方は、国語です!」と告げた。




