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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第五章 想像? 実像?
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姫とアイドルと魔法使い

「りんかちゃんも、好きなの?」

 真由ちゃんが視線を陳列されているウサギやクマの人形に向けながら尋ねて来た。

 私は「可愛いですよね」とだけ答える。

 嫌いなわけでは無いけど、好きと言いたくなかったのもあって、つい答えをぼやかしてしまった。

 それでも真由ちゃんは「うん。真由も可愛いから大好き」と更に笑顔を輝かせる。

 ここで話を切ってもよかったのだけど、加代ちゃんが真由ちゃんに私を『姫』と紹介したのには何か理由がある気がして、もう少し話をしてみることにした。

「真由ちゃんは、どの子が好きなんですか?」

 そう尋ねると、真由ちゃんはすぐに棚を指さして「このウサギの女の子!」と教えてくれる。

「なるほど、可愛い子ですね」

 私がそう言って頷くと、真由ちゃんはなんだか言いたそうに私を見上げてきた。

 何を言いたいんだろうと考えて、私は「なんで好きか聞かせて貰っても良いですか?」と尋ねてみる。

 どうやら、正解を引き当てたようで、真由ちゃんは「うん!」と元気よく頷いてから「あのね」と教えてくれた。


 真由ちゃんの話をまとめると、このシリーズのウサギの女の子には双子の妹がいるようだ。

 そして、真由ちゃんのお母さんは双子を妊娠中らしく、自分を投影しているみたい。

 ただ、双子の出産はとっても大変で、更にリーちゃんの情報によると、この世界の時代では様々なリスクが高いそうだ。

 つまり、普通の妊婦さんよりも母体に掛かる負担が大きく、当然ながら体調管理も大変で、結果的に真由ちゃんにしわ寄せが来てしまっているんだろうと、リーちゃんは予測する。

 だからこそ加代ちゃんが考えた真由ちゃんを励ます方法が、私の『姫』呼ばわりだったんだろうと想像が付いた。

 予測ではないものの、それなりに納得は出来た……けど、このままやられたままというのは面白くない。

「ねぇ、真由ちゃん」

「なに、りんかちゃん?」

 私の呼びかけに、小首を傾げて答える真由ちゃんが可愛いと思えてしまって、ちょっと頭を撫でたい衝動に襲われてしまった。

 いろんな人から、撫でられた経験のある私が、する側の気持ちを知ってしまった……というか、味わえたことがそもそも衝撃だったのだけど、けがのこうみょうというべきか、その衝撃のお陰で衝動に身を任せずに踏み止まる事に成功する。

 真由ちゃんなら嫌がることは無さそうだとは思うけど、今日が初対面なので、節度は大事だと言い聞かせながら、伝えようと思っていたことを声に出した。

「実は、私、加代ちゃんや史ちゃんと同じ中学校に通っているんだけどね」

「うん」

「アイドルグループを、加代ちゃん、史ちゃん、千夏ちゃんと結成して、文化祭で踊ったり歌ったりするの」

 私がそう言うと、真由ちゃんは「ふわああああ」と目を丸くする。

 直後、飛びつくようにして私にしがみつきながら真由ちゃんは「も、もしかして、り、りんかちゃんって、魔法使いなの!?」と聞いてきた。

 何故そこで『魔法使い』と疑問を感じたのだけど、すぐに心強い情報源であるリーちゃんが教えてくれる。

 どうやらこの時期の女児向けのアニメに、小学生の女の子が魔法の力で、様々な職業の人に変身して事件を解決したり、大人の姿に変身してアイドルを務める作品があるようだ。

 共通点の魔法の他に、作品毎に、プリンセスだったり、アイドルだったりといったテーマがあるらしく、真由ちゃんはそれを頭の中で組み合わせたのだと思う。

 お母さんが大変でさみしい思いをしている真由ちゃんの夢を壊さないためにも、ここで私が言うセリフは「皆には、秘密だよ」だった。

 頬を真っ赤にして、ブンブンと首を上下に何度も繰り返す真由ちゃんの動きがあまりにも首に負担が掛かりそうだったので、軽く手を額に当てて動きを抑える。

 撫でてみた衝動があったのもあって、私はそのまま真由ちゃんのおでこを撫でつつ「ありがとう、真由ちゃん」と笑いかけた。


「それじゃあ、真由ちゃん、またね」

 真由ちゃんのお母さんが玩具売り場に帰ってきたので、ここで分かれることになった。

 双子を身ごもっているからか、真由ちゃんのお母さんのお腹はかなり大きくなっていて歩くのも大変そうに見える。

 それでも、真由ちゃんのお父さんであり、優しそうな旦那さんが付き添っているので、大丈夫だと思い私たちはここで一旦分かれることにしたのだ。

 なんだか名残惜しそうに手を振ってくれる真由ちゃんの姿に、寂しさと共にキュンと胸を締め付けられる思いがして、少し大きめに手を振ってしまい、皆からは生暖かい目を向けられた気もするけど、後悔はない。

 真由ちゃんが凄く楽しみにすると言ってくれたアイドルとしてのステージが大きな目標になったことで、自分の気持ちがかなり前向きになったのを感じていた。

 正直、種のことに行き詰まっていた部分もあって、逃避気味かなと思わなくも無いけど、ただ無為に待つよりは何かを目指していた方が良いと思う。

 そう考えて私は「アイドル、頑張ろうね」とメンバーである加代ちゃん、史ちゃん、千夏ちゃんに視線を向けた。

 呆れるでも嫌がるでも無く、皆、笑顔で頷いてくれる。

 皆の反応に満足を感じていた私に、まどか先輩が「劇もあるのを忘れないでよ、姫様」と声を掛けてきた。

「あ、忘れてました」

 素直にそう返すと、まどか先輩は「いいよ。今、思い出してくれたでしょ?」となんだか圧を感じる笑みを浮かべる。

「ちゃ、ちゃんと頑張りますから!」

 慌てつつどうにか返した私の言葉に頷きつつ、まどか先輩が「もちろん、信じてるとも」と言ったところで、誰からとも無く笑いが起こった。

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