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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第五章 想像? 実像?
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思いがけない勧誘

「皆が憧れるなんて、まるでスタァだね」

 そう言いながら目を輝かせるトシ子さんの視線が突き刺さった。

 ある意味で、()()()同年代からのそういう視線には慣れているけど、人生の大先輩から向けられるとなるともの凄く落ち着かない上に恥ずかしくて仕方が無い。

「スタァ、いいね。姫にふさわしいね」

 サラッととんでもないことを言うまどか先輩のお陰で、我に返った私は「それって、目指してるまどか先輩の方が近いと思うんですけど?」と咄嗟に口にすることが出来た。

「もちろん、目指しているし、絶対合格したいと思ってるし、そのために努力はしているけど、だからといって私の方が姫よりも近いに射るところにいるとは限らないよ」

「え?」

「才能……って、言い方は余り好きじゃ無いけど、でも、生まれ持った素質っていうのがあるのは確かだ。思うに、君の人を魅了する能力はとても素晴らしいと思う」

 真面目な顔で言葉を続けるまどか先輩に、私はなにも返すことが出来ない。

 ただ、瞬きをするしかない私に「もし、嫌じゃなかったら、姫も娘役で私と音楽学校を目指さないかい?」とまどか先輩は続けた。

 想像もしていなかった話の流れに戸惑っている間に、お姉ちゃんが「ちょっと、まどか」とまどか先輩と私の間に物理的に割り込んでくる。

「凛花を勝手に巻き込まないで頂戴」

 少し怒った顔のお姉ちゃんに、まどか先輩は真面目な顔を見せて「ゴメン、良枝」と謝った。

 そこで話が終わるのかと思ったら、まどか先輩は「姫……凛花ちゃんには十分な素質があると思うし、それは望んで手に入るものじゃないと思う。だから、姫がちょっとでも興味があるなら、目指してみて欲しいんだ」と言い出す。

「良枝が姫を心配する気持ちもわかるし、芸能の仕事なんて、水物だから、先が見えないし不安も感じるだろうし、想像もしない挫折が待ち受けてるかもしれない。家族が姫を心配して停めるのも頷ける。唆しているように見えるのだって理解できる。でも、だ。私もレッスンを受けている身だから、いろんな受験生……志望者を見ているからこそ言えるんだ。緋目には確かな素質がある……家庭の事情や考えからもあるから、最後は断念することになるかもしれないけど、なにも始めないうちに、姫に諦めて欲しくないんだよ」

 熱の籠もったまどか先輩の言葉はその断言で終わった。

 けど、言葉の余韻が強すぎて、誰も声を発することが出来無くなってしまう。

 そうして、しばらくの間、沈黙が続くことになった。


「ゴメンなさい、トシ子さん。お店のナカデするような話じゃ無かったです」

 最初に我に返ったまどか先輩が、そう言ってトシ子さんに深々と頭を下げた。

 その後、こちらを振り返って「姫も、ゴメン、急に熱が入ってしまって」とどこか悲しげに笑む。

 それだけで、私に出来る何かをして上げたくなるそんなズルイ笑みだった。

「良枝も、ゴメン。急に言うことじゃなかった」

 続いてお姉ちゃんに謝罪をしたまどか先輩に、お姉ちゃんは「級だったけど、ずっと思ってたし、言いたかったんでしょ?」と苦笑しながら問い返す。

「それは……まあ」

 想定外だったのであろうお姉ちゃんの切り返しに、少し戸惑ったようで、まどか先輩にしては歯切れの悪い返事をした。

「凛花を音楽学校に誘う気持ちは変わらないし、撤回する気も無いわけでしょ?」

 更なるお姉ちゃんからの踏み込みに、まどか先輩は「音楽学校に合格したわけでも無いのに、何を言うのかと思うかもしれないけど、姫は本物だと思う……運動神経も頭の良さも素材としての優秀者はピカイチだ。今足りない技術を中学のうちに伸ばせば、かなりの高確率で合格できると思う」と言い切る。

「私は、私は凛花に傷ついてほしくないだけ……夢を見て、そのために努力するって決めたら、私は凛花を応援するわ。例え、お父さんやお母さんが反対しても!」

 私に振り返りながらお姉ちゃんは、強い口調で断言した。

「良枝!」

 お姉ちゃんの言葉を聞いたまどか先輩はパァッと表情を明るくする。

 そして、期待の籠もった目を私に向けて来た。


 まどか先輩に続いて、お姉ちゃんも、トシ子さんも私を見た。

 最初から成り行きを見守る姿勢を取っていた一年生組四人の視線も私に向いている。

 何故こんな状況に追い込まれているのかと、叫びたくなってきた。

 とはいえ、私が何か言わなければ収まらない状況なのは間違いない。

 私は「ふぅーーーー」と長く息を吐き出してから、皆を見渡した。

「まず、将来のことなので、そんな気軽に決められません!」

 そう言い切った私の言葉に、皆それぞれに頷く。

「その上で、まどか先輩の評価は凄く嬉しいし、心配してくれるお姉ちゃんの気持ちも、もし私が決めたら応援してくれるのもすごくありがたいと思う」

 私は一旦そこで話を区切った。

 正直なところ、そんな道には進みませんと断言してしまえば話は終わりになると思うけど、向けられた期待を無碍に出来無い。

 結局、私は「なので、その、演技とか、アイドルとか、いろいろやってみてから、決めても……良いでしょうか?」と言うのが精一杯だった。

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