移動
「それじゃあ、作るものを相談し合ってから、またきますね!」
流石にノープランで買い物というわけには行かないと思い、改めて出直すことをトシ子さんに伝えた。
「そうだねぇ。流石に何を作るかを決めてないと私も商品を勧められないからねぇ」
そう言って頷いてくれるトシ子さんに、私は騒がしくした後ろめたさもあって「必ず、絶対きますから、その時はよろしくお願いします!」とちょっと強めに訴えてしまう。
すると、トシ子さんは私の手を上下から両手で挟んで「気にしすぎだよ、リンちゃん……そういうところはサッちゃんにそっくりだねぇ」と微笑んだ。
不意打ち気味だったのもあって、頭で理解するのは遅れた一方で、口元はすぐに反応してしまったらしい。
「お、姫、嬉しそうだね」
まどか先輩の指摘で、自分の口元が緩んでる事に気が付いた私は、トシ子さんに握られたのとは反対の手で口元を隠した。
実際の関係性で言うとスゴくややこしいことになっているけど、でも確かに受け継いでるものがあるというのは、繋がりがあるというのは、嬉しかったらしい。
「リンちゃん、お母さんに似てて嬉しいなら、サッちゃんにちゃんと伝えて上げなさい。それだけで母親はもの凄い力になるわ」
私の手を握ったまま、上に重ねた手でポンポンと手の甲を叩くトシ子さんの手は温かかった。
なんだかほっこりした気分でお店を後にした私たちは、すっきり忘れかけていた次の目的地に向かうことになった。
「そういえば、駅の模型を見に行くんだったね」
私の呟きを聞いたまどか先輩が「姫、忘れてたでしょ」と的確に気付いて指摘してくる。
忘れてたのは事実なので、否定せずに「い、いろいろありすぎて」と返した。
「確かに急だったからね」
まどか先輩がどこか申し訳なさそうな顔でそう口にしたので、勧誘の話も合ったのを思い出す。
その思考が表情として出ていたのか、まどか先輩が「ちょっと、姫、私が熱い気持ちで勧誘したのに、忘れないでよ」と冗談ぽく言ってきた。
「いや……」
そこまで口にして、続ける言葉が思い付かなかった私は、諦めて「ごめんなさい」と謝罪する。
まどか先輩は「謝ることじゃないよ」と苦笑した。
「将来のことを考えた時に、姫が思い出してくれたらそれで良いくらいの話だしね」
まどか先輩はパチンと片目を閉じて、これで話は終わりと言いたげにウィンクを決める。
けど、ここで、史ちゃんが「凛花様が音楽学校目指すなら、私も可能な限りお手伝いしますね!」と話しに入ってきた。
想定外のタイミングの発言に、戸惑いながらもどうにか「あ、あり……がと」と答える。
「いえ、従者として当然です!」
そう胸を張る史ちゃんは誇らしげで、正直頭を撫でたくなってしまった。
日曜日と言うこともあって、役場の多くの窓口が閉鎖されていた。
それでも、市民ロビーになっている入口入ってすぐのエントランスは出入り自由だし、併設している役場食堂などはちゃんと営業をしている。
「こっちよ」
役場に入ってからはお姉ちゃんが先頭を切って皆を案内してくれていた。
昔の街の航空写真や、駅が出来た頃の鉄道模型を使った再現など、様々な展示物があって、その奥に新しい駅の模型が展示されている。
ただ、私の知っている元の世界の駅とは、建物の数が違っていた。
リーちゃんからの情報によれば、完成から何度かの改築増築があったらしく、私の頭の中にある駅の姿と違うのはそういう理由らしい。
「えーと、この辺がさっき囲みのあったあたりかしら?」
眉を寄せて顔を模型に柄付けた千夏ちゃんが首を傾げた。
その様子を見て、ユミリンが千夏ちゃんに向かって「いや、それ、反対だろ?」と指摘する。
ほぼ反射といった感じで、千夏ちゃんが「何でよ!?」と強めに抗議するが、ユミリンは冷静に「ほら、ここ」と模型に書かれた文字を指さした。
「大踏切って書いてあるだろう? あ、読める?」
「読めるわよ!」
今にも噛み付きそうな勢いで返す千夏ちゃんに対して、ユミリンは「ここがさっき渡ってきた跨線橋の架かってる踏切だから、こう歩いてきたんだよ」と指さしで順路を説明する。
千夏ちゃんは「そう……いう、こと……ね」と言葉を重ねるうちに沈下していった。
そんな千夏ちゃんとユミリンの一連の様子を見ていたまどか先輩が「ユミくんは、地図を見られる人なんだね」と感心したように言う。
「まあ、リンリンが社会が好きなのもあって、地図とか時刻表とか、よく見てたんで」
この世界では私は地図と時刻表が好きな子だったのかと、ちょっと一句利したものの、私の名前が出たことで皆の視線が私に集まってきてしまった。
何か言わなければいけないという空気に、私は「えっと、いろんなところを見て回りたいなと思って……ほら、旅してみたいとか、思わない?」と皆に振ってみる。
時刻表と地図で思い付いたのは、旅行の行程を想像する事だったのだけど、それほど間違ってないはずだ。
と、思ったのだけど、お姉ちゃんの「凛花は身体があんまり強くなかったからね」という呟きでグンと重みを増してしまう。
一気に重くなってしまった空気に、私は「今は元気になってきたし、皆で旅行しよう、夏休みとか!」と自分でもカラ回ってるなと思うテンションで訴えた。




