最初は
私のぬいぐるみ作りの提案は、突飛すぎたのか、皆からのリアクションが全くなかった。
てっきりお裁縫が好きな加代ちゃん当たりは賛成してくれるかと思ったのだけど、全く動きが見えない。
完全にやらかした雰囲気に、焦った私は慌てて言葉を継ぎ足すことにした。
「ほ、ほら、皆、衣装作りとかに興味があったみたいだから……その、自分たちをモデルにしたぬいぐるみ作りとか、練習にもなるし楽しいと思うんだけど……」
実際に緋馬織で衣装作り以外にも、取り組んだ家庭科の課題が、オリジナルのぬいぐるみ作りで、その時はとても盛り上がったし、私自身も楽しかったのである。
時代は違えど、盛り上がるんじゃ無いかト思ったのだけど、私の考えが甘かったのか、皆からは言い反応が得られなかった。
どうにかリカバリーしなければと思うものの、これ以上の打つ手が思い付かず、状況が私を追い詰め始める。
「リンちゃん」
「は、はい」
私の名前を呼んだ加代ちゃんの目が、ギラリと光った気がして、思わず後退ってしまった。
「それって、リンちゃんぬいぐるみを私が作っても良いって事……だよね?」
グイッと顔を近づけながら尋ねてくる加代ちゃんには謎の迫力があったものの、質問が出たと言うことは興味が無いわけじゃ無いのだと、思えたことで気持ちが軽くなった私は気圧されること無く「作ってくれるなら嬉しいよ」と返す。
直後、一気に状況が動いた。
「り、凛花ちゃん。へ、下手かもしれないけど、私もっ! 私も凛花ちゃんぬいぐるみ作っても良いの!?」
鼻息荒く問い掛けてくる千夏ちゃんの勢いに多少たじろいでしまったものの「も、もちろん」と頷く。
次いで、史ちゃんが「大中小と様々なサイズの凛花様ぬいぐるみを作成しても良いと言うことですか?」と聞いてきて、千夏ちゃんがハッとした表情を浮かべた。
千夏ちゃんが何を思い付いたのか聞きたいような聞きたくないような気分にはなったものの、ともかく史ちゃんに対して答えを返す。
「えっと、それは構わないけど……そんなに沢山作っても……」
「何を言ってるんです、凛花様のぬいぐるみを作るのなら妥協したくない資料さんしたいじゃ無いですか!」
「そ、そうかな……?」
「そうですとも!」
迷い無く断言する史ちゃんに、これ以上は何を言っても無意味だと察した私は、とりあえず皆に軽く笑いながら「皆で私のぬいぐるみを作っても意味が……」と言いかけたところで、お姉ちゃんの「それだわ!」という大きめの声で言葉を遮られてしまった。
「うぇっ!?」
思わぬ遮断に驚きの声を上げている間に、お姉ちゃんはとんでもない提案を始めてしまう。
「最初は皆で凛花のぬいぐるみを作りましょう!」
「ちょ、お姉ちゃん!?」
停めようと思ったのに、千夏ちゃんが「そうですね! 私、自身が無いから教えて貰いながら進めるには、同じモチーフが良いと思います!」と言い出してしまった。
思わず、確かに同じモチーフの方が良いなと思ってしまった私の目の前で、千夏ちゃんは「ユミ吉も欲しいでしょ、凛花ちゃんのぬいぐるみ」とユミリンに話を振る。
よりによって、ぶつかり合うことが多いユミリンに、千夏ちゃんが話を振ったことに驚いたのだけど、更にその反応に驚かされることになった。
「ぬいぐるみはそんなに好きってワケじゃ無いけど、リンリンのなら、欲しいかな」
頬を掻きながら少し照れたように言う親友の反応に、不覚にも胸がキュンと高鳴る。
その間に、加代ちゃんが「皆で教え合ったら楽しくなると思うし、リンちゃんがモデルなら、サッちゃんも楽しんで参加してくれそう」と言い出した。
「そうですね。アニメや漫画のキャラクターよりも、目の前に本人がいればモデルにしやすいですしね」
史ちゃんの視線が私に向いて、遅れるように皆の目がこちらに向く。
直後、私の顔を見てナニカに気付いた加代ちゃんがハッとした表情を見せた。
嫌とまではいわないけど、皆で私のぬいぐるみを作るのはどうかと思っていたのを察してくれたんだろうかと思っていると、加代ちゃんは「大丈夫」とポンと胸を叩く。
期待の高鳴るアクションだったけど、加代ちゃんの口から出たのは「サッちゃんの負担になら無いように、メインは私が頑張るから、安心してね、リンちゃん」と言う言葉だった。
気持ちはとっても嬉しいし、優しいなぁと感心はしたけど、そこじゃ無いんだよなぁと思ってしまったのが少し申し訳ない。
「じゃあ、姫のぬいぐるみが沢山作れたら、さっきの真由ちゃんにもあげたらどうかな?」
ここでまどか先輩が決定打となる意見を放り込んできた。
真由ちゃんの話を聞いてしまい交流を持ってしまった今、それを聞いてしまった皆の中で、まずは私のぬいぐるみを作るというのが決定事項になってしまう。
それを察し、リーちゃんに『もう覆らぬじゃろうな』と言われてしまった私に、唯一、出来る抵抗は「み、皆のぬいぐるみも作りたいな!」と訴え、皆の承諾を得ることだけだった。




